注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、とんねるず・石橋貴明のYouTubeチャンネル『貴ちゃんねるず』を手がけるマッコイ斉藤氏だ。

総合演出を務めた『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)の終了から2年、再び石橋とタッグを組むステージに選んだYouTubeを「すばらしい世界」と表現し、現在はネット配信番組を主戦場とする同氏だが、長年身を置いてきたテレビの今について、どう見ているのか。また、苦楽を共にしてきたというKAT-TUNや、親友・加藤浩次についても話を聞いた――。


■「見たくない人は全然見なくて結構です」

『貴ちゃんねるず』を手がけるマッコイ斉藤氏

マッコイ斉藤
1970年生まれ、山形県出身。IVSテレビ制作に入社して『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』に配属され、同番組でディレクターデビュー。その後、『極楽とんぼのとび蹴りゴッデス』『すれすれガレッジセール』『おねがい!マスカット』などの深夜番組、『とんねるずのみなさんのおかげでした』でゴールデン番組も演出。映画『上島ジェーン』では、第19回東京スポーツ映画大賞特別作品賞を受賞した。番組制作会社・笑軍の代表取締役を務めながら、現在は、YouTube『貴ちゃんねるず』『竹原テレビ』『清ちゃんスポーツ』など、テレビ『KAT-TUNの世界一タメになる旅!+』などで演出を手がける。

――当連載に前回登場したフジテレビの中川将史さんが、マッコイさんについて「天才的に面白いディレクターで、本当に1から育ててもらいました。最初は毎日めちゃくちゃ怒られていたんですが、『みなさん』が終わるとき、普段そんなこと言わないのに『おまえは俺の最後の弟子だな』って急に言ってくれて…ちょっと泣きそうになりました(笑)。僕の永遠の師匠です」とおっしゃっていました。『とんねるずのみなさんのおかげでした』で長くご一緒されていましたが、この言葉をかけたのは、覚えてらっしゃいますか?

もう覚えてますよ。本当にテレビのバリバリのバラエティという雰囲気の中にあって、あれだけ密に教えたやつは、あいつが最後じゃないですかね。中川には厳しくしたんですよ。編集所であいつが作ったものを1から直したりとか、普通のやつだったら心折れちゃうくらい教育をしたので(笑)、結構プライドも傷ついたんじゃないですかね。でも、総合演出は全責任を負わなきゃいけないので、ダメなものはダメと言いますから。

――中川さんが今やってる番組を見て、いかがですか?

『ドッキリGP』なんかは、僕の雰囲気や遺伝子を感じて、なんかうれしいですね。誘導の仕方とか、似てますよ(笑)。中川はそれを感じながら『みなさん』をやってくれてたんだなと思って。編集を見てると非常に上手になってるので、本当に厳しくしてやって良かったなと思います。

――まずは『貴ちゃんねるず』のお話から伺っていきたいのですが、どのような経緯で始めることになったのでしょうか?

タカさん(石橋貴明)と「なんかやりましょうよ」ってずっと話してたんです。僕も年になって、周りに何か言ってくれる人がいなくなってきたんで、改めて厳しい人と勝負ができるという緊張感が味わえるな、と。それに、今本当に攻めた笑いをやろうとすると「古い」だとか言うやつが多いから、自分らがやってきた面白いことをできる場があれば、どこでもいいと思っていました。

――石橋さんがインタビュー(Yahoo!ニュース『「とんねるずは死にました」―戦力外通告された石橋貴明58歳、「新しい遊び場」で生き返るまで』9月13日付)で、マッコイさんに「僕に任せてくれれば大丈夫ですよ。石橋貴明を面白くするのが僕ですから」と誘われたと言っていたのが印象的でした。

15年一緒にやってたわけですから、やっぱりタカさんが何をしたらどうなるっていうのは分かってるつもりでいたので、その言葉を伝えましたね。

――初回でフジテレビの湾岸スタジオの楽屋にいる石橋さんを訪ねる感じとか、『みなさん』のノリを彷彿とさせてワクワクしました。

もう僕らの歳だといちいち計算するより、ノリでやったほうが楽しさを味わえるんで。台本もなく、自分たちが感じたことを当てて、そのまま企画が走ってくれればいいなという、本当にノリなんですよ。

――その“ノリ”というのは、YouTubeという場と親和性があると感じますか?

やっぱりYouTubeっていうのは、昔のテレビのような器があるという感じがしますね。多少制限はありますけど、まだノビノビ野球できる感じです。企画力を締め付けるわけでもなく、全責任が自分にあるわけだし、自分が本当に思ったことを動画にして配信できるすばらしい世界だなと思いました。

――チャンネル登録者数がここまで一気に伸びる(約142万人=12月11日現在)というのは、想定していましたか?

全然してないです。面白いことをやろうとしてただけなんで、いろんな人が期待してくれていたということで、感謝しかないですね。今のバラエティは僕らみたいな人種にとっては非常に肩身が狭くて、さっきも言ったようにちょっと攻めたことをやれば「もう時代は令和なんだから」と言われる。でも、そんなの関係ないと思ってやってるんで。「新しい笑い、古い笑いってどう違うのか教えてくれ!」って言いたいですよね。俺は自分が面白いと思ったことをやりたいだけなので、50も過ぎて“新しいバラエティ”とか言われても、今さら変えようとは思わないし、叩くやつは勝手に叩いてくると思うし。

こっちは「見たくない人は全然見なくて結構です」って思ってるんですよ。「チャンネル登録お願いします」とも言ってないですし。だから、たまにものすごく叩いてくる人がいるんですけど、本当に意味が分からない(笑)。そういう人たちには耳を傾けないでいますけど。

――テレビだと公共の電波を預かっているから、それを言うわけにいかないじゃないですか。そこもYouTubeの魅力でしょうか。

そうですね。テレビはそういうクレームを真摯(しんし)に受け止めて、内容を全部変えるくらいのことをしちゃいますからね。テレビマンも芸人も、もともとはもっとふざけてバカなことをやりたくて集まってきた人たちなのに、正しいことを求められすぎてると思うんですよ。真面目に生きなくていい世界に憧れて入ったんだから。

だから、今の芸人はかわいそうですよ。攻めると「古い」とか「そういうのいらない」とか言われる世代ですから。芸人が一番立場弱くなっちゃって、テレビマンも丸くなっちゃった。昔は本当にバカでしたよ(笑)。「今はできないんだから、今に右ならえすればいいじゃん」って言う人もいるかもしれないですけど、僕はしたくないので。何を言われようが、死ぬまで自分の面白いと思ったことをやるしかないですよね。

■『みなさん』当時と何も変わらない石橋貴明の姿勢

――『貴ちゃんねるず』の企画の立て方は、どのように進めているのですか?

ほとんど、タカさんと僕の2人で決めてます。

――Ku-Wa de MOMPE(くわとモンペ ※)は?

あれはもうめちゃくちゃタカさんです。僕が山形出身なんで、田舎もんのところを、思いっきり歌で笑わせてやろうとしてくれたんだと思います。

※…石橋貴明とマッコイ斉藤氏の音楽ユニット。後藤次利氏が作曲した「Stranger to the city」で『2020FNS歌謡祭』にも出演。

  • Ku-Wa de MOMPE

――歌っていうのが、とんねるずさんらしいですよね。

やっぱり東京の芸人さんですから、イジり方がしゃれてるんですよね。

――そこでご自身が演者として出ることになるとは…

思ってないですよ(笑)。よく「出たがり」とか「なんで歌まで歌うんだ」とか言われるんですけど、だってタカさんが作ってくれたし、もともとバンドマンというところも笑ってもらって楽しんでるだけなのに、「おまえは出てくんな」とか言うバカもいるから(笑)。だったら見るなっていうことなんですよ!

――全部そこに行き着く(笑)

そうなんですよ(笑)。タカさんが面白がってくれたこと、自分が面白がってることを本当にやってるだけなんで。

――それにしても、大スターとユニットを組むなんてすごいことですよね。

もう本当に光栄で、タカさんには感謝しかないですね。マッコイ斉藤っていう名前は、とんねるずなしではここまでたくさんの人に知ってもらえなかったと思ってるので。やっぱりタカさんとノリさん(木梨憲武)に「マッコイ!」ってイジってもらったおかげで今があると思ってるので、本当に足向けて寝れないです。

―――『貴ちゃんねるず』がすぐ軌道に乗ったことを、石橋さん自身はどのように受け止めてらっしゃるように見えますか?

今までやってきたことの延長線上で、僕らの笑いを待ってくれる人に届けましょうという気持ちでいると思いますね。浮き足立ってるわけでもないし、本当にごくごく普通です。『みなさん』をやってたときと何も変わらない厳しさもありますし。

――『みなさん』が終わって2年が経って再びこういう場を手に入れたことに、水を得た魚のような印象は?

それはありますよ。やっぱり今のテレビで肩身狭そうな感じだったので。「ダメだ」と言われることにも思いっきり攻めてきた人ですから、「YouTubeならまだ自分のやりたいことができる」という感じで、楽しそうだなと思います。

――阿佐ヶ谷姉妹さんのアパートに突撃して、裸で木村美穂さんを布団で抱いたのって、『貴ちゃんねるず』がスタートしてすぐでしたよね(笑)。いかに、暴れられる場所を欲していたのかが分かります。