しかし、00年代に入ってからジワジワと特番編成が増えていき、通常編成が減り始める。さらに10年代に入ると、視聴率争いでトップの日本テレビを追うテレビ朝日が連日の特番編成で一定の結果を出したことから他局が追随。「毎日特番だらけで1時間番組のほうが少ない」「いつ何が放送されているのか分からない」という状態に陥ってしまった。

本来、特番は「特別」「豪華」なもので、増えてもそのイメージをキープできていればよかったのだが、残念ながら視聴者の印象は「1時間のときと内容がほぼ同じで、2~3時間に延ばして放送しているだけ」「2つの番組を名前だけ合体させて特番のように見せかけている」。「特番の乱発」という編成戦略自体が通用しなくなっていた。

また、放送の視聴率だけでなく、配信再生数も視野に入れなければいけない今、2~3時間の特番編成は、その長さが不利になりやすい。数秒から数分の動画コンテンツに慣れた人が多い現在、配信視聴させるなら「長くても1時間まで」が現実的なところだろう。実際、配信再生数ランキングの上位を独占しているドラマは基本的に1時間か30分間のどちらかで放送されている。

現在ゴールデンタイム(19~22時)で放送されている番組は、フジテレビの月曜21時台、テレビ朝日の火曜21時台、テレビ東京の金曜20時台、TBSの日曜21時台にドラマ枠が4つある以外はすべてバラエティ。つまり、どの局もほとんどの曜日でバラエティを3時間まるごと放送しているのだが、「本気で毎週コンスタントに自局の番組を3時間見てもらいたいのなら、特番編成より通常編成のほうが見やすいだろう」と考えるのが自然ではないか。

「バラエティが最も元気だった」と言われる80年・90年代は通常編成で放送され、番組終了時には視聴者に「もう終わっちゃった」「もっと見たい」「来週が待ち切れない」などと思わせることができていた。「好きなときに好きな場所で好きなデバイスで見る」という配信視聴が一般化した現在でも、毎週コンスタントに1時間の通常放送を続けることで、初めて同じように思わせられるのかもしれない。

■短尺化はアリだが長尺化はナシ

そもそも特番編成がエスカレートしたのは、急激に下がり始めた視聴率対策や予算の削減など内向きの背景があった。言わば、「目先の視聴率を確保するために自分たちで乱してしまったかつての番組表を少しずつ戻そうとしている」だけなのだろう。

もしフジテレビ、TBS、日本テレビを中心に民放キー局がかつての番組表に回帰しているのなら、もっともっと戻したほうがいいのではないか。例えば、かつて18・19時台には30分間・15分間のバラエティ、ドラマ、アニメを放送する若年層向けの枠が多数あった。

若年層にはテレビ番組を倍速視聴する人が少なくないことからも、「特番より1時間、1時間より30分間・15分間のほうが見やすいかもしれない」という仮説が成立する。予算や人員などの点で簡単ではないだろうが、こんな幅の広い編成もテレビが愛されていた理由のひとつだ。つまり、「テレビは短尺化するのはアリだが、長尺化はナシ」なのかもしれない。

ともあれ、通常編成にこれといったデメリットは見当たらないだけに、まずは乱れてしまった番組表を戻すこと。配信視聴の人にとっても開始と終了の時刻に関わることだけに、「毎週○曜日の○時はこの番組」というイメージづけができるのではないか。ひいてはそれを「毎週この番組を楽しみにしている」という期待感につなげていきたいところだ。

「テレビはユーザビリティでネットに劣る」と言われがちなだけに、内容の面白さで上回るのはもちろんのこと、視聴者にとって最低限の見やすさは整えるべきだろう。

  • ヤギと大悟(千鳥)が“雑草モグモグ旅”を繰り広げるテレビ東京『ヤギと大悟』(毎週金曜19:25~)は、今や珍しいゴールデンタイムの30分番組=写真は、千葉県長柄町をロケする6月9日の放送より (C)テレビ東京