テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第173回は、14日に放送されたフジテレビ系バラエティ番組『新しいカギ』をピックアップする。

今年1月3日のパイロット版を経て、今春からレギュラー化されたコントベースのお笑いバラエティ。メインキャストを務めるチョコレートプラネット(長田庄平、松尾駿)、霜降り明星(せいや、粗品)、ハナコ(菊田竜大、秋山寛貴、岡部大)のフレッシュな顔合わせもあって、お笑いファンと業界内での注目度は高い。

休日の幕開けとなる金曜20時という重要な時間帯に編成されたところに期待の大きさが見て取れるが、どこにターゲットを置き、どんなコントを作り上げているのか。80年代からコント番組をけん引し続けてきたフジテレビの原点回帰と言える新番組だけに、どんなスタートを切ったのか確認しておきたい。

  • (左から)ハナコ、チョコレートプラネット、霜降り明星

■番組スタート直後のおバカコント

番組はいきなりコント「力見引越センター」からスタート。タイトルバック、番組説明、あおりVTRなどから入らない構成は爽快で、コント番組のファンたちも大歓迎だろう。

そのコントは、「何をするにも力みすぎてしまう力見力(りきみりき/長田)の顔と暴れっぷりを見て笑ってもらおう」というわかりやすくバカバカしいコンセプトだった(粗品、秋山も出演)。小学生でも瞬時に理解でき、学校でマネしたくなるタイプのコントであり、重点ターゲットのキー特性(13~49歳)より下の小学生も見据えたものではないか。

それにしても、物を壊しまくり、水をこぼしまくり、人を投げ捨てる……。かつて親世代に「子供に見せたくない番組」「テレビはくだらない」と言われ、だからこそ子供たちが熱狂したフジテレビの名作コント番組たちを思い出してしまった。

2つ目のコントは、「サカガミくんとオオタくん」。これは松尾の坂上忍と、せいやの爆笑問題・太田光を前面に出したモノマネコントだった(秋山、菊田、丸山礼も出演)。ただ、「モノマネは複数をたたみかけてナンボ」の時代だけに1人ずつでは盛り上がりに欠ける感があった。

3つ目のコントは、「つっこみの達人」。ゲーム・太鼓の達人をモチーフに、粗品が長田、松尾、岡部、せいや、秋山、菊田のボケに高速ツッコミを入れ続けていった。高速のツッコミはキレがよく、番組の緩急をつける貴重なアクセントコーナーになりそうだ。

4つ目のコントは、「ギリギリセーフ」。ゾンビに噛まれた疑惑のあるギリ田(松尾)が同僚女性(高月彩良)にフラれるが、めげずに「『ギリギリセーフ』を主張する」という流れであり、シンプルな図式はこちらも全世代対応型のネタと言えよう(秋山も出演)。

5つ目のコントは、「クイズ何問目?」。ある出演者(長田)がタイムショック風のクイズ番組に挑むが、すべて「何問目?」に関する問題で、最後に失敗してしまうというオチだった。

6つ目のコントは、「ウーザーイーツ」。ウーバーイーツの配達員がウザかったら……という、もしも系のコントで、今回の配達員はピース・綾部祐二をイジったニューヨーカー・アヤベ(松尾)だった。

■唯一のトークコーナーに『ワンナイ』

7つ目のコントは、「元Jリーガー蹴人」。蹴人(長田)は恋人(岡崎紗絵)とおしゃれなレストランに来たが、サッカー選手としてのクセが出てしまう……(粗品、秋山、菊田、丸山も出演)。

8つ目のコントは、「W富美男」。松尾とせいやが梅沢富美男になり切ってかけ合うモノマネトークコント。

9つ目のコントは、「すぐに舞い上がっちゃう ぶっとび! 飛美男くん」。飛美男(松尾)は舞い上がると頭のプロペラが回って飛び上がってしまい、最後は……(粗品、菊田、鷲見玲奈も出演)。主題歌も作られた力の入ったネタで、その世界観に志村けんさんを思い出した人は多いだろう。

ここでようやくコントを中断させて、「実家が焼き肉屋のソシナ大将(粗品)がゲストを肉でおもてなしする」というトーク企画へ。ゲストの小池栄子が登場し、タンを食べながら「夫婦仲」、ハラミを食べながら「私の変なクセ」、テッチャンを食べながら「新発見」というテーマでトークを披露した(長田、松尾、せいやも出演)。

なかでも特筆すべきは、小池がレギュラーしていたコントバラエティ『ワンナイR&R』に関するエピソード。「ゴリエ」「ごくSせん」「落ち武者」などの名作コント映像を織り交ぜたトークは、コント番組の歴史を感じさせるとともに、アクセントコーナーとしてしっかり機能していた。

10つ目のコントは、再び「つっこみの達人」。11つ目のコントは、松尾がバカイジにふんした『カイジ』のパロディ「賭博黙示録! バカイジ」(粗品も出演)。「10個中3個がイチゴで、7つがハバネロ入り」という大福ロシアンルーレットに挑むが、バカで確率の計算や推理ができず、けっきょく激辛を食べてしまった。

12つ目のコントは、「フィフティーン」。ロックバンドのボーカリストにふんした長田が長ロングMCと超ショートソングのギャップで笑わせた(岡部、岡崎も出演)。ちなみに「フィフティーン」の由来は、TikTokにちょうどよく、CMも狙いやすい15秒の歌だから。

13つ目のコントは、再び「ウーザーイーツ」で、配達人は殺人犯風の男(岡部)だった(粗品も出演)。やはり、「つっこみの達人」と「ウーザーイーツ」はコント間にはさみ、番組に緩急を生み出す上での便利なコーナーになっていた。

■「計18コント、1トーク」のバランス

14つ目のコントは、「伝説の剣 ケガレなき者たち」。ドラゴンクエスト風の戦士(長田)と賢者(丸山)が「抜けるのは男女の関係を結んだことがないケガレなき者だけ」という伝説の剣を抜こうとするができず、実は結ばれていてイチャイチャしはじめる。それにキレた勇者(松尾)が伝説の剣で戦士を斬りつけるが、賢者が魔法ですぐに治してしまい、最後は逆に勇者が斬られ……(菊田も出演)。

15つ目のコントは、「運命を託したい男」。会社を辞めるか辞めないか、自分で決断できない男(岡部)は客まかせにしようとするが、結局決められない(粗品、松尾、菊田、丸山、菊、松尾、長田、せいやも出演)。

16つ目のコントは、視聴者からコントのキャラを募集した「投稿コント大賞!」で、今回のテーマは“正義のヒーロー”。1,372通もの応募から岡部が「ヘソ出し全身タイツマン」、長田が「一度 結ばれたロープを収集おじさん」、せいやが「タップダンサー」、松尾が「股間がおもらししたみたいに濡れている」を披露した。採用されると1万円の賞金があり、現在は刑事、転校生、医者を募集されているという。

画面が「収録終わり」に切り替わると、メンバーがミニトークを交わす中、中嶋プロデューサーが登場。“今夜のカギ”と題して「もう1度番組が見たくなる仕掛け」を用意しているという。今回の仕掛けは「SE(効果音)を菊田がやっていた」で、1つはその場でネタバレさせ、その他の4つは見逃し配信のFODとTVerで見せるという。これは視聴者サービスであるとともに、配信数アップの施策だろう。

最後に、おバカヤンキー・蒼(長田)と樹(せいや)がナゾトキに挑む17つ目のコント「ナゾトキヤンキー」。松尾のナレーションに合わせて、旅人(長田)がシャドーボクシングをしながら散策する18つ目のコント「ぶらりシャドーボクシングの旅」を放送して番組は終了した。

■安定の「金8」放送で子供をつかむ

番組中、画面左上には「チョコプラ×霜降り×ハナコ 新しいカギ」という文字が表示されていたが、ここまではチョコプラが絶対的エースとして君臨している。

実際、各コントのメインは、長田が6つ(力見力、クイズ何問目?、元Jリーガー蹴人、フィフティーン、おバカヤンキー・蒼、旅人)、松尾が7つ(坂上忍、ギリ田、ニューヨーカーアヤベ、梅沢富美男、飛美男くん、バカイジ、勇者)と他の5人を圧倒。

ちなみに、せいやが3つ(太田光、梅沢富美男、おバカヤンキー・樹)、粗品が2つ(つっこみの達人、ソシナ大将)、岡部が2つ(殺人犯風の男、運命を託したい男)で、秋山と菊田はすべて助演だった。

そもそもこの番組は、「安易に第7世代でくくろうとしなかった制作サイドのファインプレー」というより、「チョコプラという大黒柱ありきの番組」なのだろう。キャラクターコントにおける実力は業界トップクラスであり、しかも他の芸人より「子供層に強い」という武器もある。だからこそ、逆に「他の5人がどれだけ人気キャラを生み出していけるか」「新メンバーの追加」が成否の鍵を握るのではないか。

各コントのセットはしっかり作り込まれ、9人の構成作家、9人のディレクター、演出、総合演出、プロデューサー、チーフプロデューサー、制作統括などがクレジットされたスタッフたちの意気込みが伝わってくるようだった。だからこそ放送は隔週2時間ではなく、毎週1時間できっちり見せていったほうがいいのではないか。また、「若年層を狙い撃ちしたいのなら20時台の1時間で留めるべき」という見方もできる。

この番組も『ウワサのお客さま』も、「特番仕様のほうが数字を取りやすい」という理由があるにしても、「できれば視聴習慣の定着を優先させてほしい」と願わずにはいられない。いまだに芸人同士がイジり合い、タレントが身を削るようなトーク系番組や、ほぼ毎日放送されているクイズ番組が目立つ中、コント番組には何も考えずに笑って楽しめる魅力がある。願わくば、子供たちの興味をYouTubeから取り戻すような番組になってほしい。

■次の“贔屓”は…恋愛バラエティの復権か!?『中居大輔と本田翼と夜な夜なラブ子さん』

宮川大輔(左)と本田翼

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、21日に放送されるTBS系バラエティ特番『中居大輔と本田翼と夜な夜なラブ子さん』(20:00~21:57)。

木曜深夜に放送されている恋愛バラエティのゴールデン特番第2弾。「彼氏大好きな“ラブ子さん”の恋愛話を掘り下げる」というコンセプトの番組だが、今回はレギュラーラブ子さん絡みのプロポーズ企画のほか、元AKBと元E-girlsの現役彼氏が顔出し登場するという。

このところ民放各局が視聴ターゲット層の若返りを図り、その流れを受けて恋愛バラエティの注目度が急上昇。実際この番組も昨年11月、今年5月と立て続けにゴールデン特番が放送されている。一方で昨年、不幸な事態を招いた『テラスハウス』(フジ)は今なお騒動が収束していないだけに、どんな構成・演出で放送されているのか気になるところだ。