では昨年、ワールドシリーズの地上波放送を担当したフジテレビはどうだったのか。
フジはロサンゼルス・ドジャースがニューヨーク・ヤンキースを4勝1敗で下した昨年のワールドシリーズ全5試合を朝から昼にかけて生放送。さらにゴールデンタイム(第3戦のみ夕方)でダイジェスト版を再放送した。
ただ、今年もそうだったが、ワールドシリーズと日本シリーズの日程がまったく同じため、前者の再放送が後者の生放送とバッティング。「これを問題視したNPBがフジの取材パスを回収する」という事態を招いた。さらに公正取引委員会が「独占禁止法違反(不公正な取引方法・競争者に対する取引妨害)の恐れがある」としてNPBに再発防止を求める警告を発出したことは記憶に新しいところだ。
一方、今年のNHKはゴールデンタイムでの再放送はせず、深夜帯で1時間のハイライト番組を放送したのみ。フジのように「視聴率狙いの再放送はしない」という姿勢は、レギュラー番組を守る上で適切なのか、それともニーズに応えられていないのか、賛否が分かれるところだろう。
来年以降、民放でワールドシリーズが放送されるとき、どのような決断が下されるのか。もちろん規格外のスター・大谷が所属するドジャースが勝ち上がるか。また、他の日本人選手所属チームや来春のWBCがどの程度盛り上がるかなども、全試合生放送+ゴールデンタイムでの再放送などを左右するはずだ。今オフは東京ヤクルトスワローズ・村上宗隆、読売ジャイアンツ・岡本和真、埼玉西武ライオンズ・今井達也らの多くの選手がメジャーリーグ挑戦を目指しているだけに、全30チーム中12チームが挑むポストシーズンに出場する日本人選手が増えそうなことも何らかの影響を与えるかもしれない。
さらに、ワールドシリーズに至るワイルドカードシリーズ、ディビジョンシリーズ、リーグチャンピオンシップシリーズの民放放送はまだほとんどないが、日本人選手の出場が増えるのなら、各局にとってはチャンスとなりうるだろう。いずれにしても、もし放映権料などの点で後手を踏むようなら、ポストシーズンの試合も有料動画配信サービスで見る人が増え、そのチャンスを逸することになっていくのではないか。
全国放送の意義が薄れていくNPB
最後に日本シリーズの中継についても言及しておこう。
NPBは00年代から10年代にかけて、「日本全国で盛り上がるスポーツ」から「チームのある地域で盛り上がるスポーツ」という立ち位置に移行した感があった。日本人の地域密着志向が進んだことに加えて、全試合・全イニングの放送、好きな時間に疑似リアルタイムで見られるなどのメリットから、地上波ではなく配信での視聴を望む人が多くを占めている。
そのため、NPB最高のコンテンツであるオールスターや日本シリーズを地上波で放送したところで高視聴率を獲得することは難しい。事実、今年は阪神タイガースvs福岡ソフトバンクホークスというファンの数が最も多そうなカードが実現したにもかかわらず、視聴率が高かったのは両チームの地元だけ。全国的には朝から昼にかけて放送されたワールドシリーズの視聴率に遠く及ばなかった。コアなファンたちは日本シリーズをレギュラーシーズンと同じように配信で見ていた可能性は高いが、テレビ放送を見る一般層を引き込むようなコンテンツではなくなったように見えてしまう。
それを裏付けているのは、報道・情報番組でほぼワールドシリーズしか扱われないこと。大谷、山本、佐々木のそろうドジャースは、競技を問わず国別対抗の世界大会が好きな日本人にとっての日本代表戦と同じような存在となっている。だからこそ返す返すも来春WBCの放映権をNetflixに奪われたことは痛恨だったのではないか。
もしこれが当たり前のことになっていくと、野球というスポーツが地上波の全国放送から消えてしまうのかもしれない。その意味で最後の砦になり得るのは視聴率やスポンサーのしがらみが少ないNHKであり、NPBとしてはこれまで以上に良好な関係性を築いていくことが重要だろう。