芸人のドラマ起用は今に始まったことではないが、作品の顔となり、視聴率や配信再生数を左右する主演となれば話が別。だからこそ主演は、実績十分の俳優や人気沸騰中のアイドルが務め、芸人はアクセントとして起用されるのがセオリーとなってきた。
しかし、今冬は『婚活1000本ノック』(フジテレビ系)の3時のヒロイン・福田麻貴、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジ系)のネプチューン・原田泰造、『春になったら』(カンテレ・フジ系)のとんねるず・木梨憲武が主演に起用されている。
そもそも芸人のドラマ起用には「専業俳優を起用しろ」「なぜ芸人に頼るのか」などの批判がつきものであり、主演であればなおのことだろう。今冬の主演起用には、どんな狙いや背景が考えられるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
専業俳優でも苦労しそうな難役
福田、原田、木梨の演じる主人公に共通しているのは、いずれも難しい役柄であること。
『婚活1000本ノック』で福田が演じるのは、33歳独身の売れない小説家・南綾子。「かつて“クソ男・オブ・ザ・イヤー”の栄冠を与えた幽霊・山田クソ男(八木勇征)を相棒に、幸せをつかむため婚活に励む」という婚活のリアルに幽霊のファンタジーを交えた世界観に挑む。
『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』で原田が演じるのは、まっすぐだがデリカシーに欠け、家庭でも職場でも不快感を抱かせてばかりの沖田誠。沖田はゲイの大学生からのアドバイスを受け、古い価値観や偏見だらけの状態からのアップデートを決意する。原田には「アップデートしそうでなかなかできずにもがく」という繊細な演技が求められ、やはり簡単ではない。
『春になったら』で木梨が演じるのは、余命3か月を宣告された実演販売士・椎名雅彦。さらに「明るく死んでいきたいと思いながらも、3か月後に控えた娘・瞳(奈緒)の結婚に猛反対する」という難しさもあり、微妙に揺れ動く感情を表現しなければいけない。
いずれも芸人ではなく専業俳優でも役作りに苦労しそうな難役と言っていいだろう。そこに制作サイドの期待感がにじみ出ている。
では、なぜ起用されたのか。あらためて制作発表時のプロデューサーによるコメントを見ていくと、その理由がおぼろげに見えてくる。
イメージに近い役柄をオファー
『婚活1000本ノック』の羽鳥健一プロデューサーは「ドラマのリハーサルを重ねれば重ねるほど、ドラマの主役・南綾子が鮮明になっていきました。福田さんの言い回しや動き方によって、台本がうねりと共感を得るものに変化していく喜びを強烈に感じています。監督の提案に対する対応力の高さは半端なしです。映像になったら面白くないはずがありません」
『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』の松本圭右プロデューサーは「不器用だけれど家族を愛し、ダメダメだけれど変わろうと努力する誠を原田さんに演じていただき、誠の行動に時にダメ出しをしながら、時に一緒になってドキドキしていただきながら、中年男のゆるやかな成長物語を視聴者の皆様に楽しんでいただければ幸いです」
『春になったら』の岡光寛子プロデューサーは「ダメ元でオファーしまさか受けていただけるとは思っていなかった木梨憲武さん。いつも誰に対しても自然体で、自由で大胆でチャーミング、そしてモノ作りへの探究心と遊び心が満載。奈緒さんとの組み合わせで、何かミラクルが起こるのではないかと期待に胸が膨らんでいます」
これまで多くのコントを作り、テレビや劇場などで演じてきた芸人に、コメントにある「対応力の高さ」「ミラクルが起きるのではないか」などの期待をかけるのは当然かもしれない。
ただ、それ以前の理由としてあるのが、「よく知っている芸人だからこそ、主人公のキャラクターに当てはめて見やすい」から。専業芸人ではない芸人はパブリックイメージに近い役でオファーされることが多く、実際に“福田と婚活中のアラサー”、“原田とまっすぐだけど古い価値観の中年”、“木梨の余命3か月でも明るく過ごす父親”は、しっくりくるのではないか。