テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第19回は、9日に放送された『1周回って知らない話』(日本テレビ系、毎週水曜19:00~)をピックアップする。

同番組は、「当たり前になりすぎていて、今さら誰も説明してくれないことを当事者に直接訪ねる」というコンセプト。レギュラー放送開始から1年半が過ぎ、1周回ったテーマやゲストの顔ぶれは多彩さを増している。

今回は、この春で『とんねるずのみなさんのおかげでした』『めちゃ×2イケてるッ!』(ともにフジテレビ系)が終了したことを受けて、「長寿番組」にクローズアップ。アニメ『それいけ!アンパンマン』(日テレ系)をフィーチャーするのだが、他局の名番組を前振りにして、自局の番宣をしてしまうところが、大胆かつシビアだ。

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    『1周回って知らない話』MCの東野幸治(左)と川田裕美 (C)NTV

パズルのように番組表を埋める日テレ

ゲストには、アンパンマンの戸田恵子、ばいきんまんの中尾隆聖、しょくぱんまんの島本須美、カレーパンマンの柳沢三千代と声優陣がズラリ。さらに、まもなく公開の映画にゲスト声優として出演する杏とアンジャッシュも登場した。

まずは、「放送は30年前の1988年にスタートしたが、1969年に短編童話が発売されていた」「主人公がアンパンなのは、作者のやなせたかしさんが、アンパンをくれた友人がヒーローに見えたから」「第1話のアンパンマンは赤ちゃんだった」「アンパンマンだけはモノを食べない」「キャラクター数は2000以上」「アンパンマンはつぶあん」「ジャムおじさんとバタコさんは妖精で人間は1人もいない」などのトリビアを紹介。続けざまに、アニメ制作の現場に“テレビ初密着”する様子が放送された。

声優陣の他作品への出演や、声優業界の裏話を経て、『アンパンマン』のコーナーは終了。1990年代に人気絶頂だった保阪尚希、いしだ壱成、河相我聞がスタジオに現れる。保阪が「内臓破裂して死にかけた」、いしだが「二股報道で事務所を解雇」、河相が「隠し子報道」と、表舞台から姿を消した理由を語って番組は終了した。

トリビアやテレビ初密着(初告白)は、当番組の肝となるところ。実際、今回もさまざまなアングルから掘り下げることで、「なぜアンパンマンは子どもたちから愛され続けているのか?」という問いに対する説得力を担保していた。

そもそも当番組は、「1周回って知らない」若年層と、「1周回る前から知ってるつもり」の中高年層。その両方を狙い撃ちするクレバーな企画。そのターゲット構図は、『クイズ!年の差なんて』(フジ系)を彷彿(ほうふつ)とさせる。現在、年の差ギャップがベースの番組がほとんどないこともあり、グラデーションのようなわずかな違いでバラエティを量産して、パズルのように番組表を埋めていく日テレの編成戦略に感心してしまう。

「今どきの視聴者代表」に滝沢カレンや岡田結実、「1周回ったひな壇ゲスト」に鈴木紗理奈や二子山親方らを配した点も含め、いかにも視聴者の機微に敏感な日テレらしい。

テレビ業界と芸能界のイメージアップを担う

番組の全体像をつかむために、今年のメインゲストをざっと挙げてみよう。

「2世タレントの親(河相我聞、渡辺美奈代ら)」「日テレアナウンサー(桝太一、水卜麻美ら)」「ハリセンボン」「冬季五輪アスリート(荒川静香、村上佳菜子)」「出川哲朗、渡辺直美」「サンドウィッチマン」「青山学院大学の原晋監督と妻」「デヴィ・スカルノ」「大竹しのぶ」「岩田剛典」「日テレアナウンサー(藤井貴彦、岩本乃蒼ら)」「TRF」「アンパンマンの声優」。

俳優から芸人、アナウンサー、アスリートまで、人選の工夫がうかがえる。ただ、スケールという尺度で見ると、「近所のグラウンド1周レベル」から「日本1周レベル」まで大小の差が大きい。まさに玉石混交なのだが、毎週放送の1時間番組である以上、「黒柳徹子」「泉ピン子」「坂上忍」などの強烈なネタばかりでは、作り手だけでなく視聴者も疲れてしまう。あえて名前はあげないが、「まだ小さな1周しかしていない」ネタがいい意味での箸休めとして番組を支えているのではないか。

その上で気になるのは、自局のネタが増えていること。今年に入って2度も自局アナウンサーの特集があったほか、連ドラや映画をフィーチャーしている。当然ながら賢い現在の視聴者たちは、番宣の意図をお見通しだけに、これを続けるようなら番組のブランド力は落ちていくだろう。若年層、中高年層の両ターゲットから「この番組は信頼できる」という相思相愛の関係を築きやすいコンセプトだけにもったいなさを感じてしまう。

視聴率争いでトップに立ち続ける日テレなら、他局も巻き込んだテレビ業界や芸能界全体の「1周回って知らない話」を扱うことも無理ではないはずだ。とかくわかりやすさを求めがちな風潮の中、テレビ番組と芸能人には、まだまだ「暗黙の了解」「内輪ウケ」「お約束」のようなファジーなものが多い。業績以上にイメージの低下が叫ばれるテレビ業界と芸能界のイメージアップを担うべく、この番組の持つ可能性は小さくない気がする。

来週の"贔屓"は…微妙なポジションの芸能人女子会『有田哲平の夢なら醒めないで』

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『有田哲平の夢なら醒めないで』MCの大橋未歩(左)と有田哲平 (C)TBS

来週の放送からピックアップする"贔屓"の番組は、15日に放送される『有田哲平の夢なら醒めないで』(TBS系、毎週火曜23:56~)。同番組は、女性ゲストが「理想の男性像」や「欲望のアレコレ」を語り尽くす恋愛ロングインタビューバラエティ。

次回の放送では、「おブス女子の怒りSP!」と題して、有村藍里、須田亜香里、布川桃花らが本音をぶちまけるという。この番組らしい微妙なポジションの女性タレントたちだけに、"芸能人女子会"的な奔放トークを見せてくれるのではないか。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。