テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏が、「スタートアップやベンチャー企業が起業時に法律で失敗するケース」について解説します。
スタートアップやベンチャー企業は、どんなことで失敗するのか
私は弁護士として、たくさんのスタートアップやベンチャー企業の相談を受けています。そのような中で、会社の起ち上げ時期に、制度設計を失敗したせいで、ビジネスで苦労することになるスタートアップやベンチャー企業をたくさんみてきました。
そこで、今回は、スタートアップやベンチャー企業が、起業時に失敗するケース5選をみていきます。
1.設立時の発行株式数が少なすぎる
設立当初は株主が少ないゆえに「100株くらいの発行で全ての株主に行き渡るからいいだろう」と考えがちで、そんなケースを少なからず見てきました。
しかし、ベンチャーは成長にしたがい資金調達を株式発行により行ったり、ストックオプション発行を行ったりすることが一般的です。
たとえば、100株のみの発行だと、以下のような問題が起こります。ベンチャーキャピタルの持株比率を細かく設定できない発行済株式総数の1%分以上でしか従業員にストックオプションを付与できないなどの事態が生じます。
株式数を増やすためには、株式分割をするという方法もあります。しかし、株式分割をするには株主総会や登記手続が必要となり、余計なお金と時間がかかってしまいます。そのため、設立当初から株式の数をある程度多めにしておくといいでしょう。
2.創業者の持株比率の設定での失敗
複数の友人で創業し、同じ数の株式を持つのは、典型的な失敗例の1つです。創業メンバー全員が同数の株式を所持することは普通のように感じられるかもしれませんが、このことで円滑な意思決定が難しくなってしまうことがあります。
投資契約等の当事者となる代表者は通常株式を売却できない上に、様々な制約が課されます。そのため、その責任に見合うだけの株式を代表者が多く持つことは不公平ではありません。
さらに代表者は通常株式を売却することが難しいため、上場時などの安全株主対策として株式を代表者に集中させておくと良いでしょう。
加えて創業メンバーの持株比率は大きいので、創業メンバーのうち、誰かが抜けた場合に残るメンバーに株式を譲渡するように、創業者株主聞契約を結ぶのがいいでしょう。
3.初期に株式を第三者に多く割り当ててしまう
これはやってしまいがちですが、下手をすると致命傷となってしまう問題です。単独で決定できる内容が持株比率によって変わったり、持株比率の低下と引き換えにベンチャーでは多くの資金を調達したり、重要な人材を採用するためにストックオプションを発行することが一般的なため、起業家にとって株式の持株比率というのはきわめて重要なものです。
一度、株式を与えてしまうと後から譲渡してもらうことは、非常に困難です。第三者に株式を譲渡する場合には、慎重にするようにしましょう。
4.最初の資金調達の際にしっかり条件交渉をしない
資金調達をVCや事業会社等からする場合、投資契約(投資についての条件を定めるもの)や株主間契約の締結を求められるのが一般的です。
また、最近では、優先株式(種類株式)による資金調達も、かなり普及してきています。基本的に投資契約などは起業家に対し様々な義務を課すことになるため、ちゃんとリーガルチェックをするべきものです。
しかし、リーガルチェックなしで最初の資金調達の投資契約等を結び資金調達が行われている例を少なからず見かけますが、これはとても危険な行為です。
VCや事業会社等は一般的に投資契約書等のひな型を用意しており、資金調達の際にそのままひな型が提示されることもありますが、それを自社として受け入れてよいかは慎重に検討しなければなりません。 当たり前ですが、当該契約書は、VCや事業会社に有利なように作成されています。本当に自社にとって、大丈夫な条件かは、よく確認する必要があるのです。
5.ストックオプションの発行での失敗
豊富な資金がないベンチャーにとって、ストックオプションは採用のための強力な武器となります。
ジョインした時期や付与された個数によっては、従業員でも億単位の金銭を受け取ることが可能な場合あり、現金で支払う給与額では採用できないような優秀な人材を採用するための手段の1つとなります。しかし、ストックオプションもむやみに与えてしまうと、後々の資金調達に響いてきます。また大した仕事もせず成果も出していないのに、ストックオプションを要求してくる人もいます。企業の成長に併せて、ストックオプションの発行も慎重に検討しましょう。