テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第227回は、4日に放送されたフジテレビのバラエティ特番『ものまね師弟バトル MANE-1』(16:30~)をピックアップする。
「ものまねのプロがタレントに教えて競い合う」というコンセプトを聞いたとき、昨年7月14日に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の「声を操るプロ声優ならモノマネも上手いはず説」を思い出してしまった。
この説は「プロの声優がものまね芸人8人からのレクチャーを受けてトーナメントで対決する」というもの。当時はツイッターのトレンド入りしたほど反響の大きかった企画であり、しかも荒牧陽子、Mr.シャチホコ、みかんなどの出演がかぶっているだけに、どんな違いを見せられるのか気になっていた。
■視聴者にも「ものまねのコツ」を伝授
番組冒頭、「映画『浅草キッド』で観客を驚かせたビートたけしさん役の柳楽優弥さんの演技。演技指導にモノマネ芸人・松村邦洋さんが参加していたことが話題となりました。人には必ず1つそっくりにできるものまねがある。この番組は、ものまねという芸を極めたスペシャリストたちがまったくの素人を弟子に取り、徹底指導を行って、ステージに送り出すという新感覚ものまねバラエティ」というナレーションが流れた。
『浅草キッド』を引き合いに出したこと。シアター風のセットを手がけ、MCの劇団ひとり、岡田結実に「支配人」「副支配人」という肩書きをつけたこと。わざわざ「新感覚ものまね」とうたったこと。これらによって、むしろ「『水曜日のダウンタウン』とは違いますよ」と影響を受けたことを意識した上で、避けようとしている感がにじみ出ていた。ただ、内容で上回ることができれば、あちらも単発企画に過ぎないため、大きな問題はないだろう。
“ものまね見届け人”として松村邦洋、原口あきまさ、朝日奈央が登場。この3人が審査をするのだが、折しも原口がYouTubeでものまね番組の審査員について疑問を呈し、「(一般タレントではなく)自分たちの世代(のプロ)が審査員をやってもいいと思う」などと話していたばかりだっただけに、この番組ではそれが実現していたことが興味深い。ならば、この番組は「ものまね審査員・原口あきまさ」も注目事項の1つになる。
一方、師匠として弟子たちにものまねを伝授するのは、みかん、Mr.シャチホコ、ビューティーこくぶ、荒牧陽子の4人。『水曜日のダウンタウン』は、荒牧を除く3人に加えて、原口あきまさ、神奈月、ホリ、ミラクルひかる、ほいけんたが出演していた。今回の人選は、原口、神奈月、ホリ、ミラクルひかるのような笑いを前面に出すスタイルではなく、歌まねが得意なメンバーが中心という印象がある。
最初に登場したコンビは、師匠・みかんと弟子・王林の果物つながり。みかんは「なまっているからものまねができない」という王林に、さっそく鈴木奈々のものまねを伝授し始めた。そのやり取りを、演出サイドは「大きな声」「身振り手振りをオーバーに」「同じことを何回も繰り返し言う」という3つのポイントにまとめてテロップで表示。「視聴者がものまねのコツを知ってトライできる」ことも、当番組の魅力となり得るものだろう。
■「MCがものまねを酷評」でひと笑い
その後、歌まねの練習シーンを少し流したあと、本番のステージがスタート。王林は「昭和の渡辺真知子、平成の倖田來未、令和のLiSA」という歌姫リレーに、「唯一の持ちネタ」というおじゃる丸と鈴木奈々のトークを絡めたものまねを披露した。
みかんは師匠というより親のような目線で王林を見守り、涙顔で出迎えたあと、鈴木奈々のものまねで共演。一方、トップバッターを務めた弟子の王林は、「生きた心地しない。この曲しか聴いてない1カ月くらい過ごしたし、まねして歌う感覚がつかめなくて……」と不安を吐露した。
これを見た松村はビートたけしのものまねで、「姉ちゃん、芸能界トップ獲っちゃえよ」と絶賛。さらに「普段のものまねと違うのは、師匠と弟子がいい形になっているってのは、この番組すごいね」と番組の魅力を語った。確かに師匠も弟子も売れっ子タレントである分、『水曜日のダウンタウン』よりも、その関係性がやや分かりやすかったかもしれない。
2組目は師匠・シャチホコと弟子・こがけんの芸人コンビが登場。代名詞の和田アキ子を伝授し、「声を節目節目で弾ませる」「歩くときは汽車ポッポのポーズ」という2つのポイントを明かした。
結局、こがけんは和田アキ子のトークをベースに、西城秀樹、渡部陽一、星野源をコントスタイルで披露。終了後、師匠のシャチホコと和田アキ子のものまねで共演し、「緊張してテンパるほど似てくる」というもう1つのポイントが加えられた。
ものまねのクオリティはさておき、出色だったのは見届け人とMCのコメント。まず原口がそれまでものまねしていた明石家さんまから“アッコファミリー”の勝俣州和に切り替えてコメントを始め、松村もビートたけしから“アッコファミリー”の出川哲朗に切り替えてトークに絡んだ。
さらに、劇団ひとりが「最後まで、こがけんだった」と星野源のものまねを酷評して笑いを誘った。MCが酷評できるのも、「プロが教えるとは言え、素人が挑戦」という企画ならではであり、これは声優をリスペクトするスタンスの『水曜日のダウンタウン』にはないものだろう。