テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第228回は、12日に放送されたABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ番組『新婚さんいらっしゃい!』(毎週日曜12:55~)をピックアップする。

1971年のスタートから51年の歴史を持つ超長寿番組だが、今春に一大リニューアル。桂文枝と山瀬まみが番組を卒業し、藤井隆と井上咲楽が新MCとなったが、何を受け継ぎ、何が変わったのか。

  • 『新婚さんいらっしゃい!』MCの藤井隆(左)と井上咲楽

    『新婚さんいらっしゃい!』MCの藤井隆(左)と井上咲楽

■相手のテンションを下げない藤井隆

オープニングトークは、楽屋に差し入れられたドーナツについて。藤井から「めちゃくちゃおいしかったです。『一番好きなドーナツが見つかった』って感じがしました。まだ食べてない? じゃあちょうだい」と、まくしたてられた井上は「絶対に嫌です」と拒否する。

これに藤井は「自分何年目? ちょうだい!」とすごんで怖い顔を見せたあと、ハッと気づいたような仕草で笑顔に変わって「それではさっそく参りましょう。新婚さんいらっしゃい!」とタイトルコール。冒頭から藤井の薄いトークと濃いキャラがさく裂し、あらためてリニューアルしたことを感じさせられた。

CMをはさんで沖縄県那覇市の高良勝盛さん(48歳)と佳代子さん(42歳)が登場。妻はプロのサンバダンサーで、いきなり歌いながら踊りはじめて笑いを誘う。

出会いは佳代子さんが39歳のときに行われたワイン会。そこで友人から勝盛さんを紹介されたという。そこから佳代子さんのマシンガントークがさく裂。「いかにも沖縄人の夫ではなく、斎藤工のようなタイプが好きだった」「誘いを断り続けたが、Facebookでも誘い続けてきた」「『今日は飲みたい気分』と投稿したら『すぐに空いているから行きましょう』と連絡が来た」などのエピソードを明かし、告白シーンでは再びサンバダンスを披露した。

「サンバでお腹やお尻を出すことをどう思うのか」と不安を抱いた佳代子さんは勝盛さんをサンバショーに誘ったという。ところが勝盛さんは大賛成だったようで、この日のスタジオでも、胸とお尻をパパイヤとマンゴーに例えて歌い始め、それに藤井も「パパイヤ、マンゴー」と呼応。相手のテンションを下げさせないノリの良さは藤井ならではのものであり、一般人の新婚さんにとっては何ともやりやすい司会者だろう。

佳代子さんは「『僕のタイプはビヨンセ、レディーガガ、マドンナ』と言われて、『私、世界レベル、フー! お嫁サンバ、フー!』」と叫びながら踊り、「それでお嫁に行きました」と自らオチをつけた。まるで一発屋芸人のような佳代子さんの振る舞いは、本人の面白さだけでなく、スタッフの入念な打ち合わせと、司会のムード作りによるものではないか。

■新婚さんの方言とイスコケは継承

続いて話題は、「夫とサンバを踊りたい」という妻の夢に移るが、夫は「恥ずかしいさぁ~」と拒否する。ここで藤井が「あらっ? カンペが出ました。『実は奥さんの夢を叶えるためにある助っ人が来てくれています』」と語り、サンバダンサーにふんした“新婚さんサポーター”のゆりやんレトリィバァが登場。「松平健です」というひとボケをはさんで、2人が踊る特別ステージの存在が明かされた。

勝盛さんは「いやいや、恥ずかしいですよ」と拒否しながらも、「……分かりました。佳代ちゃんと一緒に踊りましょう!」と夫婦でのサンバダンスを承諾。しかし、このくだりは芝居がかっていた上に、すぐに放送せず「番組後半で」とじらしてしまった。一般人に過剰な芝居をさせることも、後半にじらしたことも、昭和・平成的な手法であって、番組の伝統とは別物ではないか。

続いて、岡山県津山市の藤澤節夫さん(66歳)と由美子さん(54歳)が登場。節夫さんが「出会いは5,000円のお見合いパーティー」「8人の女性がいて、その中に由美子がいた」と話せば、由美子さんも「(最初のデートは)派手なスポーツカーで来て、年金生活のはずなのにおしゃれなオープンカフェの会計もしてくれた」と、ほのぼのとしたトーンで話し始める。

節夫さんが「ローストビーフの上にフォアグラが載っとった」と笑うと、由美子さんも「そんなの食べることねえからすっげえうれしかった」と笑顔を見せるなど、2人の息はピッタリ。方言丸出しで話すところも含め、ここは“らしさ”を感じる番組の伝統に見えた。

ただ、続くトークで節夫さんが父の借金1億8,000万円を引き継ぐことになり、由美子さんが保証人になったことが明かされる。当の節夫さんが「そんなの他の人にしたらだまされるよ」と他人事のように語ると、すかさず藤井が「どの口がおっしゃってるんですか!」とツッコミを入れた。この瞬発力も78歳の桂文枝にはなかったものであり、リニューアル後の変化が感じられる。

さらに、「借金は何年で返済できるんですか?」と尋ねられた節夫さんが「だいたい20年」と答えたところで、ついに藤井がイスコケを披露。突っ伏したまま起き上がらず、足を組んだまま「遠いな~」とポーズを取って笑いを誘った。

もちろんこれも番組の伝統であり、これから藤井らしいイスコケを作り上げていくのだろう。「新たに設計し直した」というイスは確かにコケやすそうであり、リニューアル初回で見せた井上とのWイスコケも含め、放送が進むごとに良化が期待できそうなところと言って良さそうだ。