テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第248回は、10月29日に放送されたNHK Eテレの教育バラエティ番組『ワルイコあつまれ』(21:00~)をピックアップする。

昨年9月に新しい地図が出演する特番としてスタートしたあと、今年1月1日の放送を経て、4月からレギュラー放送がスタート。香取慎吾の“慎吾ママ”を筆頭に、3人が『SMAP×SMAP』(カンテレ・フジテレビ系)以来のコミカルなキャラクターを演じている。

初のゴールデンタイム放送だった今回の特番には、明石家さんまや山本耕史らが出演するなど、その内容は豪華そのもの。この番組にはどんな魅力があり、新しい地図にとってはどんな意味があるのか。

  • (左から)草なぎ剛、稲垣吾郎、香取慎吾

    (左から)草なぎ剛、稲垣吾郎、香取慎吾

■いきなりSMAP解散にふれたさんま

オープニングでNHKの高瀬耕造アナが登場。まるで報道番組のように始まり、この日のラインナップがニューストピックスのように紹介された。

最初のコーナーは、子どもたちが記者になってゲストに遠慮なしの質問をぶつける「子ども記者会見」。今回のゲストはEテレ初出演の明石家さんまだけに、その図式は『あっぱれさんま大先生』(フジテレビ系)を彷彿とさせた。

質疑応答に入る前から、さんま節がさく裂。いきなり「いろいろ騒動があったのは7年前なのか。僕は間に入って大変でした。でもこうしてちゃんとみんな頑張ってやっているからうれしい」と切り出して視聴者の興味を誘った。これに司会役の稲垣吾郎が「さんまさんには我々も相談しておりました」と呼応。香取慎吾も笑みを浮かべたが、NHKだから見られるこのやり取りに、3人の充実感が裏付けされているようで安心させられる。

子どもたちの主な質問は、「ウソの話をホントにするってどういうこと?」「芸能界で敵なしですがHIKAKINよりすごい?」「YouTubeに出ない?」「コンプライアンスはどう考えている?」「お笑い芸人にはどうやったらなれる?」「今は芸人として売れるのはむずかしい?」「番組の収録おわりに反省会はする?」「どうしたらおもしろいキャラになれる?」「なやみはありますか?」「将来の夢はある?」「なんでここまで長く芸能界を続けられた?」「マスコミに追われるのはいやだった?」「いつまで仕事をつづける?」。

ここでも民放では見られないであろう質問があり、さらにさんまは子ども相手だからか、ボケるというより真面目に答え続けていた。そんなコメントの成果が現れていたのが「さんまの名言」というテロップ。

「笑いは狙っている」「ゲストに合わせて話を準備する」「書いたネタは面白くない」「いちばんの敵はユーチューバー」「最後までテレビでがんばりたい」「YouTubeには死んだ時に初めて出る」「さんまはがんばり屋さん」「SNSでエゴサーチはしない」「人の悪口は言わない」「すべては編集にまかせる」「笑いとは緊張の緩和」「27歳の秋 反省することをやめた」「反省会から絶賛会へ」「今日が頂点」「人生は人より楽しんで!」「どうしたら楽しめるかを考えることが楽しい」「ダメだったらやめることはできる」「死ぬときにひとつでも後悔がないように生きる」「後輩にカッコワルイ姿を見せるためにテレビに出る」「ひとりはさみしい」

芸能人に限らず一般人の参考にもなりそうな名言が多く、しかも年齢不問なのがすごいところ。「さすがEテレの番組らしい学びがある」と感じさせられた。

■香取慎吾と山本耕史がボケ合戦

さらに、さんまはタメ口の少女に「キミ、昔オレとつき合ってた?」とツッコミを入れたり、「今、『オレたちひょうきん族』(フジ系)や『恋のから騒ぎ』(日本テレビ系)はできない」と往年の視聴者が喜ぶワードを入れたり、「再婚は考える」とリップサービスしたり、MCではないさんまを見られる楽しさがあった。

最後は司会の稲垣が「子ども記者のみなさんは『家に帰るまでが記者会見』なので気をつけて帰ってください」と声をかけ、全員で「はーい!」と返事。さんまも子ども記者たちも終始、楽しそうで穏やかなムードが漂っていただけに、21時台というより19時台の放送が合いそうな感があった。

次のコーナーは、歴史上の人物に本音を聞くタイムスリップトーク「慎吾ママの部屋」。まずは前振りのように、過去に放送したトーマス・エジソン(寺脇康文)、豊臣秀吉(竹中直人)、紫式部(宮澤エマ)、クレオパトラ7世(三田佳子)、上杉謙信(高橋克典)の名言集を見せたが、あらためて名優たちの出演とユーモアあふれる役作りに驚かされる。

今回の特番では、山本耕史が土方歳三にふんして登場。香取が近藤勇を演じた18年前の大河ドラマ『新選組!』以来だが、いかにも視聴率が上がりそうな組み合わせだ。香取はこぶしを口に入れる当時の名シーンを再現しようとするが、「びっくりするくらい入らない」と失敗して笑いを誘う。一方の山本は、土方“トシ”三として田原俊彦のモノマネをしたり、ずん・飯尾和樹のネタをマネしたりなど、笑いの手数では負けていなかった。

最後は、土方が慎吾ママに新選組の法被を着せたことで近藤勇が憑依。2人の小芝居が始まり、近藤「まさかお前とまたこんな形で会えるとは思わなかった」、土方「こんな形で会うべきではなかった。だが最高だ」とオチをつけた。「大河ドラマや朝ドラを自らイジれる」のはNHKの特権であり、現在バラエティに力を入れているだけに、もう少し増やしていいのかもしれない。