テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第22回は5月28日に放送された『痛快TV スカッとジャパン』 (フジテレビ系、毎週月曜19:57~)をピックアップする。

同番組は、日常生活にあふれるイライラや不満をスカッと解決する再現ドラマ型のバラエティ。木下ほうかの「イヤミ課長」や菜々緒の「エリカ」などの名物キャラを生み出し、若手俳優を起用した「胸キュンスカッと」などのヒット企画も多い。

かつて月曜20時の定番だった時代劇『水戸黄門』(TBS系)を思わせる勧善懲悪の爆発力は、放送開始から3年半がすぎた今なお健在なのか、チェックしていく。

俳優の演技力とギャップで笑いは高値安定

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『痛快TV スカッとジャパン』MCの内村光良

オープニングコーナーの「投稿ショートショートスカッと」を見ればわかるように、この番組は、とにかくせっかちだ。番組スタートと同時に、いきなり60秒×4本のエピソードが立て続けに放送される。

1本目のタイトル画面には、「1/4連発 解決まで60秒! 車に傷がついたと騒ぐイチャモン男 長崎県 花ちゃんさんからの投稿 ※賞金1万円を差し上げます」と文字がズラリ。これだけの文字量を3秒程度で読んでくれ、というのだから明らかに説明過多なのだが、こんなあわただしさこそ当番組の持ち味と言える。

その後、「公共のベンチを占領する迷惑男」「ケータイをのぞき見してくる男」「コンビニに家庭ごみ女」を放送したのち、ようやくスタジオのゲストを紹介。森昌子、有村架純、若槻千夏、千鳥、陣内智則……年齢・性別・活動フィールドのバランスがいいため、トークの多彩さは自動的に担保されている。

続いて放送されたのは、新企画「ハラスメントスカッと」。時代をとらえようとする意識の高さがうかがえるが、街頭インタビューで「いかにさまざまなハラスメントが増えているか」の裏付けを取るあたりに、スタッフのきまじめな姿勢が見える。

ヒット企画となることを狙ってか、1発目の「ラブハラお局」に片瀬那奈、2発目の「ソーハラ上司」に袴田吉彦とメジャー俳優を起用。それぞれ、ラブ・ハラスメント(「彼氏・彼女がいない」など恋愛関連の話題でストレスを与える)、ソーシャル・ハラスメント(SNSに職場の上下関係を持ち込む)の上司役をケレン味たっぷりに演じ切った。

直後に登場した夏菜も含め俳優たちは、コントを上回る過剰な演技や変顔を披露していく。芸人やバラドルではなく本職の俳優が演じることで、演技力とギャップによる笑いのアベレージは常に高値安定。視聴者は「『スカッとジャパン』に出演する=面白い俳優」という認識になりやすく、「嫌なやつ」と受け止められて好感度が落ちるリスクは低い。

「胸キュンが足りない」月9ドラマをフォロー

各エピソードの中盤で、「このあとスカッとする出来事が!」と、わざわざ結末を予告すること。もともとショートエピソードを集めた番組なのに、より短い「ショートショートスカッと」を加えたこと。スタジオのゲストがスカッとボタンを押すシーンを減らしてエピソードを詰め込んでいること。どの構成・演出を取っても、せっかちであり、それは現在の視聴傾向に合わせたものだろう。

そもそもショートエピソードを連続させる構成は、ネット普及による短尺動画時代の申し子と言えるもの。見応えや深さより、わかりやすさと手数の多さで勝負しているのは間違いなく、登場するのは巨悪ではなく小悪党ばかりだ。

「翌日まで話題になる」というより、「放送中にSNSで話題になる」タイプのコンテンツであり、良く言えば「瞬発力はある」が、悪く言えば「語り継がれる名作は生まれにくい」。しかし、連ドラでも、先の読めない連続性を楽しむ不定形の作品より、一話完結の予定調和を楽しむ定型の作品が高視聴率を獲得しがちなだけに、その流れをいち早く採り入れたスタッフの慧眼が光る。

忘れてならないのは、看板コーナーの1つである「胸キュンスカッと」。この日もKing & Prince・高橋海人と加藤小夏が「優等生とダメガール」を演じたが、学園ドラマが減り活躍の場が少ない若手俳優の登竜門となっている。

その甘酸っぱい世界観は、青春恋愛漫画の『BOYS BE…』を彷彿(ほうふつ)。実際、「胸キュンスカッと」は5冊がコミカライズされ、累計15万部を突破するなど、恋愛離れが叫ばれる若者世代の受け皿となっている。かつてのように月9ドラマで若者の恋愛を扱わなくなった分、ここでフォローしているのだ。

この日のスタジオトークで、有村架純が「内村(光良)さんは優しさの塊」と称えるシーンがあった。その内村はゲストたちを優しく見守り、ゲストたちはその優しさに包まれて持ち味を発揮する。そんな優しさあふれる世界観がベースにあるから、度が過ぎたゲスキャラも、行き過ぎたケレン味も、視聴者は受け入れやすいのではないか。

昨今のバイプレーヤーブームもあって出演俳優の候補は多いだけに、これからもぶっ飛んだキャラを生み出していくはずだ。

来週の"贔屓"は…今春リニューアルの成果は?『ナカイの窓』

来週の放送からピックアップする"贔屓"の番組は、6日に放送される『ナカイの窓』(日本テレビ系、毎週水曜23:59~)。同番組は2012年10月、エッジの効いた芸能人の集うトークバラエティとしてスタート。深夜番組らしいセキララなトークを売りにしていたが、今春に「ロケ先に円卓を持ち込んでトークする」という形にリニューアルされた。

次回のロケ先は、新宿二丁目。「二丁目のきゃりーぱみゅぱみゅ」山田ホアニータ、「ディスの極み乙女」チカコ・リラックスなど、出演者からしてヤバイムードが漂ってくる。これ以上ないほどのディープなネタだけに、リニューアルの成果が試されるのではないか。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。