『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』の原作者・練馬ジム(作画担当)も、「主演が原田泰造さんだと聞いたときはすごく驚きましたが、原田さんが主人公の誠を演じている姿がすごくリアルに想像できてうれしかったことを覚えています」などとコメントしていた。「よく知っていてイメージがあるから、どんなドラマになりそうなのかイメージしやすく、第1話から物語にスッと入りやすい」というメリットがある。

また、福田は意気込みを聞かれた際に、「突然主演の話がきて、“自分で大丈夫ですか!?”と非常に不安だったのですが、原作を読んで、主人公の綾子の絶妙なポジションとあまりのリアリティーに“確かに私や…”と思いました。お芝居は素人なので迷惑かけないように修行します!」とコメントしていた。「演じる本人もイメージがしやすい役柄だから主演に挑戦しやすい」というニュアンスがうかがえる。

練馬ジムはさらに、「結構キツいセリフがあるので、それを言っても絶対大丈夫な優しい人がいいっていうイメージだけはずっとあって、不安だな~と思っていたら原田さんと聞いて『大丈夫だ!』と思いました」などともコメントしていた。

この「キツさをやわらげる」「シリアスになりすぎない」という点も、芸人を主演に据えるポイントの1つ。

事実、婚活というテーマを扱うときは、苦い失敗を描いて痛々しくなりやすいが、福田ならそれを和らげられる。引きこもりやハラスメントなどを扱っても、原田が演じることであまりシリアスに見えない。余命3か月でも娘の結婚に猛反対しても、自然体の木梨なら悲壮感や不快感を抱かせすぎずに済む。

彼らの芸人らしい愛きょうや笑いを誘う“間”で作品全体のバランスを整えられるから、主演に起用できるのだろう。

  • 奈緒(左)と木梨憲武=2月5日放送『春になったら』第4話より (C)カンテレ

キャスティングの難易度アップ

最後にもう1つの背景として挙げておかなければいけないのは、近年キャスティングの難しさが増していること。

2010年代終盤あたりから、プロデューサーたちに会うと「キャスティングが難しくなった」「主演クラスはもちろん助演クラスでもスケジュールを押さえづらい」などの声を何度となく聞いてきた。

2020年代に入るとその難しさはコロナ禍で加速し、さらにここ約2年間ドラマ枠が急増したことで拍車がかかっている。コロナ禍では、感染リスクに対応するためにスケジュールの前倒しが行われたこと。さらに年々、有料会員や海外を含めた配信ビジネスにおけるドラマの重要度が増していること。この2点によって各局のシビアなキャスティング合戦が発生し、特に主演・準主演クラスの稼働率が上がっている。

ネット上に「またこの人が主演?」「いつも同じ俳優ばかり」などの声も上がる中、福田、原田、木梨の主演起用はそれだけで差別化できたと言っていいだろう。「差別化できるのに、知名度があって話題性が上がる」という点も含め、さまざまな点で計算が立つことが芸人主演のメリットとなっている。

もちろん一定の演技力がなければ主演を務めることは難しいが、その一方で専業俳優ほどのスキルは求められていない。芸人たちは専業俳優ほどのスキルがなくても、人々にメッセージを伝える表現者としてのスキルは十分。例えば、木梨の発声や表情は時に過剰で「大げさ」「浮いている」などの声も声も上がるが、そんなことを度外視してしまうほどのメッセージ性を感じさせている。

ここまで3作を見る限り、主演起用はハマっているのではないか。そのメリットを踏まえると、今後も芸人の主演起用、特に木梨のような他の俳優との“ダブル主演”という形が増えていきそうなムードが漂っている。さらに、その人選にはプロデュース側のセンスが問われ、視聴者側から厳しい視線が注がれるのではないか。

  • 福田麻貴(左)と八木勇征=1月31日放送『婚活1000本ノック』第3話より (C)フジテレビ