テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第206回は、8日に放送された日本テレビ系ドキュメントバラエティ特番『はじめてのおつかい 泣いて笑って3時間 新春の大冒険SP』(19:00~)をピックアップする。

1991年の放送開始から30年を超え、日本を代表する特番と言っていいだろう。幼い子どもたちの奮闘と迷走に泣き笑い笑いさせられるだけでなく、時に育児や教育を深く考えさせられる番組としてもすっかり定着した。

「30年の節目を超えて何かしらの変化が見られるのか」「新年早々の特番放送にはどんな意味があるのか」などにも注目していきたい。

  • 『はじめてのおつかい』MCの所ジョージ

    『はじめてのおつかい』MCの所ジョージ

■あえて映り込む姿を見せる編集

オープニングでMCの森口博子が「今回の放送は2世代にわたってのおつかい 新作続々3時間スペシャル」であることを発表。視聴者を引きつけようとしているのは分かるが、冒頭から「普段は新作ではないものも多く放送している」と、自ら明かすような言葉選びには疑問が残った。

もともとこの番組は、お蔵入りするエピソードが多いことでも知られ、「1つでも多くの新たなおつかいを見たい」という人が少なくない。しかし、日テレとしては毎分視聴率を意識して制作するため、必ずしも新作が選ばれるわけではないのだろう。これは両者にとって不幸なすれ違いのように見える。

1つ目のエピソードは、電車大好きな千葉県銚子市の大和くん(4歳10カ月)が「銚子電鉄に乗ってお母さんの誕生日プレゼントを買いに行く」という。大和くんは1人で電車に乗り、声をかけて店を探し、希望を伝えてプリントTシャツをオーダーするなど、そつのない姿を見せる。

その一方で、時間はたっぷりあるのに「電車の時間がやばい! やばい!」を連発したほか、反対方向の車両に乗ってしまい、プレゼントを置き忘れて下車しそうになるなど笑いも誘った。

最後はお母さんにTシャツをプレゼントし、ケーキを家族5人で食べるシーンで終了。その間、犬吠埼の美しい景色が何度も映されていたが、こんな旅情も番組の牧歌的なムードを高める一つの演出であり、地域のプロモーションにも貢献していて素晴らしい。

また、冒頭から番組スタッフが見切れる形で繰り返し映り込んでいたが、完全に隠れることが難しいことに加えて、「安全に配慮したロケであること」を視聴者に伝える編集だろう。

2つ目は藤沢のほのかちゃん(5歳)・葵くん(3歳3カ月)姉弟のおつかいである上に、「続けて3度買いに行く」というバリエーションを見せるタイプのエピソードだった。

面白かったのは、ホタテ、自然薯、卵、パイナップル、レディー大根……と難易度が増していくこと。「メモを持たせない」という暗黙の了解があるため、ミスはつきものなのだが、1度目より2度目、2度目より3度目と、「わずか数分間の映像で姉弟が成長する姿を見せる」という効率のいい構成だった。

最後は「母親が玄関前で子どもたちを出迎えて抱き締め、買った食材を使った料理を食べる」という定番シーンで終了。子どもを抱き締めながら、安心、驚き、うれしさなどがあふれ出る母親を見て、視聴者の感情移入を誘う演出とも言える。

■最年少2歳5カ月児にハラハラ…

3つ目のエピソードは親子2代にわたるおつかい。まずは父親の祐紀さんが北海道小清水町でおつかいをした29年前のエピソードから放送された。当時、2歳6カ月だった父親は、3歳8カ月の兄・宏陽さんと、兄弟でおつかいへ。

無事におつかいを終えたが、帰り道は雨に降られてしまい、涙がこぼれ落ちたとき、聞こえてきた挿入歌はB.B.クイーンズ「しょげないでよBaby」。さらに、兄弟が成長して新聞配達をする12年後の後日映像を挟んだあと、映像は29年後に切り替わった。

香川県善通寺市で自衛官となった父親・祐紀さんのために、娘の心菜ちゃん(3歳4カ月)がおつかいへ。ここでも無事におつかいを終えた帰り道、B.B.クイーンズの挿入歌「Love…素敵な僕ら」が流された。子どもの心境に合わせて歌詞やリズムの異なる挿入歌を使い分ける演出は効果的であり、番組の歴史も感じさせる。また、29年前におつかいをした父親・祐紀さんだけでなく、伯父・宏陽さんも駆けつけ、お遍路さんにふんしておつかいを見守る演出も微笑ましかった。

4つ目のエピソードは岡山県備前市の称大くん(2歳5カ月)が「妹の離乳食に使う新米を買いに行く」というコンセプト。「番組史上最年少」「新米お兄ちゃんが新米を買う」というテーマ性が採用の決め手か。

道中、通りすがりのおばちゃんが称大くんに「おはよう」と声をかけて気づかう様子も映されたが、古き良き日本人の姿を見せ、番組の安全性を伝えるという2つの意味で、これも欠かせないシーンなのだろう。

称大くんは足にチクチクの草がついて泣き出してしまったものの、スタッフのさりげないサポートで気を取り直し、何とか「新米2合」「おにぎり」のおつかいを達成。さらに醤油店で、しょうゆソフトクリームを買って食べようとするが、何度も大きく傾けてしまい、そのたびに視聴者はハラハラ……。

最後もお母さんの姿を見つけて走り出したが、あと10メートルのところで転んで泣き出してしまった。より幼い子どものエピソードでハラハラドキドキさせることも、この番組では欠かせない要素の1つとなっている。

直後、スタジオトークでゲストの藤ヶ谷太輔が「オンエアされなかった家族の方々も、『一緒に練習した時間は宝物だった』とおっしゃいます」とコメント。すかさず森口博子が「オンエアされるされないに関係なく、『短時間でお子さんの成長がそこにある』という意味ではすごい経験ですよね」とフォローを入れた。

このやり取りをあえて放送したのは、手前味噌だったかもしれない。番組の制作意義や正当性をアピールするのは、発信ツールが多様化した今、番組内である必要性はないだろう。