モバイル業界で革命的なヒットを記録している「モンスターストライク」。このゲームの開発を手掛けたのは、SNS「mixi」で知られる株式会社ミクシィだ。なぜ同社がゲーム開発の分野で記録的な大ヒットを飛ばせたのか、その戦略についてエックスフラッグスタジオ総監督兼モンスターストライクプロデューサーである木村弘毅氏に話を聞いた。
木村 弘毅 |
ユーザーの熱量を皆でイメージして開発
――「モンスターストライク」というプロジェクトがスタートしたいきさつを教えてください
実は、「モンスターストライク」の前に手掛けていたプロジェクトから、すでにリアルタイムコミュニケーションを追求したサービスを設計していました。純粋なバトルゲームではなく、コミュニケーションツールに沿ったものです。
残念ながらそのプロジェクトは諸事情があって閉じることになったのですが、そのあと「もうちょっと外連味たっぷりの、ザ・ゲームというものに焦点を当てよう」という声が上がってきた。ユーザーがワイワイ、キャアキャア言いながら一緒に遊べる、アドレナリン全開のエンターテインメントに振り切ってしまおうという発想でした。
――なぜその発想がでてきたのでしょう?
ユーザーの熱量を皆でイメージしていたことで、発想が出てきました。アドレナリン全開系のものならば、プリミティブなコミュニケーションゲームより熱量が上がるんじゃないかというイメージを共有していたのですね。
「モンスターストライク」だけに限るわけではないですが、敵のHPと味方のHPがせめぎあっていて、やるかやられないかの狭間にいたら、ユーザーとしても一喜一憂しますよね。そういう感情がリアルタイムコミュニケーションの現場で起きれば、必然的にコミュニケーション自体が活発になる。そういう狙いです。
お化け屋敷のようなものを作る集団
――古典的な手段とも言えなくはないですね?
そうですね。例えばお化け屋敷やジェットコースターは、ひとりで乗るよりも、友だち数人でそのおもしろさを分かち合えるところに醍醐味がありますよね。そもそもひとりで行くのは、ちょっと嫌だけど(笑)。そういう共有体験で得られる「つながり感」のようなものは、今も昔も変わらないと思うのです。
ミクシィは、SNSで知られている企業です。言うなれば、コミュニケーションばかり追求している会社と言えます(笑)。でも、そんな僕らでも、会議室をぽんと与えられて「はい、この会議室を遊技場として使ってもいいですよ」と言われて、何もツールがなければコミュニケーションを深めることは難しい。だってコミュニケーションをとるためのテンションが上がらないわけですから、会話も弾まないでしょう?
ですから、私たちの役割は、お化け屋敷やジェットコースターを作るようなものだと皆でイメージを一致させていたんです。
コーポレートカラーとブランドカラーを隔離
――コミュニケーションを大前提にするならば、今回、「モンスターストライク」から「mixi」への誘導を行っていないのはなぜですか?
いろいろ理由はありますが、コーポレートカラーとブランドカラーの違いを作りたいということが一番でしたね。
ゲーム業界に限らず、「この商品、あの会社が作っていたんだ」と驚く経験は誰もがあると思います。会社の名前はよく知らないけど、商品名やサービス名などそれぞれのプロダクトのほうをよく知っているという状況。今回、そこへのこだわりがすごく強くあったのです。
――もったいない気もしなくないですが?
「mixi」を使う一番のメリットはソーシャルグラフを使えることだと思われるでしょう。でも、弊社のソーシャルグラフは非同期型に最適化されているので、リアルタイム型のコミュニケーションであるこのプロダクトは別だと感じていました。
だったら、当初のコンセプトを大事にしよう、と。ザ・エンタメに特化しているブランドカラーをより強調するうえで、「mixi」の看板を出しませんでした。
デザインやカラーイメージにしても、「モンスターストライク」はどちらかというと庶民的な中華とラーメンみたいな感じがありますが、「mixi」はおしゃれなスイーツ系のようなイメージを喚起させますからね。
コミュニケーションの味わいがわかる集団
――でも、ミクシィ社内で開発されたわけですから、どこかに「mixi」のイズムのようなものがあるのでは?
その点でいえば、お客様のコミュニケーションを活性化させるという目的をブレずにやれた土壌が挙げられますね。「mixi」を通じて、弊社にはコミュニケーションの味わいがわかるような社員が集まっているのは事実です。
SNSも友だち同士でコメントを交換したりする熱量はものすごいものですよね。弊社の社員は、それを肌で感じ続けていましたし、コミュニケーションの威力を心から理解しているメンバーでした。「友だちと遊ぶというのは、楽しいだけでなく正しいよね」と、コミュニケーションの本質を知っている人たちだったんです。そこがゲームの開発を支えてくれたのは間違いないでしょう。
もっとも、コーポレートとブランドイメージの乖離をさせすぎて、当初は別の大手ゲーム会社がリリースした作品だという誤解も受けましたが(笑)
――社内制度など具体的に役に立ったものはありますか?
ミクシィ・キャリア・チャレンジというものがありまして、それが役に立ちましたね。これは社員の自主性を尊重して、自分からチャレンジしたい事業部に異動できるものです。ゲーム開発が未経験だけど、「モンストやってみたいです!」と声を挙げた社員の、その意気ごみを買うというようなものですね。
社員のモチベーションとしても、自分から挑むわけですから、とてもいいメンタルで臨めます。私個人は、この施策は株式会社ミクシィの人材マネジメントの中で一番の施策だと評価しているのですが、このような人材配置ができると、今後、私たちがいる開発の現場もより盛り上がっていくのは間違いなさそうです。
※次回はユーザーの反応測定などについて。8月1日更新予定です。