――総合演出とディレクターの仕事の違いは?

番組によって様々なんですけど、たとえば『水曜日のダウンタウン』では、まず全体会議でどんな説をやるか決めて、その後ディレクターたちで自分のやりたい「説」を取り合う。そこからディレクターは作家とどういう展開にするか会議し、最終的に総合演出の藤井(健太郎)くんと話し合ってロケをする。その映像を編集して仮ナレーションまで付いたもの(オフライン)を、藤井くんに見せる。そこですんなりいくこともあれば、何度も修正を命じられることもあります。藤井くんの場合は全部のVTR、ナレーションを一言一句「てにをは」まで全て自分で直します。それが『水曜日』のスタイルですね。

ただ、総合演出とディレクターの一番の違いはやっぱり責任ですよね。僕も『とんぱちオードリー』(フジテレビ)で総合演出を経験しましたけど、当たり前ですが出ている芸人さんをスベらせてはいけないし、数字(視聴率)のことも考えないといけない。あと、番組が放送されるにあたって自分の名前が全面に出るプレッシャー。ディレクターには正直、ここまでのプレッシャーはないかと。ディレクターは総合演出をいかに手助けするかという仕事ですね。

『水曜日のダウンタウン』総合演出の藤井健太郎氏

――ディレクターから見て、総合演出としての藤井さんはやりやすいですか?

めちゃくちゃやりやすいですよ。理不尽なことは言わないし、これは他の総合演出もそうですけど、ちゃんとケツをもってくれる。あと2歳違いなので同年代だし、『リンカーン』で藤井くんがチーフADのときに僕がADとして入った頃からの仲なので。見てきたものが一緒だから話が通じる。会議でも「あのマンガの次のセリフ、なんだっけ?」「ちょっと待って、俺が言いたい」みたいな感じでクイズ大会が始まってしまう、何か部室みたいな。あのチームには“大人”がいないんですよ(笑)

――『水曜日のダウンタウン』で自分が撮って印象深い企画はありますか?

たくさんありますけど、「逆ドッキリ、逆逆逆くらいまでいくと疑心暗鬼になる説」ですかね。あれはもう何十時間も会議をやったんですよ。この人がこの仕掛けをするけど、あのことは知ってるんだよな……みたいに考えていくと気が狂いそうになる(笑)。いま、説明しようとしても訳が分からないですから。それで藤井くんに「打ち合わせの様子も入れていけば分かりやすくなるんじゃない?」って言われて、僕が小峠(英二)さんと澤部(佑)さんに説明しているシーンも入れたんです。尺はそんなに長くなかったけど、すごい苦労してでき上がって、スタジオでもウケて。小峠さんと澤部さんという座組もベストでしたね。

あとは、やっぱりエル・チキンライスの回(「松本人志 メキシコからきた謎のマスクマンとしてプロレス会場に登場してもバレない説」)。僕がプロレスが大好きなのでやらせてもらって。プロレス団体の方々と打ち合わせして作り上げていけたのも感動的だったし、何より、『リンカーン』のとき、何もできなかった僕が松本人志さんにマスクを被らせてリングに上ってもらったんですからね。非常に感慨深くて夢見心地でした。

■芸人とは「1人の人間として接する」

――ディレクターとしてのこだわりは?

カッコいいことを言えば、フリーとしてはこだわりを持ちすぎるといろんな番組ができなくなるので、こだわりを持たないことですかね。あ、別にカッコよくないですね(笑)

ただ気をつけてることは、現場にはいろいろなスタッフ、技術さんがいて、演者さんがいる。ディレクターはその人たちをまとめる立場なので、楽しい現場にするということですね。ADだった頃、ある現場で長時間のロケになって技術さんが食事を取る時間もなくて、さすがに技術さんが怒ってロケが中断したことがあったんです。当たり前なんですけど、みんな人間なんですよね。だから逆に会議にしろ、ロケ現場にしろ、楽しくやるとみんな普段以上のパフォーマンスをしてくれるんです。

  • オードリーの若林正恭(左)と春日俊彰

――水口さんといえばオードリーさんと仲が良いことでも知られていますが、芸人さんとの距離のとり方で気をつけていることは?

他のディレクターより芸人との距離が近いって、ここ最近言われて初めて気づいたんですよ。それはさっきの話と重なるんですけど、芸人さんだって人間だってことだと思うんです。もちろん演者さんなので最低限の礼儀はありますけど、過度に気を遣わないようにする。過度に気を遣われすぎると演者さんも嫌だと思うだろうし、こっちが気を遣うから向こうも気を遣うんだと思うんですよ。だから僕はまず1人の人間として接するように心がけてます。

人によっては、芸人さんと打ち合わせをする時に「コイツ面白くないな」と思われるのが怖いんだと思うんですけど、面白いことをやりたいっていう目標は一緒だから、フラットに相談するとおのずと距離は縮まります。バカリズムさんなんて厳しそうに見えて、すげえ優しいですから。あと、僕は人見知りの人が好きなんです。ズケズケ土足で入っていきます。どこか変じゃないですか(笑)。鳥居みゆきさんや若林(正恭)も。春日(俊彰)なんて異常ですから(笑)