世界一高い電波塔である「東京スカイツリー」が開業したその日、実はもう一つ、日本が世界一であることを示すニュースがあったのに気づかれたでしょうか。

"日本国内で使い切れないお金"が、昨年末の時点で253兆円

これまで、このコラムでも日本が裕福である証拠の1つとして取り上げてきた「対外純資産」ですが、この度晴れて『21年連続世界一』の偉業を達成しました。そこで、今回はあらためてこの数字をクローズアップしたいと思います。

財務省が発表した2011年末の対外資産負債残高によると、日本政府や企業、個人が海外に保有する資産から海外勢による対日投資(負債)を差し引いた対外純資産残高は253兆100億円となっています。

http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/2011_g.htm

日本国内には経済活動を行う主体として、政府があり、企業があり、個人がいます(日銀がデータを出す際にはこれらに金融機関やNPOなども加えて、日本の経済主体としています)。それぞれの経済主体はお互いに資金の貸し借りをして日本経済全体をまわしているわけですが、そうやって日本国内で資金の融通をし合っても日本国内で使い切れないお金が昨年末の時点で253兆円あったということです。

この国内で使い切れない、あまり余った金額は昨年末時点で世界一であり、なおかつこのこれまで21年間連続して、日本は世界一の立場を維持しています。

参考までに、2002年以降の主要各国の対外純資産の推移は図表のようになっています。

【出典:財務省、単位:兆円】

日本はここ数年250兆円前後のプラス、米国はそれに相対するかのような金額のマイナスになっています。日本、中国、ドイツ、スイス、ロシアがプラスですから、国全体で見た場合に資金を海外に貸している債権国となります。

そして米国を筆頭にカナダ、英国、イタリア、フランスが海外からの借金で自国経済を賄っている債務国ということになります。債務危機に揺れるギリシャは当然のことながら、対外純負債を抱えた債務国です(2010年のIMFのデータで見ると、ギリシャの負債額はカナダと英国の中間ぐらいの金額になっています)。

日本の財政が逼迫すれば、海外に貸し出している余剰資金が戻ってくるはず

余談ではありますが、日本経済が間もなく破綻するような論調が根強くありますが、日本の財政がいよいよ逼迫してきたとなれば、まずはこうした海外へと貸し出している余剰資金が日本国内に戻ってくるはず、と考える方が自然ではないでしょうか。

何も難しい話ではなく、自分の懐(自国全体)に余裕がなければ他人(他国)にお金など貸せません。言うなれば現状は、日本が世界最大の資金の貸し手として各国のファイナンス(=借金の穴埋め)を担っている立場です。仮に日本が財政破綻をするなら、その前に日本からの借金に依存している債務国の経済の方が先に立ち行かなくなるでしょう。そういう意味で、こと「対外純資産」という指標から考えると、日本が世界一の立場を維持している今、他のどの国と比較しても最も経済破綻がしにくいのが日本であると言えるかと思います。

誤解のないように申し上げておきますが、だからと言って今のままの財政状況でよい、あるいは無駄遣いを善しとしているわけでもありません。破綻の論調に煽られることなく、現状分析をキチンとした上で、「それではお金をどう使おうか」という議論をすべき、ということです。

日本の対外資産が巨額な理由とは?

世界一を誇る豊富な対外資産をどうやって日本は積み上げてきたのか。それにはこのコラムの第3回第8回で取り上げた経常収支と関係があります。

例えば、経済産業省の発表している「通商白書」(平成18年6月発表)の中では、対外純資産と経常収支の関係について、「我が国は経常収支黒字の累積の結果として対外純資産を積上げてきた」としています。そして、対外純資産は海外への投資となるので、「対外純資産(ストック)の増加を収益源として果実である所得収支(フロー)を計上してきた」と指摘しています。

つまり、日本の経常収支は毎年黒字でしたから、それがずっと蓄積され、さらに海外に投資されてきた結果、海外からの配当金や利息の受取りである所得収支もプラスとなります。それもまた国内で使い道がなければ、海外への投資へと向かいます。累積された経常収支のプラスが増えれば増えるほど、対外純資産も所得収支も増える、という構図です。

なぜか、とかく"控えめ"に伝えられる「経済的朗報」

財務省による2011年末の対外資産負債残高が発表は、「東京スカイツリー」の開業と重なって、すっかり影を潜めてしまったわけですが、同じ世界一ならばついでにこちらも取り上げてくれてもよいものを、と思ってしまいます。

債務危機に揺れるギリシャと日本の扱いを同じくする声もさすがにここに来て少なくなりましたが、こうした論調にいかに無理があるか、「東京スカイツリー」一つを取り上げてみてもわかるかと思います。高さもさることながら、それを支える技術も世界最高峰を誇る電波塔が、今のギリシャの下町に建ちますか? ということを冷静に考えれば、答えは自ずと出てくるはず。それがつまりは本質的な経済力の差とも言えるでしょう。

お金を貸している国よりも借金している国の方が"格上"に!?

ところで、『対外純資産21年連続世界一』の発表後になりますが、海外の格付け会社による日本国債の格下げのニュースが伝わってきました。ちなみに、この格付け会社では債務国である米国、英国、フランスの格付けは最上級です。日本は今回の格下げによって21段階ある格付けの中でも上から5番目となり、スロバキアなどと同じ水準とのことです。

いくつか理由はあげられていましたが、根本的な話として、お金を貸している国よりも借金している国の方が、さらには欧州債務危機の余波をもろに受けそうな国の方が格上というのですから、キツネにつままれたような気分になります。

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執筆者プロフィール : 岩本 沙弓(いわもと さゆみ)

金融コンサルタント、経済評論家、経済作家。大阪経済大学 経営学部 客員教授。1991年東京女子大学を卒業し、銀行在籍中に青山学院大学大学院国際政治経済学科修士課程終了。日、米、加、豪の大手金融機関にて外国為替(直物・先物)、短期金融市場を中心にトレーディング業務に従事。その間、国際金融専門誌『ユーロマネー誌』のアンケートで為替予想部門の優秀ディーラーに複数回選出される。現在は、為替、国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、及び専門学校にて講師業に従事。新著『世界恐慌への序章 最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由』(集英社)が発売された。