テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第87回は、7日に放送されたNHKのバラエティ番組『有田Pおもてなす』(総合 毎週土曜22:10~)をピックアップする。

同番組のコンセプトは、「くりぃむしちゅー・有田哲平がプロデューサーとなってゲストを喜ばせるために、この番組でしか見られないオリジナルネタを生み出す」。ゲストの趣味嗜好をリサーチして好みのネタに仕上げていくのだが、有田らしいトリッキーなプロデューサーが見どころとなっている。

今回のゲストは、かつてコメディアンとして活躍していた俳優・竹中直人だけに何かと波乱含み。「竹中の名ネタ“笑いながら怒る人”をコントに採り入れるのか?」など見どころは多い。


■ハナコのコントが有田プロデュースで一変

くりぃむしちゅーの有田哲平

「おもてなす」がテーマの番組だけに、ゴールドベースのセットやオーケストラのようなBGMなど、何かとゴージャス。「コメディアンとしてデビューし、コント番組でも活躍。コミカルな役からシリアスな役までをこなす、誰もが認める一流有名人です」というゲスト紹介も紳士的で、ワールドワイドなエンタテインメントのムードを醸し出している。

ところが、続いて映し出されたのは、「ハナコが竹中様のあのモノマネに挑戦」「ライスは番組史上初の何が起こるかわからないムチャブリに挑戦。何も予測できない展開に大混乱」のナレーション&テロップ。このあとタイトルバックが入るのだが、一気に民放のバラエティと同じテンションに変えてしまうのは、もったいない感がある。CMをはさまず、視聴率の縛りも少ないNHKなら、視聴者をあおるより「何が飛び出すかわからない」という楽しさを与えてもいいのではないか。

続いて番組は、竹中の趣味嗜好をリサーチすべく40問、約3時間に及ぶアンケートを実施したことを明かし、その中で「どんなお笑いが好きですか?」という問いに対する「即興、アドリブ、オチのないコント。予定調和が苦手」という回答を紹介。有田Pは1組目のハナコに、竹中のリクエストをアレンジして、「秋山が全編笑いながら怒る人でツッコむ」「岡部はネタの中盤から便意を我慢」「菊田は全編酔っ払い」という指示を出し、コントが始まった。

ハナコが用意したのは、客を秋山、店員を岡部、店長を菊田が演じるラーメン店のコント。本来は岡部が“最も変な人”の役回りなのだが、有田Pのプロデュースによって、真逆の“最もまともな人”に変わり、新たな笑いにつながっていた。

■「客ウケよりゲストウケ」の意味

次のコーナーは、ゲストをよく知る人物に直接取材した「横澤夏子のステキなスクープでおもてなす」。横澤は、竹中と親交の深い東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦に話を聞いてまとめたフリップで、「上半身裸ネクタイ事件」「DJ竹中事件」などを紹介し、最後は「影響されやすい超繊細な人」と結論づけた。

続いて有田Pは2組目のライスに、竹中が「即興やアドリブのコントが好きで、予定調和なコントが苦手」と明かした上で、「ネタ中に何かが3つ起こる」というプロデュース方針を伝える。

関町知弘は「ただのドッキリ番組じゃないですか」、田所仁も「アドリブ的なものが本当に自信ない」と不安を漏らしたが、そこは『キングオブコント2016』王者。本番では「加山雄三のそっくりさんが乱入」「永野が乱入してネタ披露(しかも見たことがない香水かけるネタ)」「大道具が撤収を始める」というムチャブリを見事に乗り切った。その様子を見るに、ライス、特に関町の即興力に期待をかけたプロデュースだったことがうかがえる。

当番組の放送は、この日で50回の節目を迎えた。芸人にとっては、自らのスキルを発揮できるほか、ネタを別角度から見せてくれる上に、ネタ前後のトークパートもしっかりある。さらにNHKならではの全国放送であることなど、実にメリットの多い番組と言っていいだろう。

さらに少し目線を変えると、「最上層にゲストがいて、その下に有田Pがいて、かなり下に芸人たちがいる」というヒエラルキーが芸人としてオイシイ。最下層という立ち位置だからこそバカバカしいことをやり切れるし、視聴者が笑いやすい姿勢になってくれるからだ。その意味で、「お客さんにウケるかどうかより、ゲストが喜ぶことを徹底させる」というコンセプトは、新しいだけでなく理にかなっている。

番組ホームページを見ると、「ネタ打ち合わせ」「芸人反省会」「マル秘アンケート」「ムチャブリゲスト 裏トーク」というネット限定動画が公開されていた。このあたりの余裕もNHKならではであり、まだコンテンツとしては発展途上だが、回を重ねるごとに洗練されていくのではないか。

■全方位で「間のよさ」が光る有田哲平

最後にもう1つふれておきたいのが、芸人たちのプロデューサー役を務める有田哲平。

この日はハナコに「竹中さんはお笑いの見方が厳しい方(だからしっかりやって)」とプレッシャーをかけるのだが、その姿からは不思議なほど圧力のようなものを感じない。たとえば、有田より世代が上の明石家さんま、石橋貴明、浜田雅功のような体育会系の悪ノリではなく、むしろビジネス系のスマートな悪ノリを感じさせる。

その悪ノリは『有田ジェネレーション』(TBS系)、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)でも同様。世間の人々がハラスメントに敏感な時代だけに、それをみじんも感じさせない有田の立ち居振る舞いが各局から重宝されるのは当然だろう。

私自身、何度か有田の収録現場を取材したことがあるのだが、後輩芸人だけでなくスタッフに対しても、「とにかく間のいい人」という印象を抱いた。構成作家やディレクターの意図を大切にして笑わせつつ、少しずつ角度を変えながら共演者の見せ場を増やし、驚きや意外性を足していく。スタッフも芸人も若手が台頭しはじめているだけに、今後は両者といい間合いで仕事ができる有田がバラエティのキーマンになっていくのではないか。

ちなみに、次回のゲストはバラエティ出演の少ないオダギリジョーで、ネタを披露する芸人は、霜降り明星とうしろシティ。「クロちゃんとアもたれとオダギリジョー」という奇っ怪なタイトルを見て、思わず録画予約をしてしまった。

■次の“贔屓”は…39回目となるクイズの甲子園『高校生クイズ』

『高校生クイズ』メインサポーターの乃木坂46

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、13日に放送される日本テレビ系『第39回全国高等学校クイズ選手権(高校生クイズ)』(21:00~23:24)。

1983年の番組開始から今年で37年目となる9月の風物詩。その内容は、『アメリカ横断ウルトラクイズ』を踏襲したものから、知力重視路線を経て、現在は地頭力を競う形のイベントとなっている。

さらに今年は、「全国どこでもスマホ一斉予選」を実施するなどの新たな動きもあり、全国大会では令和のスタートをどう飾るのか? 高校生たちの戦いと同等以上に、制作サイドの構成・演出が気になっている。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。