テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第92回は、12日に放送された広島テレビ・日本テレビ系単発バラエティ番組『食べた麺の長さで勝負! ご当地麺バトル』をピックアップする。

土曜午前というニッチな放送時間ながらピックアップしようと思った理由は、「食べた麺の長いほうが勝ち」という異色のコンセプト。全国の麺処から広島、愛知、栃木の3県が選ばれ、それぞれ地元にゆかりのある西村瑞樹(バイきんぐ)×クロちゃん(安田大サーカス)×西口真央(広島テレビアナウンサー) 、向井慧(パンサー)×北原里英×Mr.シャチホコ、U字工事×佐藤美希が「8時間でどれだけの麺を食べられるかを競う」という。

もう1つの注目は、ローカル局ならではの発想と意地。制作は広島テレビだけに、全国放送という晴れ舞台で、どんなものを見せるのか。麺好きの多い日本人をうならせ、楽しい昼食につなげる番組としたいところだ。

  • (左から)クロちゃん、Mr.シャチホコ、U字工事

■広島の尾道ラーメンは55m87㎝

オープニングのナレーションは、「日本の麺処。ラーメンなら札幌・博多、うどんなら香川、そばなら長野が有名。しかし、実は魅力的なご当地麺がいっぱいある、3大隠れ麺処が。尾道ラーメンの広島、味噌煮込みうどんの愛知、佐野ラーメンの栃木。3県の出身芸能人がご当地麺を食べまくり! 食べた麺の長さを競う! 一番長~く麺を食べられる一番魅力的なご当地麺処は何県? ご当地麺バトル」。

“隠れ麺処”の定義や選ばれた理由がはっきりしないものの、エリア的には、東日本の栃木、中日本の愛知、西日本の広島とバランスはいい。ただ、「別々のロケで対決ムードが盛り上がるのか?」という疑問は残る。

対決のルールは、「制限時間8時間で、ご当地麺をひたすら食べ、食べた麺の長さの合計が一番長い県が優勝。ただし、食べられるのは県民に聞いた“全国におすすめしたいご当地麺ランキングBEST5”に入った麺だけ。また、行く店はご当地麺ごとに番組が設定する」という。つまり、「タレントたちが地力で店を見つけたり、選んだりする手間はなく食べるだけ」という点から、タレントよりご当地麺が主役の企画であることが分かる。

まず広島チームは、尾道ラーメンを選び、いきなり車で1時間30分の長距離移動。鯛を使ったスープが評判の「丸ぼし」へ入り、ラーメンが目の前に出てきてから「尾道ラーメンは何位ですか?」とランキングを尋ね、結果はランキング2位で3人は無事に食べられた。ただ注目は、特注の「麺測定器」を使った長さの測定。麺を1本1本溝に敷き詰めていく地道な作業の上に明らかになった長さは、「55m87㎝×3皿」だった。

多くの視聴者が「ラーメンって意外に長いんだな」という感想より、「麺測定器に麺を敷き詰めるスタッフが大変そうだな」と感じたのではないか。できれば、この地味だがレアな作業を超早送りでいいからノーカットで見せてほしかった。少なくとも現在の視聴者は、そういうディテールまで見て「面白い」「すごい」「熱気がある」かどうかを判断している。

■体育館に500m強のロープを伸ばすシュールさ

その後のバトル経過を簡単に書いていこう。

2番手の愛知チームは、1品目に味噌煮込みうどんを選択。「手打うどん 高砂」へ行き1位だったが、長さは「5m64㎝×3皿」という短さでガックリ。3番手の栃木チームは、1品目にスープ入り焼きそばを選んで「こばや食堂」に行き、結果は3位で、「54m78㎝×3皿」だった。

2品目のトップは1品目最下位の愛知チームで、あんかけスパゲティを選択し、「ヨコイ」へ行き、結果は3位。Mr.シャチホコが一皿追加の気合を見せて、長さは「27m46㎝×4皿」だった。

次に広島チームは2品目に広島つけ麺を選び、「わかば亭」に行ったが、まさかの6位で食べられず。「ふくよかな女性スタッフが出てきて目の前で食べる」シーンと、「3杯ともスタッフがおいしくいただきました」のテロップが流された。すなわち「もったいない」のクレーム対策だが、「これも本当に食べたのなら超早送りでいいから見せろ」と言われがちな演出だ。

栃木チームの2品目はニラそば。「宮入そば」で一升盛り(10人前)をオーダーし、結果は4位で、長さは「282m10cm×1皿」。

3品目は、広島チームが汁なし担々麺「キング軒」3位、68m39㎝×3皿。愛知チームが台湾ラーメン、「味仙」、2位、〇m〇cm×4皿(Mr.シャチホコが1皿おかわり)。長さは伏せ字で隠され発表されなかったのだが、これは「1皿目の味噌煮込みうどんがあまりに短かったため、『明らかに勝ち目なし』と思わせないための演出だろう」という想像がついてしまった。

栃木チームの3品目は佐野ラーメン「宝来軒」1位、38m78cm×3皿。最後に、広島チームのみ4品目のチャンスがあり、お好み焼きを選択……広島県民にとって「お好み焼きは麺料理」らしい。結果は「電光石火」、1位 35m24cm×6皿(クロちゃんが麺トリプル、西村が麺ダブル)でバトルは終了した。

結果発表の前に全ランキングが発表され、広島は1位=お好み焼き、2位=尾道ラーメン、3位=汁なし担々麺、4位=呉冷麺、5位=広島ラーメン。愛知は1位=味噌煮込みうどん、2位=台湾ラーメン、3位=あんかけスパゲティ、4位=きしめん、5位=台湾まぜそば。栃木は1位=佐野ラーメン、2位=宇都宮やきそば、3位=スープ入り焼きそば、4位=ニラそば、5位=じゃがいも入り焼きそばだった。

最後に映されたのは、「体育館で各県の食べた麺と同じ長さのロープ同時に伸ばしていき、一番長かった県が優勝」というシーン。その場にタレントたちは参加せず、別の日にスタッフたちが行ったものだったが、映像的に面白かった。予算とスケジュールの問題はあるだろうが、もしスタッフではなくタレント本人たちがやっていたら数倍シュールな映像になっただろう。

最終結果は、愛知が277m44cm(台湾ラーメンは37m67㎝×4皿)、栃木が562m78cm、広島が584m22cm。わずか22mの差で広島が優勝し、「最後にクロちゃんがお好み焼きを“麺トリプル”にしなかったら2位だった」というオチだった。「制作局の地元・広島が僅差で優勝」という真偽こそ分からないが、クロちゃんのキャラならゲスな不正をして負けるほうが盛り上がったかもしれない。

■ローカルがコンテンツ勝負できる時代へ

ご当地麺はどれも見るからにおいしそうであり、地元愛にあふれたタレントたちならではの牧歌的なムードも、土曜昼前の放送にはぴったり。ただ、発展途上の企画だからか、「『あの県には負けられない』『あの県の人々を悔しがらせたい』という対決図式がもっとほしかった」「デカ盛りブームの中、3店程度で満腹モードは甘い」という感が否めない。タレントたちをもっと追い込んであげたほうが、持ち味を引き出せたのではないか。

また、制作の広島テレビから見たら、愛知、栃木という他地域に塩を送るような企画である反面、「広島だけ4品目を紹介するのはズルい」という見方もできる。「上りネット(ローカル局が制作して東京の局で放送する)番組だから仕方がない」という人もいるだろう。

しかし、「ローカル局にとって上りネットは、本当に晴れ舞台なのか?」という疑問がある。インターネットの発達で、今やローカル局が地元にまったく関係のない番組を作っても不自然ではない時代になった。インターネット上のリリースが可能になり、プラットフォームも増える中、地方でも面白いコンテンツを作りさえすれば、全国の人々から支持を集められる。

日ごろ上りネットの作り手たちと話をしていると、「同じローカルの他局を意識しながら作っている」「『キー局に試されている』というプレッシャーがある」という声が聞こえてくる。今後、制作力の低いローカル局が苦しくなるであろう近未来を踏まえると、キー局や系列局という基準を超えた制作スタンスが必要になるはずだ。これは裏を返せば、それさえできれば「上りネットの番組はグルメと旅行に偏りがち」という課題を克服可能ということなのかもしれない。

これを読んでいる人も、休日の日中によく放送されている上りネットの番組に注目してみてはいかがだろうか。

■次の“贔屓”は…MC番組の終了が続く有吉に変化は? 『有吉ジャポン』

有吉弘行

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、18日に放送されるTBS系バラエティ番組『有吉ジャポン』(毎週金曜24:20~)。

日曜午前に生放送されている『サンデージャポン』(TBS系)の派生番組として、2012年10月のスタートから今秋で8年目に突入。深夜ならではのディープなテーマと、有吉弘行らしいシニカルな視点をミックスさせた番組としてすっかり定着した。

次回の放送は、「原宿の美容室 オーシャントーキョー 採用試験FINAL」。超人気店に入ってカリスマ美容師を目指す若者たちを追う企画で、前回の放送ではこの番組らしい個性的な人々が登場した。最後にどんな人材が採用されるのか? 田中みな実、太田光代、鈴木正文(『GQ JAPAN』編集長)らのコメントや、このところMC番組の終了が続いた有吉の立ち位置も掘り下げていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。