テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が「経理業務のDX化」について解説します。
現在、あらゆる所で「DX化」という言葉を耳にします。そのなかで、「経理業務のDX化」も注目されるトピックとなっています。前回、私の連載で記載した電子帳簿保存も、経理業務のDX化を推し進めるポイントのひとつです。
経理業務のDX化にあたり、論点となるのが"紙の書類をいかに電子化するか"ということ。電子データはそのまま保存すればよいですが、紙の領収書はスキャンして電子データ化する必要があります。
しかし、紙の電子化を考えるよりも、まずやるべき重要なことがあります。それは最適な「業務フロー」を作成すること。業務フローとは、現場で行っている業務のプロセスを可視化するために作成するフロー図(フローチャート)で、業務プロセスを見える化し、誰にでも分かりやすくするためのツールです。会社の業務改善を進める際、現場業務の分析や課題の洗い出しにも利用されます。
業務フローを作成していない会社がほとんど
上場企業の場合、内部統制において業務フローは重要な項目のひとつです。内部統制の構築が義務化されており、監査法人の監査を受けるため、業務フローの作成は必須となっています。しかし、未上場かつ上場を目指していない会社の場合、この業務フローを作成しているところはごく少数だと感じます。
経理業務のDX化を成功させるためには、この業務フローの作成は必須と言えます。一例として、紙の領収書を電子化する業務フローを見てみましょう。
例)紙の領収書を電子化するフロー
取引の発生→紙で領収書を受け取る→経理部に郵送→経理部は紙の領収書を元に仕訳計上→「領収書をスキャンしてデータ化」→紙とデータの両方を保存
上記のような流れの場合、データ化するための無駄な工数が増えています。「このようなことは生じないだろう」と感じる人も多いかもしれませんが、意外にもこういったことが実際の業務では生じるもの。そして結局、無駄に気付き、また紙のみのやり方に戻るケースもあります。
経理業務は現場と密接に関係している
上記の場合、問題点はどこにあるのでしょうか? 最初の「取引の発生→紙で領収書を受け取る」という箇所を「紙で受け取っている領収書を電子データに変えてもらう→担当者と経理に送ってもらう」とできれば、データ化の工数は増えませんク。このような改善をするためにも、まずは紙で受け取っている領収書の取引先がどれほどあるか洗い出しましょう。
この洗い出す作業は結構大変で、実施しないという会社も多いかもしれません。ですが根本の要因を見つけるためには、現状の業務のやり方を可視化し、業務課題をどう改善するか、現状の把握が重要です。
また、このときに起こりがちな事例が"経理業務だけ"見た目上のDX化を行ってしまうことです。バックオフィスの経理は、経理業務単独で見られることが多いですが、実は会社の取引のほぼ全てと繋がっており現場と密接に関連した業務です。そのためDX化を行う際は、現場で生じた取引がどのようなプロセスを経て経理に繋がっていくか、また全体の過程を把握した上でどうDX化するか、という意識がなければ成功しません。
経理業務のDX化をしたい場合、まず最初に経理と現場、そしてその間で関係する人も含めてコミュニケーションを図り、業務フローを作成しましょう。その後、どのようにDX化するかを話し合い、全体のプロセスを変更するやり方が有効です。会社全体として意識を持って取り組むことであり、皆で作り上げようという意識が重要です。そのような姿勢で取り組めば、経理のDX化と思って始めたことが、ゆくゆくは会社全体の業務のDX化に繋がっていく効果も生じるはずです。