注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、TBS系バラエティ番組『バナナマンのせっかくグルメ!!』(毎週日曜19:00~)、『いくらかわかる金? ~世の中なんでもHOWマッチ』(毎週土曜21:00~ ※きょう29日は19:00~3時間SP)などの企画・総合演出を務める平野亮一氏だ。

週末のゴールデンタイムというテレビにおける重要な時間帯を担う中で意識するのは、「“人”の面白さ」。それは若手時代、『さんまのスーパーからくりTV』で、「明石家さんまを笑わせる」というミッションに挑む中で培われた姿勢だという――。

  • 『バナナマンのせっかくグルメ!!』『いくらかわかる金?』企画・総合演出の平野亮一氏

    平野亮一
    1984年生まれ、東京都出身。中央大学卒業後、07年にTBSテレビ入社。『中居正広の金曜日のスマたちへ』『さんまのスーパーからくりTV』『もてもてナインティナイン』などを担当し、『オールスター感謝祭』では16年から22年まで総合演出を担当。現在は『バナナマンのせっかくグルメ!!』『バナナマンの早起きせっかくグルメ!!』『いくらかわかる金? ~世の中なんでもHOWマッチ』『ベスコングルメ』で企画・総合演出を務める。

ラジオ投稿の楽しさから「面白いことを考える」を仕事に

――当連載に前回登場した『ザ!世界仰天ニュース』総合演出の石田昌浩さんが「平野さんが明日倒れて、もし『せっかくグルメ』を作ってくれって言われても、絶対できないです。独特な面白どころを持っているから、やり方が分からないんですよ。そこがすごいなと思って、日本テレビの演出陣も、たぶん誰も作れないんじゃないかなと思います」とおっしゃっていました。

ありがとうございます。石田さんの会社の厨子王さんは、『いくらかわかる金?』で制作に入ってもらっているのですが、石田さんにはお会いしたことがないんです。でも、『仰天ニュース』はダイエットや事件の再現ドラマなど、本当にいろんなことをやる番組じゃないですか。その幅がすごいし、長年やり続けてずっとクオリティを保つ、その執念というのを感じますよね。僕からするとめちゃくちゃ勉強になりますし、本当に尊敬でしかないです。本当に、ある意味“化け物”ですよね。

――平野さんは、なぜこの業界を目指そうと思ったのですか?

月並みですが、テレビが好きだったんです。バラエティ番組が本当に子供のときから好きで、ダウンタウンさん、とんねるずさん、ウンナンさん、ナイナイさんとか、ひと通り見てきましたし、深夜ラジオも好きで、ネタ投稿もしてたんですよ。芸人さんにハガキを読んでもらって、面白いことやふざけたことを考えるのが楽しくて、こんなことを仕事にできたらいいなって漠然と思いながら就活して、たまたまTBSに拾ってもらいました。

――ラジオはどんな番組を聴いていたのですか?

『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)中心だったんですけど、ナイナイさんとか、ロンブーさんとか、ネプチューンさんとか。初めてネタを読んでもらったのが『ビビるのオールナイトニッポンR』で、大木さんに読んでもらったんですよ。ご本人にも伝えました(笑)

――夜中3時台までチェックしてたんですね。

MDに録って、学校に行く途中に聴いたりしてましたね。

働く姿勢とディレクターとしてのマインド…2人の師匠

――そして希望がかないバラエティ制作に配属されて、最初に担当した番組は何だったのですか?

『金スマ(当時・中居正広の金曜日のスマたちへ)』でした。ADを2年間やって、その後『さんまのスーパーからくりTV』に異動して1年ADやって、ディレクターに上がりました。その後は『もてもてナインティナイン』という番組を担当したり、いろんな番組を転々としていて、担当番組が立ち上がったら終わるみたいなことを繰り返してたんですよ。そんな中で、『せっかくグルメ』の企画書が通ったりして、今に至ります。

――これまでの中で、ご自身の「師匠」と言える方はどなたになるのですか?

2人いまして、入社したときに『金スマ』で阿部龍二郎さん(現・TBSホールディングス社長)の下でチーフADをやらせてもらったのですが、テレビを作ることの姿勢というか、これぐらいストイックに取り組まないとダメなんだというのを、入社1~2年目で経験させてもらったのは、すごく大きいですね。『せっかくグルメ』も当時バラエティ部の部長だった阿部さんが編成に持っていって通してくれました。今の僕のきっかけを作ってくれた方です。

もう1人は、合田(隆信、現・TBSテレビ専務)さんです。長い間、合田部の部員で感想やアドバイスをくれたんですけど、その中でも合田さんから言われた言葉で「テレビである以上、放送する価値のあるものを流さなきゃいけない」というのは、すごくシンプルなんですけど、今も自分の番組作りにおいて大事にしていることです。単に「面白いから流す」ということではなくて、なぜこれを流す価値があるのか、視聴者がどう楽しいのかということを整理して編集するようになりました。この2人は、働く姿勢と、ディレクターとしてのマインドを教えてくれたんです。

――『バナナマンのせっかくグルメ!!』を立ち上げるまでに、特に印象に残る出来事は何でしょうか?

入社4年目で『からくりTV』のディレクターになったのですが、この番組での目標は一つしかなくて、スタジオで(明石家)さんまさんを笑わせるVTRを作るということなんですよ。やっぱりさんまさんを笑わせるってとんでもないことなんですけど、ベテランのディレクターさんはみんな笑かしてて、僕のVTRはあんまりウケないときがあって、「面白いって何なんだろう?」と考えたりして。

そんな時に、渋谷区に住む100歳のおばあちゃんに密着してクイズを作るという企画を担当したのですが、そのおばあちゃんの趣味が麻雀とプロレスを見ることだったんです。麻雀を打ったり、プロレスを観戦したりする姿を撮って、分かりやすい笑いがあるVTRではないのですが、それにさんまさんが「ええなあ」「こんな年のとり方したいなあ」って笑ってくれたんですよ。それまで僕は、ギャグとか変なことをするのが笑いだと思ってたんです。ほかにもさんまさんは、大人っぽい趣味に真面目になってる子どもを見て「素晴らしいなあ」と笑ったりして。人の面白さや熱といったものも笑いになるんだということを、さんまさんを笑わせるという中で学ばせてもらいました。

――『せっかくグルメ』の面白さはまさにそういう笑いですよね。

そうですね。若い頃にさんまさんに向けてVTRを作れたことは、すごくいい経験だったと思います。