• 『千鳥のクセがスゴいネタGP』千鳥

――『クセスゴ』は「千鳥さんのコメントまでが1つのネタ」という考え方ですよね。

「クセがスゴいネタ」というのが1つのボケなんで、それを2人がどう斬るか。芸人さんのネタというところで、1個枷(かせ)がかかってるんですよ。“まるっきり悪く言えるの?”とか、そういうのも含めて、毎回こっちからどんな球が来るか分からないボールを投げているので、本人たちは「楽しい」と言ってくれてますけど、本当はしんどいと思います。たぶん、事前に「この人はこんなネタなんで、次のためにこういう流れを作りたいんです」と言ったら、千鳥さんはその方向に持っていってくれるんですよ。

でも、僕がやりたいのは、千鳥さんが目の前に来たどんな料理にも急に対応できるという瞬発力の高さを見せたいんです。コロナ禍で作った番組なので、ネタが面白い若手芸人さんを紹介して、劇場やYouTubeを見に行ってほしいという思いも最初はあったんですけど、今は千鳥さんが何を言うのかという、ある意味で僕らと千鳥さんとの勝負。「どんな斬り方しますか?」というプレッシャーを毎回かけて、嫌になってもらおうかなと思うくらい(笑)

――エハラマサヒロさんって、芸達者でネタもしっかりしてて面白いじゃないですか。でも、『クセスゴ』だとなぜかちょっと場違いな感じになって(笑)、あんなイジられ方をされるなんて想像できませんでしたよね。

そうなんですよ。僕らも芸達者でネタが面白い人として出てもらったんですけど、エハラさんはみんな嫌いじゃないはずだし、芸人さんたちの中の立ち位置は分からないんですが、あのイジられ方って何か分かるじゃないですか(笑)。でもあのイジりができるのは、千鳥さんが若手の頃からいろんな人といろんなことをやって何年も時間とお金をかけて培ってきて、みんなが好きになった結果のエハラさんの斬り方なんですよ。

――前にラリータさんにお話を伺ったとき、「芸人さんがみんな異常に千鳥さんのことを好き」とおっしゃっていました。

僕は芸人さんじゃないので、正しくは分からないんですけど、千鳥さんはプレイヤーの1人としてどんな悪球でも打ってくれるんですよ(笑)。しかもそれが「よく当たりましたね!」という感じじゃなくて、芯に当たってゲラゲラ笑える。千鳥さんがいるだけで現場がハッピーになるので、芸人さんだけじゃなく、スタッフもタレントさんもみんなが千鳥さんと一緒に仕事したいという理由が分かりました。

――『クセスゴ』では芸人さんではない方がネタに登場することがあるじゃないですか。それも、千鳥さんが見てくれているというのが大きいですか?

そうですね。でも、芸人さん以外は、さっき言ったまさに“悪球”ですね(笑)。まずあれだけだと成立しないんですよ。トータルテンボス大村親子(大村朋宏・晴空)みたいに、息子の晴空くんがお父さんに対する悲哀を歌うのは、意味があるように見せられるんですけど、とろサーモンの久保田(かずのぶ)さんと(加藤)礼愛ちゃんの組み合わせは、全く意味が分からなくて必然性がない(笑)。それでもあれをやるのは、礼愛ちゃんがイノセントであるからこそ、横にいる久保田さんのことがツッコみやすくなる。それを千鳥さんにガイドする役割なんです。だから、東儀親子(東儀秀樹・典親)と吉川晃司さん(のモノマネをする神奈月)の組み合わせに、理由があっちゃダメなんです。

――『クセスゴ』のフォーマットが別の特番のコーナーになったり、『ワイドナショー』の松本人志さんものまねを披露したJPさんが本家に登場してハネたりと、展開が広がっている感じもありますが、番組の手応えとしてはいかがでしょうか?

この前、井森美幸さんがゲストに来たときにおっしゃってくれたんですけど、他の番組に出ても何も言われない姪っ子さんが「『クセスゴ』出てたね」ってLINEをくれたと聞いて、それはうれしかったですね。僕の中の1個のバロメーターで地元(沖縄)の友達っていうのがあるんですけど、彼らが『クセスゴ』も『脱力』も「あれ面白かったね」って言ってくれるようになったので、次のステップに行かなきゃなというふうに思います。

でも、『クセスゴ』は基本的にはワイプですけど千鳥さんを前面に出している番組であって、「クセがスゴい」というタイトルもノブさんのものですから、やっぱり千鳥さんが好意的に見られているということが一番にあるんだと思います。

■「毎週見せていく」レギュラー番組の腐心

――見取り図さんの「南大阪のカスカップル」、レインボーさんの「ひやまとみゆき」、ネルソンズさんの「ゾンビ」など、ネタがシリーズ化していくのはレギュラー番組ならではですよね。

でもテレビのレギュラー番組が大変なのは、連続することなんですよ。終わったら来週が来る…終わったら来週が来る…と向かっていかなきゃいけない。これは有田さんともよく話すんですが、『脱力』も『クセスゴ』も「見てます。面白い番組ですよね」って言ってくれるんですけど、『水曜日のダウンタウン』(TBS)にしても『ゴッドタン』(テレビ東京)にしても、面白いことをやってるという安心感で毎週は見てくれない人が結構いるんですよ。その見えない視聴者をどう取り込むかというのがレギュラー番組の難しいところなんですよね。だから、毎週見てくれる人には本当に感謝しなきゃいけないし、毎週見せていく努力をしなきゃいけない。

これはテレビだけじゃなくて、新聞、雑誌、ラジオもそうだし、ポテトチップスのうすしおだって、おいしいのはみんな知ってるけど、いつ食べたかって言われるとずっと前だったりするじゃないですか。僕は毎日コンビニで缶コーヒーを買うんですけど、すぐ買えるという強みで日常に組み込まれてるんですよね。そうやって日常に入ってずっと愛されるロングセラーにしていかなきゃいけないので、毎週作り続けてるんです。だから、10年、20年続けてこられている番組が一番偉いと思います。「あの長寿番組も終わったね」ってサラッと言われるかもしれないですけど、長く愛されるソフトを作るって、めちゃくちゃすごいです。

――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると、何ですか?

とんねるずさんの番組や、『夢で逢えたら』(フジテレビ)のオープニングとかあるんですけど、もう1つが地元でやってた『お笑いポーポー』(琉球放送)なんですよ。沖縄の人なら誰に聞いても分かると思うんですけど、沖縄の喜劇人の方が方言でコントするんです。世代によって言葉が全然違うので何言ってるか分かんないんですけど、「これはたぶん、オリンピックを目指す子どものために親が何かやってるんだな」って何となく伝わってきて。そういうのを面白くて見てたんですけど、こっちだと誰も知らないんで、あんまり言ってないです(笑)

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

ここは、くりぃむしちゅーの有田さんがいいなと思います。『脱力』では座長として作っていますし、僕が参加していた『有田P おもてなす』(NHK)もだいぶ有田さんの気持ちがコミットしていたんですよ。他にもそういう番組があると思うので、間違いなく“テレビ屋”だと思います。僕らのようなスタッフとは違う番組作りの目線があると思いますし、有田さんが次に誰を指名するのかっていうのも興味深いですね。

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • 『全力!脱力タイムズ』総合演出・有田哲平