3組目は師匠・ビューティーこくぶと弟子・杉浦太陽のコンビ。「歌が苦手」という杉浦に桐谷健太、GReeeeN、槇原敬之のものまねを伝授したのだが、なんと「本番まで5日間しかない」という。スケジュールの都合なのか、制作側の意図なのか。どちらでも問題はないが、映像の尺が短すぎて「日にちがない」という切迫感が伝わらずに終わってしまった。
案の定、劇団ひとりは「(練習期間が)『5日くらいだろうな』って感じがしましたね」とバッサリ。ビューティーこくぶは、その空気を変えるべくジャパネットたかたの高田明前社長のものまねを振って共演したが、微妙な空気を変えることはできなかった。
さらに、それを受けた松村がたけしのものまねで、「(劇団)ひとりの司会はね、フジテレビ(の番組)ってのは、ものまねを大体ほめながら乗せてあげてやるんだよ。司会のお前が否定してどうすんだ」と愛のあるフォロー。この番組は、劇団ひとり、松村、原口の3人が笑いとフォローを担保することで笑いの手数と好感度をワンランク上げていた。
最後は、師匠・荒牧陽子と弟子・佐藤仁美のコンビが登場。細かい技術を求めるなど、ハイレベルな指導に佐藤が「心が折れてる……」とこぼすほどのスパルタ指導で、中島みゆき、工藤静香、松任谷由実の歌まねをするという。
本番直前、荒牧が「上手で困っちゃうくらい。“ものまね芸人”として本気で歌ってきて」と自らハードルを上げまくる中、佐藤は見事なものまねを披露。激辛コメントが続いていた劇団ひとりが「別格ですよ。これが観たかった!」「荒牧さんイズムも継いでる」と絶賛したほか、見届け人の3人も満場一致で優勝に選んだ。
終わってみれば、師匠と弟子の関係性は、「師匠が親のように弟子を見守る」「自信が持てない弟子を師匠が『天才』と励ます」「時間のない中、短期集中型の指導」「ハイレベルのスパルタ指導」という4パターンに色分けされていた。ただ、そもそも4パターンを見せたいのなら、1時間番組では明らかに足りず、事実その違いは視聴者に伝わらなかったのではないか。
■ノウハウも売る師匠たちに相応しい報酬を
「1時間番組で4組を詰め込んだため尺が足りない」という点で、もう1つもったいなさを感じたのは、技術的な指導シーンや努力を重ねたシーンが少なかったこと。「師匠と弟子の関係性が伝わりにくかった」だけでなく、「何があって、どんなステップを経て、それなりに似ているところまでたどり着いたのか」。また、「採用されなかったネタの中にも笑いどころが多々あったのではないか」などと感じてしまった。
この番組の魅力は、「師匠と弟子の関係性」「ものまねのステージ」「視聴者も使えるものまねのコツ」「MCと見届け人のトーク」など、さまざまな点があったが、今回は結果的にそれぞれ薄味に留まったまま終了。「こういう番組」「『水ダウ』とは違う」というメッセージを見せられなかったが、もともと大がかりな企画だけに『土曜プレミアム』あたりで時間と予算を割いて見せることで解消できるかもしれない。
原口はYouTubeで「ものまね番組に出なくなった理由」の1つとして審査方法や演出などの問題点を挙げていたが、当番組に関して言えば、それらは見当たらなかった。ただ、その一方で「似ている」と「笑いを交える」が混在した審査基準のモヤモヤは解消されていない。今回の特番も、「似ている」のは圧倒的に佐藤だったが、「似ている上に笑える」という基準なら王林とは僅差だったように見えた。
原口、ホリ、ミラクルひかるらのように「似ている上に笑いが取れる」というレベルのものまね芸人は少なく、その実力は圧倒的だけに、まずは彼らを適正に扱うことが視聴者目線につながっていくのではないか。その意味で、フジテレビの『ものまね王座決定戦』と日本テレビの『ものまねグランプリ』は、そろそろリニューアルが必要な時期に見える。
また、番組側にぜひお願いしたいのは、師匠に払われる報酬の額。「ものまねを披露する」だけでなく、「ノウハウも売ってもらう」のだから相応の報酬が必要であり、安く買い叩くようであれば傲慢な制作姿勢にほかならない。すでにYouTubeなどの配信で稼いでいるものまねタレントたちがいる今、テレビの優先度は下がっていくだけだろう。
■次の“贔屓”は……司会交替から2カ月、何が変わった?『新婚さんいらっしゃい!』
『新婚さんいらっしゃい!』MCの藤井隆(左)と井上咲楽
今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、12日に放送されるABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ番組『新婚さんいらっしゃい!』(毎週日曜12:55～)。
1971年のスタートから51年超の歴史を持つ超長寿番組だが、今春に一大リニューアル。桂文枝と山瀬まみが番組を卒業し、藤井隆と井上咲楽が新MCとなったが、何を受け継ぎ、何が変わったのか。
次回の放送では、沖縄のプロサンバダンサー妻などが登場するという。いかにも藤井との相性のよさそうな出演者だけに、番組の新たな姿が見えるかもしれない。
