テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第8回は、22日に放送された『アウト×デラックス』(フジテレビ系、毎週木曜23:00~)をピックアップする。

同番組は、「偉人たちは総じて型破りで"アウトな人"だった」という仮説をもとに、現代のアウトな人々を迎えるトークショー。MCのマツコ・デラックスと矢部浩之が「フツーの人」にしか見えないほど、画面中を「アウト」な人々が埋め尽くす異例の番組だ。

どの番組よりも楽しそうで優しいマツコ

  • 矢部浩之(左)とマツコ・デラックス

放送がはじまってみたら、この日の通常の内容ではなく、「未公開アウト放出なのはSP」だった。番組そのものにフィーチャーするためには、むしろそのほうが都合はいい。

そう思っていたら、最初の「アウト」が登場。「なのは」が口グセのEmi-chanだった。なんてことはないオバさんの地下アイドルなのだが、早くも「今年最大の逸材」という香りが漂う。百聞は一見に如かずのキャラゆえ詳細は避けるが、彼女をトップに持ってくるのが『アウト×デラックス』らしさであり、「アウト」を発掘するスタッフの眼力を再確認させられる。

一方、ゲストの「アウト」を引き出すマツコと矢部は、どの番組よりも優しい。特にマツコはいつもの毒を吐かず、常に笑いっぱなしで、手を叩いて爆笑するシーンが目立つ。ゲストがあまりに面白すぎて、おのずと優しいしゃべり方になってしまうのではないか。

毎週のゲストには一般人や知名度の低いタレントも多いだけに、スタッフとMC2人の雰囲気づくりが素晴らしい。誰がどう見ても一目で分かるアウト軍団を後方に並べているのも、ゲストが話しやすい空間作りのひとつだろう。

続いて、「精神年齢が中学生並み」の人気プロレスラー・飯伏幸太、「ウサイン・ボルトを見て想像妊娠した」美人トレーナー・岡部友、「女性からビンタされるのが好き」な『ゲキレンジャー』出演のイケメン俳優・聡太郎が登場。いずれも他番組では見られないゲストであり、「アウト」なコメントだった。

そしてようやく知名度の高いタレントが登場。「共演女優からスケベ俳優と呼ばれる」小林稔侍だった。その後に登場したサッカー界のレジェンド・釜本邦茂も含め、各界のレジェンドイジリも同番組の十八番。「無礼を恐れず、臆することなく、オファーしてしまおう」という攻めの姿勢は、各局が「怒られない」番組作りに走りがちな中、崇高さすら感じてしまう。

Emi-chan、アウト軍団入りのススメ

その後も、「テレビ業界のお嬢様イジリに飽きている」タレント・團遥香、「気持ち悪いくらいお笑いが好き」な『ケータイ大喜利』王者・けうけげん、「音楽よりも他人の咀嚼音を聴きたい」シンガーソングライター・黒木渚が登場した。驚くべきは、「今回登場した9人全員が、今年のわずか50日足らずで出演した」こと。同番組は来月でちょうど放送5年になるが、「アウト」のクオリティは少しも落ちていない。

今回は未公開シーンを集めた形の放送だったが、これだけのゲストと「アウト」の内容なら、「撮れ高が足りない」という不安はないだろう。「未公開SP」とうたっているにもかかわらず「実際は総集編」の番組が多い中、当番組はガチ。「日ごろいかに撮れ高の多い収録を続けているか」が伝わってくるようだ。昨秋から放送時間が10分伸びたのだが、そのことに気づかない視聴者がいるほど、濃密なアウトが詰め込まれている。

何かと比較されがちな『有吉反省会』(日本テレビ系)は、多くのタレントが「出たい」とチャンスをうかがう番組になりつつあり、別番組の出演につなげるセルフプロモーションの意味合いも大きい。一方、『アウト×デラックス』は、いまだ有名・無名問わず本物の「アウト」を探し求めている。

アウト軍団に目を移してみると、坂上忍という最大のヒットは、すでにお昼やプライムタイムに飛び立ち、ひふみん(加藤一二三)もその状態に近い。この番組はタレントのプロモーションや育成に重きを置いていないから面白いのだが、今後もときどきテレビ業界に「アウト」なスターを供給していくのではないか。

その意味で前述したEmi-chanは、ぜひアウト軍団に入れてほしい。今年は年始に放送された『ぐるナイ』の「おもしろ荘」や、『さんまのまんま』の今田耕司おすすめ芸人が不発気味で、まだ例年のようなブレイク芸人は見当たらず……。芸人ではないが、私が今年一番笑わせてもらったのは、まぎれもなくEmi-chanだった。

来週の贔屓は…テレ東社長も名指しでホメた『ヒャッキン!』

27日の『ヒャッキン!』は、防寒と新生活の準備に欠かせないグッズや引っ越しに役立つグッズを香港とドイツで調査。

来週放送の番組からピックアップする"贔屓"は、27日に放送される『ヒャッキン~世界で100円グッズを使ってみると?~』(テレビ東京系、毎週火曜18:55~)。同番組は、「日本が誇る"100円グッズ"を、まだそれを見たことのない世界の国々に持って行き、現地の人々がどんな反応をするのかを調査する」ドキュメントバラエティ。

「外国人に日本製品を使ってもらう」企画なら他局で放送されているが、100円グッズに振り切れるのはテレビ東京ならでは。究極の庶民性と意外な感動を武器に、昨秋のスタートからわずか4カ月で看板番組となり、22日の社長会見でも名指しでホメられていた。

『緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦』『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』ばかりが話題になりがちだが、「こちらのほうがテレ東らしいのでは?」という期待を込めて掘り下げていきたい。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。