テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。
今回は、業務可視化組織改善ツールを提供するQasee代表取締役CEO村田敦氏が、スタートアップ起業家が必ず意識するべき3つのマインドについてお話します。
以前より、働き方改革の観点から働き方の多様化は進められていましたが、新型コロナウイルスの影響により、その流れが急速に進んだ印象があります。めまぐるしく変わる情勢にとまどいを覚える方も多いのではないでしょうか。今回は、その働き方の多様化の中でも、スタートアップの起業に焦点を当て、成功しているスタートアップに共通する、スタートアップを起業する際、意識するべき3つのマインドについてご紹介します。
焦りすぎない
スタートアップ企業の最大の武器は、意思決定の速さであることは言うまでもありません。
事業やサービスの方向性を決める意思決定は、大企業と比べると遥かに早く、またそのスピード感が事業の勝敗を決めると言っても過言ではありません。他社を寄せ付けない圧倒的なスピード感を持った意思決定で、いかにして早期に参入障壁を築いていけるのか、これは、どのスタートアップ企業でも共通して言えることだと思います。
多くのスタートアップ企業が、このスピード感を意識して、プロダクト開発に取り組み、できる限りローンチを前倒しできるように突っ走るのですが、ここにひとつ大きな落とし穴が。
スタートアップ企業は、事業をスタートしたその日からキャッシュアウトへのカウントダウンが始まっています。そのために早くサービスやプロダクトを世に出すために、焦ってしまうのも分かります。
ですが、そのサービスやプロダクトが世の中に受け入れられるのか、本当に収益化できるのかは、プロダクトが出来てからでしか分からないというのでは遅いのです。
万が一、完成したプロダクトが世の中に受け入れられず、収益化出来なければスタートアップではその時点で終了です。起業家がそのサービスやプロダクトに思い入れや愛着があり、これならいける! となるのももちろん分かるのですが、最も時間がとられる開発については後回しする勇気も必要なのです。
一度冷静になり、本当にこれが世の中にとって、なくてはならないサービスになりえるのか。本当に収益化できるか、ターゲットからのフィードバックから考察する必要があるといえます。
協力者(仲間)を常に探す姿勢
スタートアップの起業は、多くのケースで、仲間集めに苦戦することが多いということを認識する必要があると言えます。特に創業当社は、実績もなく、成功するかも分からない事業を始めるわけですから、それに賛同し協力してくれる仲間を見つけるのも容易ではありません。ましてやフルタイムでの転職を求める場合には、その仲間も人生を賭けたチャレンジになります。
当然ながら、そのことを理解し、常に優秀な人を見つけられるように動き、サービスや起業家自身をアピールし、まずは身近な人にファンになって貰い協力を仰いでいくということがなによりも重要です。
スタートアップ企業でなくても、今の日本は、労働者人口の不足で、採用コストは年々上昇しており、優秀な人材を確保することは容易ではないのです。お金も実績もないスタートアップの経営者が、いかにすれば仲間を集めていけるか、これはサービス(プロダクト)に力をいれるのと同じくらいの労力をかけていかなければなりません。
真似されることを恐れすぎない
スタートアップがサービスを開発していく際に、ステルスモードで開発を進めるという考え方があります。 ステルスモードとは、文字通り人の目に触れない状態、察知されない状態のことで、シリコンバレーでは主に「自社のサービスや製品を外部に公表しないまま事業を進める」ことを指します。
ステルスモードの利点としては、 以下の3つが挙げられます。
- ライバル企業にアイデアを盗まれない
- 市場の育成を誰にも邪魔されることなく進められる
- 世間の目をきにすることなくサービスの開発に注力できる
一見するとステルスモードでのサービス開発は良さそうにも見えるのですが、一方でデメリットも存在するということを認識しなければなりません。
そのひとつは、「どういったサービスなのか詳細な概要を求人等にも載せられず、採用に苦戦しやすい」ということです。前段の項目でも記載していますが、特にスタートアップ企業は、採用には苦戦します。ステルスモードでさらに苦戦を敷いられてしまう可能性があるといえます。
またもうひとつのデメリットとして、「メディア露出や広告宣伝ができないことによる、初期ユーザーの仮説検証の母数を確保しづらい」ということもあります。
もちろん、メディア露出や広告宣伝がなくても、もともとの知人等の経由からターゲットを探し、仮説検証を行っていくという方法もありますが、十分に仮説検証を行う母数を確保するのが困難だったり、また知人経由であるがゆえ、バイアスがかかってしまい、実は、サービスに致命的な欠陥があるにもかかわらず、それを伝えてもらえず、結果的にPMF(プロダクトマーケットフィット ※提供しているサービスや商品が、顧客の課題を解決できる適切な市場で受け入れられている状態のこと)できず、その間に資金がショートしまうということもありえます。
往々にして、起案した事業が画期的で、これならいけると起業家自身が思い込んでしまい、他社に真似されたくないという一心でステルスモードで開発をすすめるというケースが、結果的に起業家自身の首を締める可能性があるということを理解しなければなりません。
このように、スタートアップでの起業は、ヒト(採用)・モノ(プロダクト/サービス)・カネ(戦略)の3つのマインドを特に意識するということが重要であるといえます。