テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第3回は、17日に放送された『ねほりんぱほりん』(NHK Eテレ、毎週水曜23:00~)をピックアップする。
同番組は、「ヒモと暮らす女」「元サークルクラッシャー」「パパ活女子」「ネトゲ廃人」「ヘリコプターペアレント」…といったエッジの効いた顔出しNGのゲストがブタに、インタビューアーの山里亮太とYOUがモグラの人形にふんして、根掘り葉掘り聞き出すトークショー。
「過激トークをNHK伝統の人形劇で中和する」という絶妙な攻めと守りのバランスで、熱狂的なファンを持つ番組だが、昨年10月スタートのシーズン2は、ぶっちゃけどうなのか? 現在地点を探っていく。
ストーカー寸前の「ガチ恋TO」
今回のテーマは、「ガチ恋トップオタ」。応援コールを先導するなどアイドルファンの頂点に君臨する一方、「本気でつき合おうと思っている」というストーカー寸前でもあり、番組としてはど真ん中のゲストだ。
「トップオタ」は、通称TO(ティーオー)。通常1人のアイドルにつき1人いるという。近年、アイドルが会って話せる身近な存在になった結果、「ガチ恋」志向のファンが生まれているらしい。
すかさずYOUが「キモい」「あと一歩でストーカーってことでしょ」とつぶやく。一方の山里はゲストのテツさん(仮名、29歳)が登場するや、「僕らが思い描くオタクの方」と反応。2人は常に、視聴者の目線と心の声を代弁してくれる。
テツさんのオタク歴は9年。推しているのは「ライブをやると50~100人が集まる」レベルの地下アイドルで、使った金額は500万円以上、ライブに行った回数は1,000回以上(月20回)というからすさまじい。
「好きな人に(握手会などで)触れられるのがアイドル」「時間もお金もすべて捧げている」「心のどこかでつき合えるのではないかと思っている」…止まらないテツさんに、山里が「(距離が近すぎて)芸能人を追いかけているという感覚が変わってこない?」と探りを入れると、テツさんの返事は「『この子、絶対オレのこと好きだろ』って思う」。見事にストーカーまがいのヤバイフレーズを引き出した。
YOUも負けていない。「グッズは欲求よりも義務感で買う」というテツさんに、「そうやって自己破産していくんだよ」と吐き捨てた。
同番組における"表の楽しみ"は、週替わりゲストの過激コメントと、人形造形・操演の職人技。しかし、"裏の楽しみ"である山里&YOUのツッコミこそ醍醐味とも言える。
2人はゲストに乱暴な言葉を吐いたり、素朴な疑問を投げかけたり、優しい言葉で安心させたり……すべて相手が素人であることを承知の上でツッコミを入れているのだ。ルックスも、さしたる受賞歴もない2人がなぜテレビ番組に出続けられるのか? 若手芸人やバラドルたちにとっては最高の教材だろう。さすがはNHK教育テレビジョン。
感動をドーンと押しつけないEテレ
テツさんはTOになった理由を「運動音痴でスクールカーストが下位だったので、『誰かに認められたい』という願望があった。オタクにはクラスの中心になれなかった子が多い」と語る。だから、先代のTOが借金1,000万円になって自己破産したとき、「チャンス」と思ったようだ。テツさんは努力の結果、周囲のオタクたちに認められてTOに登り詰めたという。
ただ、テツさんは「ライブ終わりの帰り道でカップルを見たとき、ポケットにあるチェキの中では私も同じことをしているんですよ。でも現実ではないし、ハァ……って」と虚しさを感じていた。それでも、「アイドルのせいで病んでつらくなったとき、元気をもらうのはアイドルのライブ」と悪循環から抜け出せない。山里いわく「ストレスの地産地消」。ちなみに、地下アイドル100人アンケートでは、「TOを恋愛対象として見られない」が97%を占めた。
どこまでも救いのない人……と思いきや、最後にどんでん返しが待っていた。推しアイドルのグループが解散してソロになったことでテツさんの心境が一変。「TOとして認められる環境が好きだったことに気づいたんですよ。ガチ恋だと思おうとしていました」「最後に出禁覚悟で電話番号を聞いちゃったんですけど、『まだアイドル続けたいから待ってて』って言われて、そんなにショックを受けていない自分がショックだった」と、TOからの卒業を明かしたのだ。
「生ビールで乾杯したい気分。おめでとう!」と喜ぶYOUに、テツさんは「今、彼女がいて、結婚したいなと思っている」と衝撃の告白。さらに、「アイドルオタクをやったから女の子としゃべれるようになって彼女ができた。TOじゃなくて、彼女のOTTO(夫)になろうかなと」のオチまでつけて番組は終了した。
最後に多少なりの感動要素を添えたのは、さすがEテレ。「ここまでやってこそのNHK教育テレビジョン」ということかもしれない。やや誘導的な演出にも思えるが、民放ならもっと感動をドーンと押しつけてくるだろう。良く言えば冷静、悪く言えば淡泊。だから民放のトークショーと比べて新鮮に映るのか。
ともあれ、30分間でここまでギュッと詰まったトークショーなら人気があって当然。シーズン2終了後は、すぐに「ロス」や「シーズン3求む」の声が殺到しそうだ。
来週の"贔屓"は…いまだ業界視聴率トップクラス『水曜日のダウンタウン』
来週放送の番組からピックアップする"贔屓"の番組は、24日に放送される『水曜日のダウンタウン』(TBS系、毎週水曜22:00~)。2014年4月の放送スタートから、まもなく4年になるにもかかわらず、いまだ「業界視聴率トップクラス」「プライム帯で最も攻めている番組」などの声が挙がっているが、その品質や演出に変わりはないのか。
次回の放送では、「芸能人の地元探れば元カレ元カノぐらい簡単に見つかる説」のほか、「ミスター押忍が空手全国大会出場」「忘年会・新年会は最高何次会まで?」などが予定されている。芸能人の元恋人が続々登場するほか、名物キャラのミスター押忍に衝撃の結末が訪れるなど波乱必至であり、今から待ち遠しい。
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。