次に競技中継そのものに目を向けると、良くも悪くもこれまでとの変化は感じられない。

“にわか”向けのような放送スタンスは今大会でも継続。競技中継は深夜から早朝のため“にわか”より“コア”の割合が多くなるにもかかわらず、競技前のあおりVTRやスタジオ出演者の高いテンションなど“にわか”向けの要素が散見される。

時差があり“コア”の増える欧米開催では、「もっと競技の醍醐味を味わいたい」「冬季五輪の競技をもっと知りたい」などのニーズに応え、「テレビは変わった」と言われるためにも、そろそろ柔軟性を見せていいのかもしれない。これらの意味ではメダルラッシュの追い風を生かし切れてないように見えてしまう。

もちろんテレビ局としては“にわか”を取り込んで少しでも視聴率を上げたいところだが、時差のある開催国である上に、TVerでほぼ全競技無料配信される現在ではこれまで通りの戦略では限界がある。そもそも五輪などの大型スポーツイベントではNHKと民放各局で組織されたジャパンコンソーシアムでの中継がベースになるだけに、スタジオを含めた放送全体をもっと本物志向に切り換えていいころではないか。

そんな本物志向からの乖離は解説者の人選にも見られる。今大会は競技を問わず主に20・30代の美女アスリートが解説ゲストとしてそろえられ、そのたびにネットメディアが美ぼうをピックアップ。本人に非はないため名前の表記は避けるが、何かとルッキズムの論争が起きる中、時代に逆行するような人選と言っていいかもしれない。

実はこのところ、そんなビジュアル重視は放送業界のトレンドとなっていた。

実際、昨年9月に開催された『東京2025世界陸上』に出場した美女アスリートたちが終了後から現在までバラエティでの出演が相次いでいる。これは民放各局の制作サイドにとって彼女たちは他のタレントより費用対効果が高いということだろう。ゴールデンタイムの番組で若手俳優やアイドルのゲスト出演を求める動きが広がっていることも含めて、ビジュアル重視の戦略があるのは間違いない。

しかし、それが五輪のゲスト出演にもこれほど広がったことに驚かされる。PRの手段としてはアリだろうが、競技の醍醐味とは必ずしも一致しない人選であり、今大会の放送を象徴するトピックスと言っていいのではないか。

変わらない放送と充実する配信

一方、配信ではTVerが冬季五輪としては単独初となる“ほぼ全競技”をカバーするなど、コンテンツ全体が充実している。

各競技の「ライブ配信」に加えて「新着ハイライト」「急上昇ランキング」「メダル速報」「競技解説」などのトピックスが豊富。さらに「日程」「競技一覧」「注目の選手」などを選んで関連動画を検索できるなどユーザビリティもよく、効率的に見ることができる。

また、朝になってからリアルタイム風で見ることも可能であり、当然ながら録画予約などの手間も不要。さまざまな点で“にわか”にも“コア”にも対応している。TVerはすでに2024年のパリ夏季五輪でコンテンツ総再生数1億1000万を超えていたが、今大会でさらに五輪視聴のスタンダードとして定着したのではないか。

最後に冬季五輪そのものにふれておくと、ほとんど時差のない平昌や北京では多くのメダルを獲得したが、はたして日本の人々に「盛り上がった」という実感が残っているだろうか。もしその実感が薄いのであれば、盛り上がりが開催中の瞬間風速的なものに留まったからだろう。事実、終了後も各競技の盛り上がりが継続したという印象は薄く、夏季五輪のようにアスリートが情報番組やバラエティを席巻する現象も起きていない。

多くの視聴者にとってなじみ深い競技がない冬季五輪は「日本人選手がメダルを獲れるかどうか」の“にわか”向けのみではその後の関心につながりづらい。競技の醍醐味はもちろん一歩進んだ技術解説、外国人選手の魅力、シーズン全体の面白さなど多角的に伝えるような放送・配信を期待したいところだ。

たとえば理想論ではあるが、いくつかの競技は“にわか”向け、“そこそこ”向け、“マニア”向けの3つ実況・解説があってもいいのかもしれない。あるいはスマホでアクセスできる技術解説や選手のキャラクター紹介などがあっていいかもしれない。その内容はどうあれ、難しさこそあれ、そろそろ進化してほしい時期に見える。

日本人にとってのメジャースポーツである3月のWBC、6月のサッカーワールドカップは、よほどの早期敗退がない限り、ミラノ・コルティナ五輪以上の盛り上がりを見せ、そのままシーズンの活況につながっていくだろう。もちろんこのままメダル獲得数が増えるほど、野球とサッカーにとっての追い風となっていくはずだ。