テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第159回は、6日に放送された日本テレビ系バラエティ特番『欽ちゃん&香取慎吾の第98回全日本仮装大賞』をピックアップする。

今回で98回を数える放送回数が強烈だが、萩本欽一&香取慎吾のコンビになってから20年目に突入という歴史もすごい。正直なところ年3回放送されていた80~90年代ほどの勢いはないが、貴重な視聴者参加特番であり続けているのは確かだ。

今回はコロナ禍に伴いVTRでの審査を勝ち抜いた25組が参戦し、賞金100万円を目指すという。『鬼滅の刃』やNiziUなどの時代を採り入れた仮装も予告されていたが、どんな影響や変化が見られるのか。

  • 萩本欽一(左)と香取慎吾

■「全25組中24組合格」の優しさ

オープニングは審査員の紹介から。おなじみのテーマソングに乗せて、「俳優・梅沢富美男さん、女優・柴田理恵さん、女優・檀れいさん、『鬼滅の刃』竈門炭治郎の声優・花江夏樹さん、報知新聞記者・宮路美穂さん、モデル・タレントの藤田ニコルさん、お笑いタレント・飯尾和樹さん、謎解きクリエイター・松丸亮吾さん、日本テレビアナウンサー・岩田絵里奈さん、仮装大賞出場者で優勝8回を誇る梶原比出樹さん、以上10人のみなさんです。そしてナレーターは私、テレビ新潟アナウンサー・堀敏彦です」と一気に紹介。冒頭より昭和のころから変わらぬムードに中高年視聴者はほっこりしたのではないか。

次に、萩本とともに登場した香取が客席に向かって「みなさん、こんにちは!」と呼びかけるが、返ってきたのは審査員の小さな声だけ。さらに香取は、「(コロナ感染対策のため)今までにない新しい形です。出場者は1人での作品か、家族での作品とさせていただきました」と無観客であることを強調した。

以下に出演者たちのテーマと結果を記録していこう。

1番・長野県48歳男性の「指の関節でGO!」は16点で合格。
2番・兵庫県9歳息子と母の「残念な鳥たち」は18点で合格。
3番・愛知県9歳少女の「鬼滅の刃」は15点で合格。
4番・兵庫県70歳の「花さかじいさん」は16点で合格。
5番・神奈川県47歳の「ヘビ花火」は17点で合格。
6番・愛知県50歳男性と娘2人の「水切り石」は18点で合格。
7番・福井県55歳男性の「いろんなものを回そう!」は16点で合格。
8番・兵庫県13歳少女と家族の「大食い打者」は16点で合格。
9番・愛知県22歳女性の「遅刻しちゃう!」は16点で合格。
10番・愛知県13歳少年の「ワン!」は19点で合格。
11番・岡山県7歳少女の「何の動物?」は19点で合格。
12番・大阪府5歳少女と両親の「お出かけ」は16点で合格。
13番・長野県53歳男性の「カメレオンの世界旅行」は17点で合格。
14番・愛知県58歳男性の「早押しクイズ決勝」は20点満点で合格。
15番・大阪府62歳女性の「女王蜂の羽音」は12点で不合格。
16番・愛知県14歳双子少年少女の「水面を行くアメンボ」は15点で合格。
17番・長野県9歳少年と両親の「プロポーズ」は16点で合格。
18番・岐阜県54歳女性と夫の「大道芸でオリンピック」は19点で合格。
19番・福岡県57歳男性の「ラテアート」は16点で合格。
20番・埼玉県17歳少年と母親の「今日から俺は!!」は15点で合格。
21番・愛知県10歳少女の「ご祝儀袋」は20点満点で合格。
22番・東京都39歳男性の「ミドリムシの観察」は17点で合格。
23番・東京都46歳女性の「不思議の国のアリス」は17点で合格。
24番・東京都42歳女性の「ポールダンスで映画」は20点満点で合格。
25番・神奈川県47歳男性の「永ちゃんのマイクパフォーマンス」は16点で合格。

25組中24組が合格で不合格は1組のみ。しかも3組は不合格だったが、お約束となっている審査員のお情けポイントで合格になっていた。萩本と出場者たちが長年あたたかいムードを培ってきた番組である上に、今回はたった1人か家族での参加のみだけに、シビアさは必要ないのだろうか。裏を返せば、1人だけ不合格の62歳女性が気の毒なのだが……。

■コロナで消えた大人数作品のスケール

その他のミニコーナーは、むしろ本編以上に充実していたかもしれない。

「仮装大賞 優勝作品プレイバック」では、78年の「蒸気機関車」、86年の「ボーンレスハム」、95年の「落ちちゃった」、96年の「風のいたずら」、90年の「透明人間の跳馬」、07年の「池に映る風景」、16年の「えだまめ」、20年の「ピノキオ」の8作をピックアップ。

また、「仮装大賞40年間! 大人数作品の名作集」では、82年優勝の「花咲じいさん」、98年特別賞の「マイケル・ジョーダン」、98年優勝の「つり革」、08年準優勝の「池田屋事件階段落ち」、08年努力賞の「洗車機」、12年演技賞の「ダンス部の鏡」、13年準優勝の「津軽三味線」、15年第3位の「アナと雪の王女」、18年優勝の「参勤交代」と9作を紹介した。

前者は番組クオリティ(ネタの質と笑いの量)の担保、後者はコロナ禍で大人数作品がないことへのフォローだろう。今回は開催できただけで「よし」としなければいけないのかもしれないが、エントリーの制限があった分、どうしてもスケールの点では物足りなさを感じてしまった。

最後に合格作品をフラッシュで見せたあとに各賞を発表。アイデア賞に7番の「いろんなものを回そう!」、ユーモア賞に19番の「ラテアート」、ファンタジー賞に10番の「ワン!」、第3位に21番の「ご祝儀袋」で賞金30万円、準優勝に24番の「ポールダンスで映画」で賞金50万円、優勝に14番の「早押しクイズ決勝」で賞金100万円を獲得した。

気になったのは、コロナ感染予防のため賞金と盾を手渡しせず、「机に置かれたものを受賞者自らが持って行く」という形式を採ったこと。その不思議な光景をわざわざ繰り返し映していたことや、出演者間の距離が遠いことを感じさせるカメラワークにクレーム予防のリスクヘッジが見えた。

その後、「視聴者投票ベスト5」を発表し、5位に13番の「カメレオンの世界旅行」、4位に14番の「早押しクイズ決勝」、3位に11番の「何の動物?」、2位に24番の「ポールダンスで映画」、1位に1番の「指の関節でGO!」と審査員とは別の結果が出た。とかく採点結果に疑問の声があがりやすい賞レースの不満をガス抜きするような演出だったかもしれない。

■「大将」の名にふさわしい粋な潔さ

あらためて今回の放送を振り返ると、52回目の出場の名物おじさんがトップバッターを務め、息子と出演した母親が合格の感動で涙を流し、7歳の少女が失敗して落ち込んでしまいみんなで励まし、幼児時代から出場している少年少女が成長した姿を見せたり、縄跳びやポールダンスの世界王者が登場したり、コロナ禍で出場できない生徒たちの声をBGMに使って指導者が熱演を見せたりなど、それぞれの出場者たちに何かしらのドラマや見せ場があった。

手作りの美術と小道具、お世辞にもうまいとは言えない演技など、素人感丸出しの演目は、プロたちのような爆笑こそないものの、いい意味で時代に逆行するようなアナログの温かさがある。デジタルの技術が進み、YouTubeなどコンテンツのプラットフォームが浸透する中、なぜ『全日本仮装大賞』なのか。その意味で、テレビと一般人をつなぐアナログな番組として、続けていくほど貴重な存在となっていくのかもしれない。

最後に司会の2人にふれておきたい。もう何年も前から進行は香取が務め、出場者や審査員とのやり取りも大半を占めていた。今回も明らかにスベっていたのに合格した出場者に、「ビックリしました。合格しました。ここで(不合格)きたなと思ったんですけどね」と笑いかけたり、1点足りずに不合格の出場者に「審査員で聞いてほしいのは誰ですか?」と尋ねて合格に導いたりなど、愛情たっぷりの欽ちゃんイズムはしっかり引き継がれている。

一方の萩本はソーシャル・ディスタンスを取っていることもあって「聞こえないのよ」と言うシーンが多く、明らかにコメントの頻度が少なかった。「体調やモチベーションは大丈夫なのか?」と心配をしてしまったほどだ。すると萩本が突然、「今回で私この番組終わり」「長い間ありがとう。(30回も出てくれている)大塚さんだったら言えそうだから言っちゃったけど。長いことこの番組を支えてくれてありがとう」と話しはじめた。

会場が戸惑いを見せる中、「こういう話は長くするもんじゃない。ありがとう」と締めくくる萩本。記念の100回まであと2回に迫っていても気にしないのが、いかにも欲や見栄のないこの人らしい。これは「僕のことは放っておいて、番組は何もなかったようにこのまま続けてほしい」という気持ちだろう。

あえて名前は出さないが、過去の栄光や地位にすがり、「老害」と言われる人が少なくない中、後継者を育てた上で、潔く去ろうとするその姿は粋で、「大将」の名にふさわしいものだった。萩本は5月で80歳の節目を迎えるだけに、長時間立って出演者を迎えなければいけないこの番組は厳しいのかもしれないが、その姿をときどき見せてほしい唯一無二のレジェンドであることは間違いない。

■次の“贔屓”は…旬の2組がアドリブで爆笑を巻き起こす『千鳥vsかまいたち』

(左から)大悟、ノブ、山内健司、濱家隆一

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、14日に放送される日本テレビのバラエティ番組『千鳥vsかまいたち』(毎週日曜12:45~ ※関東ローカル)。

同番組は、もともと仲のよかった4人が「世の中のあらゆるものに『まだ笑える余地=笑いシロはあるのか?』を即興検証する」というコンセプト。これまでは「伝説のヒット番組でたった1回で終わった企画」「グッチ濱家をスターにしよう!」「消えた昭和のおもちゃに熱狂」などのテーマで放送してきた。

次回の放送予定は、「今のバラエティ番組に足りないもの…赤坂さん? DJ赤坂さんになってみよう!」。『THE夜もヒッパレ』で人気を博したDJ・赤坂泰彦になり切るというクセの強い企画だけに、4人のアドリブがこれまで以上にさく裂するのではないか。

旬の芸人2組をフィーチャーした冠番組らしく、1月3日深夜のパイロット版から即レギュラー化されたが、予定では全10回の放送だけに早めの段階でチェックしておきたい。