「はたして自分は成長しているのだろうか……」 「この仕事は、自分の成長につながるのだろうか……」―― このような不安や不満を、一度も持たない若手のビジネスパーソンはいないでしょう。実際に「この会社にいても成長できない」というのが、若手の転職理由の上位をずっと占めている、と聞いたこともあります。

  • 自分は成長できているのか……と悩むことはありますか?

少し視点を変えてこの問題を見てみましょう。最初から成長意欲なんていうものを持っていない人には、このような不安や不満は生じないと思います。つまり、「成長意欲をちゃんと持って、きちんと努力もしているのに成長を実感できない」ところに、この問題の根の深さがあるように思います。

かつての私も、まさにそんなことを日々感じている若手社員でした。そしていま振り返ると、実は成長に関して大きな「勘違い」や「しなくていい努力」をしていたことがわかります。そこで今日は、大事な「成長」について考えていきたいと思います。

やりがいのある仕事で成長できるか?

効果的に、最短距離で成長を手に入れるためにはどうしたらいいのか?

20代の私の答えは、「やりがいのある、大きな仕事を若いうちからやること」でした。そんな願いが天に届いたのか、営業になった新人の私は、いきなり大手企業の本部担当になったのです! 一方で同期の多くは、飲食店への飛び込み営業や、量販店の各店舗担当です。

私はスーツ姿で企画書を作り、週に2~3回、担当企業の本社で商談。そして、もしその商談が成功したら、1万ケース単位で商品が動きます。

その一方で、他の同期たちは、ジャンパー姿で1日に10店舗以上を訪問し、1~2ケースの小さな注文を取るためにお店の担当者と商談(立ち話)を繰り返していたり、20軒の飲食店に飛び込み営業をかけて、なんとか1日で1件は受注したり……ということを毎日繰り返していたのです。

ですから、同期で飲みに行ったときなどは、本当にうらやましがられました。他の同期と私と比べて、どちらの方がやりがいのある仕事をしているかといえば、それは圧倒的に私の方でした。モチベーションも、私の方がはるかに高かったのです。

では、1年後により成長していたのどちらだったでしょうか? 残念ながら、他の同期たちだったのです。週に3回の商談をしている私は、1年に150回くらいの商談をします。

それに対して、1日に20軒の飛び込み営業をしている同期は、年に4,800回! も商談をしているのです。さて、この2人のコミュニケーション力は、商談力は、どちらがより伸びるでしょうか? そのようなスキルだけでなく、「度胸」や「打たれ強さ」といった点でも、1年後には逆にかなりの差をつけられていたのです。

仕事はすぐに成果がでない

さらに、成長には数々の落とし穴があります。まず、「努力と成果の関係」を考えてみましょう。学校の勉強は、投入する「努力」と「時間」が、比較的「成果」にダイレクトにつながりやすい種目です。

「一晩寝ないで勉強したら80点とれた」といったことが勉強では可能です。しかし仕事はスポーツと同じ「実技」の種目です。野球で2、3日素振りをしても試合で打てるようにならないのと同じで、1日や2日商談したところで、すぐには成果がでないのです。

そして仕事は勉強と違って「団体種目」です。相手がいます。どんなに一所懸命に商談しても、相手の機嫌が悪かったらそれだけでアウトです。また、自分が80点でも、ライバルが85点だったら、売り上げはライバルに持っていかれてしまい、80点ではなく0点になってしまうのです。

仕事の成功確率は勉強とは違う

また、成功確率が勉強とはまったく違います。勉強ではちょっとした努力で80点取れるかもしれませんが、飛び込み営業を半年、1年、毎日毎日どんなにがんばったところで、成約率が8割なんかにはなりません。

1割が2割になった、くらいの成長があれば御の字です。あのイチローさんだって、どんなに練習をしても、7割近くの確率でヒットが打てないのです。

先日の東京大学の入学式での祝辞ではないですが、テストの点数やジョギングのタイムなどとは違って、仕事はそもそも、がんばっても、その努力がすぐには、そしてダイレクトには、報われにくい種目なのです。

「この会社では成長できない」「毎日同じ仕事でモチベーションがあがらない」と言って転職をする人がいますが、私は、もう少し冷静に、長い時間軸や高い視点から俯瞰して判断することをお勧めします。

なぜなら、そもそも仕事での成長はそんなにすぐに与えられるものではないですし、またあとから振り返れば、そんな時にこそ実は成長していた、ということがたくさんあるのです。

20代の私は、モチベーションが高く、「成長をしている」と毎日感じていたときは、実はまったく成長していませんでした。そして本当に成長している時は、その時、自分ではまったく成長を実感できていなかったのです。

執筆者プロフィール

堀田孝治(ほった・こうじ)
クリエイトJ株式会社代表取締役

1989年に味の素に入社。営業、マーケティング、"休職"、総務、人事、広告部マネージャーを経て2007年に企業研修講師として独立。2年目には170日/年の研修を行う人気講師になる。休職にまで至った20代の自分のような「しなくていい努力」を、これからの若手ビジネスパーソンがしないように、「7つの行動原則」を考案。オリジナルメソッドである「7つの行動原則」研修は大手企業を中心に多くの企業で採用され、現在ではのべ1万人以上が受講している。著書『入社3年目の心得』(総合法令出版)、『自分を仕事のプロフェッショナルに磨き上げる7つの行動原則』(総合法令出版)他。