• ダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功

――ここで、ダウンタウンさんのお話を伺いたいと思います。この連載でもダウンタウンさんとお仕事をされている人たちにそのすごさを聞いてきたのですが、最も長く見てこられた高須さんからの印象は、いかがですか?

まず、お笑いが好きですね。それと、ダウンタウンのすごさは、“自分を微調整できる力”だと思います。昔からあんまり変わってないように思わせながら、実はその時代ごとに自分たちの見え方をちょっとずつ変えてるんですよ。本来ダウンタウンが大好きな人間ががっかりしない程度にやんちゃをしながら、時代に合ったOSにバージョンを変えているというか、少しずつバレない程度に、ニュースのことを話す人になってたり、笑顔でクイズ番組の司会をやる人になってたりとか。そこが僕は見事だなと、ここにきて思いますね。

『ごっつ』をやってるときは、もちろんお笑いの才能はすごかったし、作るものの秀逸さというところで、お笑いというジャンルの中で初めてのものを相当作っていることへの評価はあるんですけど、それは当時のものであって、今の人たちは当然のこととして吸収してできるじゃないですか。だから、その部分で言うともっと瞬時に気の利いたコメントをする人もいるだろうし、面白いツッコミを入れる人もいるだろうしね。ただ、自分たちを微調整しながら、キャラが変わってないようにダウンタウンという面白さを何十年も貫いているというところでは、すごいですね。

――もちろん、お2人で申し合わせているものではなく、本能的に。

そうでしょうね。本能的にがっかりさせない程度に自分たちのアップデートを、常にやってるんだと思いますよ。

――社会の変化への嗅覚が、すごいということでしょうか。

やっぱりお笑いって“今”のものじゃないですか。歌はその時代時代で流行るものがあって、昔の曲を聴くとその時代に僕らを連れてってくれるんですけど、お笑いって当時のネタをやられてもそんな気持ちにはならない。やっぱり“今”があるここを笑わせてくれるエンタメだと思うんですよ。

世の中でみんなが思ってる空気を一番先に吸って、それを瞬時に脳の中を巡らせておもろい言葉を口から出すという力が、やっぱりお笑い芸人ってとてつもないので、ダウンタウンはそこをずっと磨いてるんじゃないですかね。「今、松本人志というキャラクターがどうやったら面白いんだ」って俯瞰するカメラが常に優秀なアングルで狙ってるみたいな。「浜田雅功は昔の姿がかっこ悪くならず、今必要とされていることを最大限やれるバラエティフィールドはどこなんだ」っていうミリ単位のサイズ調整を高感度カメラで狙ってる。そのフォーカスの合わせ方具合がすごい。簡単に言ってますけど、本人たちは大変だと思いますよ。

――今、とんねるずさんもウンナンさんも、2人そろっただけで貴重だと思うのに、ダウンタウンさんはコンビのレギュラー番組を4本も持ってるってすごいですよね。

不思議な感じですよね。3組で一番離れそうな2人だったんですけどね(笑)

■過去の発言を簡単にひっくり返す強さ

――今後、ダウンタウンさんはどうなっていくと思いますか?

ん~、世の中に合わせた“今”を嗅ぎ取りながら、ぼやけないフォーカスレンズを一生懸命磨き続けてやっていくんじゃないですかね。それと、世間が求めているものと、ダウンタウンらしさを絶妙にバランスをとりながらも、ダウンタウンにしかできないという、代わりのきかないコンテンツを作っていくんでしょうね。だって、松本が『ワイドナショー』(フジテレビ)なんてやると思わなかったですから。昔はコメンテーターなんてやらないって言ってたんですよ。

過去に自分の言っちゃったことが障害になって、いろいろやれなくなることってあるじゃないですか。でも、松本は平気でやっちゃうんですよね(笑)。「それが笑いの障害になるなら、そんなもん別にええわ!」って簡単にひっくり返しちゃう。「人は変わるから」と言ってのける図々しさもダウンタウンらしいっちゃ、らしい。ドラマもやったし、金髪にもしてるし、筋肉ムキムキになってるし、40歳過ぎても辞めないし、結婚したし、子煩悩だし。「自分が面白くいられることファースト」なんですよね。

――それでも結果を出すから、変え続けられるのでしょうか。

でも、文句言われてると思うんです。「筋肉なんて鍛えたらあかんって言ってたじゃないですか」って言われるんですけど、それを笑いにするからズルいんです(笑)。自分がツッコまれる要素を何年か前に放って、ブーメランのように返ってくるけど、自分がイジられることに対してちゃんと返せる答えをいくつか持ってメディアに出て、笑いで回収する。そうやってフリにして笑いにしてるから、「いやいや、あんたが自分で投げたブーメランやん!」ってね(笑)

■時代とともに見続けられるコンテンツに憧れ

――高須さんが、今後こういうものを作ってみたいという構想はありますか?

『ドキュメンタル』(Amazonプライム・ビデオ)が配信で世界に行ったりしてるので、やっぱり海外の人も理解できるコンテンツを作ってみたいというのはありますね。あと、さっき言ったようにお笑いって“今”なので、時代とともに見続けられるコンテンツってすごいなと思うんですよ。例えば、美空ひばりさんや三船敏郎さんとか、とんでもなくすごかったのに、リアルタイムで見ていた人たちが年々減っていく中で、残っていくのは二次元のペラペラの映像だけになっちゃうじゃないですか。その人たちが持っている本当の迫力というのがどんどん薄れていってしまう。それはお笑いもそうで、ダウンタウンもいずれ亡くなったら、「すごい人たちがいたんだ」と言われながらも、どんどん新しい笑いが出てくるから、やっぱり過去のものになっていくんです。その儚さの美学もあるんですけどね。

でも、「ドラえもん」とか「ドラゴンボール」とか「スーパーマリオ」とか、たぶん何百年後もあると思うんですよ。その時代時代のいろんなクリエイターが、ちょっとずつ手を加えて変化させ、見続けられていく。そういう歳を取らないIP(知的財産)コンテンツを作ってみたいなと思うんですよね。

――放送作家さんって今、結構YouTubeに進出されている方が多いじゃないですか。いろんなジャンルで活動されている高須さんは、やられないのですか?

やれる自信ないですね(笑)。何年か前に、YouTubeのプロデュースをさせてもらったり、結構早めに触れさせてもらってたんですけど、量産して毎日毎日出し続けないといけないっていうのに耐えられない。1週間に1回出さないといけないテレビで十分かな(笑)

自分の生活ごと全部見せてもいいと思えるような本気のなにかが見つかったら別ですけど、それがないのにYouTubeなんてやってもダメだと思うんですよね。よくこんな大変なことみんなやってるなと思いますよ。

――そんなYouTubeがあったり、『ドキュメンタル』のAmazonやNetflixなど配信も活発になってきたりしている中で、地上波テレビの役割というのをどのように捉えていますか?

YouTubeの話だと、芸人って面白いことを言う人が「お笑い芸人」で、あとは『アメトーーク!』じゃないけど「◯◯芸人」になっていくと思うんですよ。しゃべりがうまくて表現力もある人が、細分化されたいろんな分野の語り部たちになるというのが、増えていくでしょうね。彼らはテレビより、数名でできて即時性が高いYouTubeに行くと思います。

そういう中で、テレビが持つネットにはないものって、あくまで今の時点ですが、迫力と緊張感、そこに相反するようですけど安心感だと思うんです。そこをやれているのは、今の時代ではテレビだけだと思ってるんですけど、それも見る人たちが何を求めるかで変わっていくので、何年かしたらそのあり方も違ったものになっているかもしれないですね。

――ご自身が影響を受けた番組を挙げるとすると、何ですか?

『THE MANZAI』から『ひょうきん族』にかけての、フジテレビのあの時代ですかね。『THE MANZAI』は高校生のときに見てて、紳助・竜介さんとツービートさんが好きでした。たけしさんや紳助さんのあの感覚・発想っていうのにびっくりしたのを覚えてます。漫才って、どこか古典芸能の1つだと思ってたんですけど、「しゃべりだけでこんなふうに別世界に連れていくのか」って思って、やっぱり“今”のものだと感じたんですよね。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

『ドッキリGP』で一緒にやってるCXの中川(将史)くんかなあ。彼はとんねるず班にいたんですけど、笑いの共通言語をたくさん持っていたし、ディレクターなのに作家っぽい力もあって、「こういう人がフジテレビにまだいるんだ!」と思ったので。

  • 次回の“テレビ屋”は…
  • フジテレビ『さんまのお笑い向上委員会』『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』演出・中川将史氏