「いたしません」「私、失敗しないので」でおなじみの、米倉涼子さん主演の大ヒットドラマ『ドクターX ~外科医・大門未知子~』。このドラマ制作をスタート時から手掛けているのが、テレビ朝日 総合編集局 ドラマ制作部 エグゼクティブプロデューサーの内山聖子さんです。

数多くのヒット作を世に送り出した実績を持つ"敏腕プロデューサー"な内山さんですが、意外にも、自身の人生は「失敗ばかり」なのだと言います。そんな内山さんに、サラリーマンとしての30年にわたる経験に基づいた、内山流仕事術について伺いました。

  • テレビ朝日 総合編集局 ドラマ制作部 エグゼクティブプロデューサーの内山聖子さん(写真:マイナビニュース)

    テレビ朝日 総合編集局 ドラマ制作部 エグゼクティブプロデューサーの内山聖子さん

サラリーマンで特殊なスキルはない

―内山さんはこの度、『私、失敗ばかりなので へこたれない仕事術』(新潮社)を上梓されましたが、どんな思いでこの本を書かれたのでしょうか。

内山さん:私自身は本を出す気なんてまったくありませんでした。なぜなら私はあくまでもサラリーマンで、特殊なクリエイティブの仕事に就いていますが、裏方ですし、特別なスキルもないのですから。

ただ、職業柄、これまでずっと日記やメモみたいなものはつけていました。出版の話をいただいたのをきっかけに読み返してみたのですが、若い頃の私は結構色々やらかしているんですよね。でもそんな私の失敗談こそが、今の時代を生きる後輩社会人たちを勇気づける、彼らの役に立つと言われまして。

また、私自身も社会人生活30周年を迎え、自分を振り返るいいタイミングかなと思い、新しい挑戦ということで本を書くことを決断しました。

―実際に書いてみていかがでしたか。

内山さん:本を書くこと、自分の経験を読んでもらうのって、すごく難しいなと。とても勉強になりました。自分の経験、自分の人生なんて、どんなに書いても面白くないから、話を盛りたくなっちゃうんです。だから私はフィクションを作っているんだ。こんな人生面白いな、こんな人がいたらいいなっていう思いをドラマにしているんだなと。

人は、自分の人生だけでは物足りないから、仕事をするんだなって思いましたね。

―内山さんにとってフィクション、ドラマとはどんな存在なのでしょうか。

内山さん:福岡の田舎で育っていますし、フィクションを見て世の中を知ることが中心の子ども時代でしたから、作り話ではあるけれどそこに自分を投影できるテレビドラマに夢を見ていましたね。なくてはならない、友達のような存在だったように思います。

でも、作る側に回りたいと思ったことはなく、そう思うようになったのは、たまたま作れる可能性があるところに就職したからなんです。

  • ドラマは「なくてはならない友達」のような存在と話す内山さん

    ドラマは「なくてはならない友達」のような存在と話す内山さん

不自由な環境が仕事のエネルギーを生む

―内山さんがテレビ朝日に就職して最初に配属されたのは秘書室だったそうですね。

内山さん:そうなんです。いきあたりばったりの就職だったのですが、最初に秘書室に配属されたことも予想外でした。そして秘書の仕事は私には向いていなかった。やるべきこと覚えるべきことが多すぎて、失敗の連続だったんです。

でも、そんな秘書室での苦労の時間があったからこそ、ドラマ作りという仕事への憧れがはっきりしてきた。大好きなドラマを作っている場所の扉がすぐ側に見えたことで、自分自身に火をつけることができたんだと思います。

―秘書室で過ごした時間が内山さんのエネルギーになったのですね。

内山さん:縛られるものがあって、制限があって、不自由があって、そこから出てくる自由な発想とか爆発力って大きいんですよね。そこに一番仕事の成功があったりする。

一概には言えないですけれど、実はドラマにもその傾向があるんです。例えば、探偵ものより警察組織を舞台にしたドラマの方が、自由な大学生より校則に縛られている高校生のドラマの方が当たることが多い。自由も格好良いのですが、それよりも、ある制限の中でもがいて、何かの壁を乗り越えようとしている人の姿の方が、ドラマとして面白いのです。

現実の人生も、多少の制限や壁がないと楽しくないですよ。だから何事も、自分のマグマが温まって爆発する寸前まではやった方がいい。

自分が今その場所にいてその状態にあることには何かしらの縁があるのですから、しばらくはそこに身を漂わせて、やることをやって、そこでしか得られない面白さとか人とのつながりくらいは捕まえる。そうやって本当にやりたいことを探したほうが、そこから先が長続きすると思いますね。

仕事の失敗が自分を作る力となる

―人生は順風満帆にはいかないということですね。

内山さん:順風満帆になんて絶対にいかない。いった人なんて見たことないですよ。誰でも、こけて痛い時、壁の途中でもう一歩登り切れずに落ちちゃったその時はまったく余裕はないけれど、壁がある方が人は力を出せると思います。

私自身を振り返ってみても、経営者という、ある種特殊な社会人が側にいた秘書室での経験や、あの時にああしたいこうしたいと思っていたことはすべて今のドラマ作りに役立っていますし、制作部に異動してからの数々の失敗の経験も、結果的には今の私を作る力になったなと思います。

若い頃の失敗なんてそれほど恐れることはない。落ちるところまで落ちてもパニくらず、ゆっくりはい上ればいい。へこたれずに変わっていくしかないんですよ。そんな姿を見ていてくれる人は必ずいるから、そういう人を探せばいいと思うんです。

若いうちに失敗しないところばかり歩いていると、その先歩くところが無くなっちゃいますよ。面白い風景は、自分にとって多少のリスクがあるところにあるので、勇気を持って、そこに向かって歩いて行けるといいと思いますね。人生一度きりですから。

―内山さんは今後、どんな道を歩いていきたいと思われているのですか。

内山さん:これまではものすごい勢いで、ものすごくたくさんのドラマを作ってきたので、ここから先は作品をたくさん作るというよりは、1本1本を大事に、集中していきたいと思っています。一方で、今ではエグゼクティブプロデューサーという肩書きが付いていますので、後進のバックアップもしていきたい。

最近の若手の人たちは、アグレッシブでタフな仕事をするんですよ。何じゃこりゃ?! っていう企画がいっぱい出てくる。クリエイティブって正解がないところから生まれてくるものなので、そういうアイデアがどんどん出てこないとダメなんですよね。

自分の発想にないものをどう支えるかっていうのは先輩としては悩ましいところもあるのですが、そんな自分も悪くないなと。私は、視聴率の責任だけは取れるように頑張り、若い人にどんどん活躍してもらいたいなと思っています。

取材協力:内山聖子(うちやま・さとこ)

テレビ朝日 総合編集局 ドラマ制作部 エグゼクティブプロデューサー
1965 年福岡県生まれ。1988年津田塾大学英文学科卒業後、テレビ朝日入社。1993年に秘書室から制作現場へ。1995年よりドラマプロデューサーとして活躍し、数々の連続ドラマ、スペシャ ルドラマを手掛け、ヒットに導く。代表作は、『ガラスの仮面』(1997年)、『黒革の手帖』(2004年)、『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(2012年~)など。