• とんねるずの石橋貴明(左)と木梨憲武

――長年『とんねるずのみなさんのおかげでした』を担当されていましたが、ここで学んだことや今生かしていることなどはありますか?

ドッキリに関しては、『みなさん』でもドッキリの企画をよく担当していたので、ノウハウはたくさん学べましたね。他にも、ものまね、ゲーム、トーク、コントまで、何でもやる番組だったので、あらゆるジャンルの企画を経験できたと思います。だから、企画の見せ方、準備の仕方、演出手法…などなど、全然違う種類の番組の、作り方のいろはを幅広く学ぶことができて、それが今すごく役立っています。

――改めて、とんねるずさんのすごいところは、どんなところでしょうか?

お2人は天才すぎていろいろありますが…やっぱり瞬間的に面白いことをつかまえる「嗅覚」と、圧倒的な「自由さ」には感動しますね。お2人が「ココ面白い!」と思った瞬間、もう台本も段取りも関係なく突き進んで、めちゃくちゃなことが多くて。だから、こっちが最初に予定していたことと180度違う話になっていることなんて日常茶飯事で。でも、そっちの方が圧倒的に面白いんです(笑)

そのおかげで、「対応力」は鍛えられたと思います。いつも内容が変わっていくので、尋常じゃないほど集中していなければならないし、常に頭をフル回転させておかなければならない。「全然予定と違う…さあどうしよう?」というのを、一瞬で対応しなきゃならないので。さらに、対応を間違えると「違うだろ」ってその場で怒られるので、もう超プレッシャーですよ(笑)。でも、それを乗り越えたときは最高の結果が待っていて…本当にいい経験をさせていただきました。

■今こそフジテレビに総合バラエティを

――今後こういう企画や番組を作っていきたいというものはありますか?

僕は結構飽きっぽくて、決まったことをルーティーンでやるのがあまり好きじゃないみたいで…。同じコーナーとか、3回もやると、もう違うことをやりたくなっちゃうんです。なので、いろんなことができる“箱”みたいな番組がまたやりたいですね。やっぱり育ちが“総合バラエティ”だからというのもあると思うんですけど、今まではとんねるずさんというスーパースターとやらせていただきましたが、僕も年齢が上がってきたので、今度は同世代とか若い人たちと、思いついたことをすぐ実現できる、何でもできる“箱”がほしいなと思うんです。

――『みなさん』『めちゃイケ』が終了して、フジテレビに今“総合バラエティ”と言われる番組がない状況ですが、ここに来てキー特性(13~49歳個人視聴率)の重視や、各局でお笑い番組が盛り上がってきているところで、立ち上げるチャンスは出てきているように感じますか?

そうですね、やりやすくはなってきてるなと思います。若い芸人さんたちの中にも、そういう番組を渇望している人たちはたくさんいると思うので、今の風潮はすごく大歓迎ですね。あとやはり、フジテレビにはそういう番組が必要だと思いますし。

――コロナという状況で芸能人の皆さんがYouTubeを始めたり、ネットの動画配信視聴も増えてきたりしている中で、地上波テレビの役割というのはどのように捉えていますか?

個人的には、今「共通の話題が減ってきているのかな」と感じています。僕は学生時代、朝クラスで話す内容って、前の日に見たテレビ番組のことでした。でも今は、テレビ以外にも見るものがたくさんあふれているので、「昨日のあれ見た?」という会話が成立しにくくなっているのかなと。さらにバラエティで言うと、パロディとかものまねとか、時事ネタとか、皆が知っている前提で成り立っているものが伝わりづらくなっている。すると、家族みんなで一緒に笑えること、仲間と一緒に盛り上がれることがどんどん減っていくんじゃないかと。これはすごくかなしいなと。

――他局の話で恐縮ですが、『半沢直樹』(TBS)なんて、みんなが知ってるテレビ番組の最たる例になりましたよね。

まさにそうです。『向上委員会』で、総合演出の池田Dがアバン(=オープニング映像)で、早速『半沢直樹』のパロディをやっていましたが、あれは世の中みんなが「あ、半沢だ」って分かるから成立しているわけで。ちなみに池田Dとは同い年で、お互い『ドラゴンクエスト』世代なんですけど、ザブングルの加藤さんを番組で「魔王」と呼ぼうってなったときに、2人ともすぐ『ドラクエIII』の曲をかけようと。しかも、最後の敵の「大魔王ゾーマ」の曲しかないだろうと(笑)。これはもう、僕ら世代の中では“みんなが知っていること”という認識なんですね。絶対に伝わるでしょ、と。

だから僕はテレビをもう一度、「みんなが見ているもの」にしたいんです。何十年後に「あの時ああだったよな」ってみんなが同じ思い出で話せるような。そのためには、皆さんに見てもらえるような、絶対に面白いものを作り続けなくてはならないんですが、“みんなで一緒に話せるモノ”を守るのがテレビの役割なのかなと勝手に思っています。…まあ、今テレビじゃなくてゲームで例えちゃいましたけど(笑)

■「まずこっちが面白がろう」と意識

――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると、何ですか?

やっぱり子供の頃から見ていた『とんねるずのみなさんのおかげです(した)』ですね。僕自身携わらせてもらったというのもありますが、一番影響を受けたと思います。

僕はこの番組を、「テレビで初めて遊び始めた番組」だと勝手に思っていて、それこそ面白いと思ったらノリだけで本当に何でもやっちゃった番組だと。とんねるずさんのキャラクターもあると思うんですけど、仮面ノリダーの歌で「赤字なのにマウイに行っちゃった」とか歌詞にして自分たちの制作体制をイジっちゃうとか、スタッフも面白いから出しちゃえって感じとか(笑)。それがエスカレートして、美術スタッフ集めて“野猿”というグループを作ってCDデビューさせちゃったり。いち視聴者の時から「なんて楽しそうな仕事だろう」と(笑)

――その番組に配属されて、本望だったんですね。

僕がテレビを目指したきっかけが『みなさん』で、小学生のときから、こんな番組をやるためにフジテレビに入りたいなと。だから入社3年目に『みなさん』に配属になったときはうれしかったですね。石田(弘)EPを見て「あ、生ダーイシだ!」とか。まさかそれから14年もいることになるとは思わなかったですけど(笑)

そして僕自身が作る側になった今、番組を作るときは「まずこっちが面白がろう」と意識しています。作り手が面白がってないものは、見ている側も面白くないはずだなと。その「みなさんイズム」…と言っていいかわかりませんが、それは常に思っています。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

『みなさん』で一緒だったマッコイ斉藤さんですね。もう天才的に面白いディレクターで、本当に1から育ててもらいました。最初は毎日めちゃくちゃ怒られていたんですが、『みなさん』が終わるとき、普段そんなこと言わないのに急に「おまえは俺の最後の弟子だな』って言ってくれて…ちょっと泣きそうになりました(笑)。僕の永遠の師匠です。

今でも(石橋)貴明さんのYouTubeを仕掛けたりと常に新しいことにチャレンジしていて、演者からの絶大な信頼感と、面白いことへの嗅覚、そしてその面白いものを面白く見せる力がものすごい人だと思っています。

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • 『貴ちゃんねるず』マッコイ斉藤氏