――映像をつなぐ部分でも意識していることはありますか?

そうですね、例えば、畑で農作業してから家に帰って料理するという流れがあると、バラエティだったら収穫した野菜のアップから次にもう料理をしていると思うんです。それでも、編集でつながれば何の問題もないですが、『人生の楽園』は絶対にやりません。まず、畑で作業が終わって家に帰る時、必ず家の外観などのつなぎのカットを入れるんです。テンポ感を犠牲にしてでも、移動の段取りをきちんと踏むということですね。

――そうしないと、見ている側がそこにいるという感覚にならないんですね。

まさしくそうです。その情景カットが一発入ることによって臨場感が増す。「見ている人の魂がワープする合図」と僕はいつも言ってるんです(笑)。その臨場感に加え、もう1つ追い風になっているものがあります。

――もう1つですか?

時代背景です。高齢化の中で、第二の人生をどう生きるかということが、社会的な関心事になっている。さらに、地方の過疎化が進む中、空き家を上手に再生させて生き生きと暮らしている人の姿を見るとことで、希望がわくんじゃないかと思います。地方が衰退して日本の将来は暗いのかなと思ってる中、過疎地で生き生きしている人の姿を見ると、自分もそこで暮らすかどうかは別にして、何か救われたような気持ちになるのではないか。テレビというのは、「希望を感じる」というのが広く支持をいただく1つの要素かなっていう気がしています。

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    1月20日の放送は、そば打ちの趣味が高じて、定年退職後に自宅納屋を改装してそば店をはじめた夫婦に密着。念願だったそば店の夢を叶えた夫・玄吉さん(68歳)と、夫の夢を支えて共に働く妻・喜代子さん(67歳)の日常と、2人を支えるそば打ちの師匠、応援してくれる仲間たちとの交流の様子を紹介する。

マイナーなタウン誌までリサーチ

――取材対象の方にもよると思いますが、どれくらい密着されるのでしょうか?

大体電話でやりとりした後にディレクターが会いに行き、打ち合わせを兼ねて1泊させてもらいます。朝から晩まで、生活圏にどんどん入って暮らしのありのままを見せてもらうので、人間関係を作っていかないと取材できないですからね(笑)。そうして信頼関係を作った上で1回帰ってきて、番組的な打ち合わせを詰めた後で、今度はカメラマンと一緒に撮影に行きます。短くて4泊5日、長くても5泊6日。意外と短いと思われるかもしれないですけど、あんまり長くやってると、取材を受けていただく側が疲れちゃいますからね(笑)。イベントやお祭りなどがあるときは、また別に1泊2日撮影することもあります。

――取材をお願いする時は、皆さん喜ばれるものですか?

いやいや、そんなことはないですよ。「そっとしておいてください」とか「私はそんな全国放送で紹介されるような人間じゃないですから遠慮します」ということは多くて、一生懸命に番組の趣旨を説明して理解をいただきます。もちろん「待ってました!」みたいな方もいらっしゃいますが(笑)

――どうやって取材する人を探すんですか?

たぶん、この番組の一番難しくて一番大事なところだと思うんですけど、まずは、かなりマイナーなところまで地方紙を見ますね。それこそタウン誌みたいなものまで。あと最近は、地方自治体のホームページに移住特集のコーナーがあるので、そこで事例として紹介されている方も参考にしたりしますね。それと、役場に飛び込みで連絡して「この町はすごく風光明媚で良いところなので、どなたかいませんか?」と尋ねて、出演に結びついた例もあります。自薦他薦の手紙を番組でいただきますので、そこからご出演いただいた方も何組もいますね。

テレビ演出のトレンドに逆行

――実際に取材する人の条件は、どのようなものがあるのでしょうか?

この番組のコンセプトは「誰もが自分にとっての楽園を見つけることができるはず」ということなんです。そうすると、やっぱり特別な人、特にお金持ちだからこんないい暮らしができるんだという捉え方はしてほしくないので、基本的には庶民的な方に登場していただいています。それから、当然のことながら生き生きと暮らしている方。生き生き暮らすということは、結局何かにチャレンジしているということにつながるんですよね。それから、地域とつながっている方。別荘に閉じこもって本を読んでるっていうより、地域の人との関わりの中で生き生きと暮らしている方を紹介するようにしています。

――移住しても、なかなか地域に溶け込めないという事例はあるそうですもんね。

大変なこともあると思いますが、われわれはうまくいってるケースを紹介して、夢と希望を持っていただくという番組。移住の真実を追及するという報道番組ではないので(笑)

――どちらかというと、娯楽番組に近いですかね?

ん~簡単にそういう分類ができないところも、この番組のオリジナリティなのかなと思いますね。いかに他の番組と差別化するのかというのは、結構真剣に考えてます。今のテレビ番組というのは、枠組みというものを取っ払ってきた歴史ですよね。昔はちゃんとしたオープニングタイトルがあって、最後は「じゃあ皆さんごきげんよう、さよなら」という感じでしたが、今はドンって番組が入って、エンドロールまでずっと本編があってドンって終わるじゃないですか。それが今の時流だと思うんですが、『人生の楽園』は、この時代にあえて"まえがき"をつけてるんですよ。30秒間のCGタイトルで、西田さんが「今週は何かいいことありましたか。私ね、思うんですよ。人生には楽園が必要だってね」と語りかける。そして番組の最後は西田さんが「応援してまーす!」とエールを送って、その後に「楽園通信です」とその回の情報をお伝えする。こちらは"あとがき"ですね。

僕も担当になった時は、30秒のタイトルを取っ払って頭から入ったほうがいいんじゃないかと思ったりもしたんですけど、これがオリジナルのパッケージなんです。この番組には独特な文法があって、私はそれを「古文の文法」と言っています。ゆったりした流れ、ちゃんと前と後の区切りをつける、それから、畑でナスを獲ったらその後にナスを料理するという"係り結び"。まさに古文なんです。