テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第149回は、22日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『超水上サバイバル オチルナ!』をピックアップする。

同番組は「水に落ちたら即失格! 水上要塞を攻略して賞金50万円ゲットせよ」というシンプルなコンセプトの新たなゲームバラエティ。

かつての名番組『痛快なりゆき番組 風雲!たけし城』(TBS系)の「竜神池」「悪魔の館」「戦場に架ける橋」「跳んでおめでとう!」あたりを思わせるコンセプトだが、『逃走中』のスタッフが手がけるだけにどんな仕掛けを用意しているのか興味深い。

  • オードリーの若林正恭(左)と春日俊彰

■『たけし城』と『SASUKE』に似た演出

番組冒頭、水上要塞のセットが映し出され、「このゲームのルールはただ1つ。水に落ちたら失格」というナレーションが流れた。シンプルな内容のためか、たったこれだけの説明でさっそくゲームに突入し、1stステージの1番手はAKB48の峯岸みなみ。「司令官」という役割でMCを務めるオードリー・若林正恭が「それでは峯岸。宝玉(ボール)を獲得し、生還せよ。オチルナ!」と勇ましく送り出した。このくだりは『風雲たけし城』の「攻撃隊長」谷隼人を思い出して笑ってしまった。

挑戦者たちは、さまざまな障害を避けながら8つの宝玉を集めてゴールを目指していくのだが、スタートすると他のプレイヤーたちから「がんばれ~」「オチルナ!」と応援の声が飛んでいる。また、水に落ちた瞬間、他の挑戦者たちの「あそこけっこう難しいんだ」などとつぶやく声が拾われたほか、峯岸の「1回しゃがんだりジャンプしたりするたびにバランスが崩れてちょっと焦っちゃいましたね」という敗因コメントもきっちり拾っていた。このあたりは『SASUKE』(TBS系)とほぼ同じ演出と言っていいだろう。

2番手のJO1・川西拓実も、わずか数秒で水に落ちて失格。3番手のぺこぱ・松陰寺太勇は、スタートから30秒(女性は40秒)が過ぎると襲いかかるソルジャーに突き落とされて失格した。このソルジャーは、無機質な佇(たたず)まいと冷酷さ、そして何より驚異的なスピードが『逃走中』のハンターとソックリだったが、同番組のファンをつかむためにあえてそうしたのだろうか。

4番手の丸山桂里奈、5番手の宮下草薙・草薙航基、6番手の四千頭身・都築拓紀、7番手のハナコ・菊田竜大、8番手の黒木ひかりは、同じローリングバーゾーンで水に落ちて失格。9番手の森渉は最長記録を叩き出したもののソルジャーにとらえられ、10番手の四千頭身・石橋遼大、11番手の宮下草薙・宮下兼史鷹もソルジャーの餌食となってしまった。

あまりの難易度に「全滅!?」というムードが漂いはじめた12番手は四千頭身・後藤拓実。放送開始から約20分を過ぎてようやく1人目のクリアとなったが、最後はちょっとソルジャーが手加減した感も……のモヤモヤ感があったことは否めない。

その後、13番手のハナコ・秋山寛貴、14番手のゆきぽよ、15番手の中村静香が失敗したあと、16番手のヴァンゆん・ゆんがクリア。しかし、これも最後はソルジャーの手加減が……「女子初のクリアを作りたかったためか」という疑惑残しの突破に見えた。

ここまで見て感じたのは、「1stステージの難易度を上げすぎたのではないか?」ということ。ゲームバラエティは何度スタッフたちでシミュレーションを繰り返しても、こういうことが起こりうるだけに難しい。

■別パターンの失敗を見せる芸人たち

17番手のハナコ・岡部大はクリア目前のボートまでたどり着けたが、焦って勝手に転覆。18番手のとろサーモン・久保田かずのぶは宝玉を取らなかったためボートが消滅してゴールできず。この2人は「別パターンの失敗を見せる」という芸人らしい仕事をきっちりこなしていた。

19番手のぺこぱ・シュウペイ、20番手のトム・ブラウン・布川ひろきは、ほぼ同じ展開。ボートのところでほとんどソルジャーに捕まっているのだが、引きずり落とされることなくクリアした。ここでも手加減の感があった分、「クリアできるか落とされるか?」の緊迫感が薄れていただけに、「ボートに乗れたらクリア」でよかったのかもしれない。

21番手のトム・ブラウン みちお、22番手の安藤美姫が失敗したあと、23番手のSKE48・須田亜香里、24番手のパルクール世界王者・泉ひかり、25番手の佐野岳は、完璧なパフォーマンスでクリア。特にFinal進出候補としてキャスティングしたであろう泉と佐野の好結果にスタッフは安心したのではないか。

26番手の本並健治が「夫婦同じ場所で落ちる」というバラエティスターぶりを見せたあと、27番手のJO1・金城碧海は危なげなくクリア。最後の28番手には「プレイヤーリーダー」の肩書きを与えられた春日俊彰が登場した。

春日の「1stステージの答え(お手本のやり方)を示しますよ」「内容にこだわったゴールにしますよ」という前振りを聞いて、これはまさか……と思ったが、やはり春日はゆっくり歩いて進み、最後はソルジャーにジャーマンスープレックスされるような形で落下。ゲームバラエティは笑いの要素が足りなくなりがちなだけに、やはり春日は計算が立つ。

ともあれ28人中8人がクリアし、ここで早くも放送時間の約半分となる1時間が経過した。「次は2ndステージ」と思いきや、はじまったのは脱落者復活コーナー。「復活ステージ サバイバルブリッジ」と名付けられたゲームは、吊り橋でソルジャーの大砲を耐えて生き残ったらクリアというシンプルなゲームだったが、これも『風雲たけし城』の「ジブラルタル海峡」を思い起こさせる。しかし、難易度が高すぎて復活できたのは、ゆきぽよのみに留まった。

■パルクール世界王者が華麗な着地

2ndステージは、水上の柱にしがみついてひたすら耐え続け、3人中1人がFinalステージ進出するという「ハングサバイバー」(柱の直径は男性40㎝、女性30㎝)。いきなり「ほぼのみ筋力バトル」に切り替わり面食らったが、なるほど。これなら全滅して「Final進出者ゼロ」という悲劇はなく、最後まで盛り上がれる。

1組目は、泉、金城、佐野とメンバーの中で「トップ3」と言えるメンツが直接対決。完全攻略候補の2人をここで脱落させてしまうのはもったいない気がするが、敗者復活戦のときも同じレベルの3人をそろえて白熱した戦いを見せようとしていたことから、「意地の張り合いを見せて盛り上げよう」という演出意図がうかがえる。

女性の泉が男性2人を破り、2組目は須田、ゆん、ゆきぽよの3人からゆん、3組目は後藤、布川、シュウペイの3人から布川がFinal進出。すべて最も知名度が低く、ファンの数も少ないであろう3人が勝ち上がったところがガチの証しであり、素晴らしかった。

Finalステージは、空中スライダーで滑空して浮島に着地できれば賞金を獲得できる「フライングアイランド」。賞金は大の浮島が5万円、中の浮島が10万円、小の浮島が50万円であり、当然ながら全員50万円を狙いにいく。

ところが、ゆんと布川がかすりもせずにあっさり失敗して、残るは泉のみとなってしまった。ただ、この瞬間のためにキャスティングされたであろうパルクール世界王者は、見事にプレッシャーをはねのけて成功。フィナーレにふさわしい華麗な片ヒザ着地で、水上要塞の完全攻略を成し遂げる大団円だった。

ここで終われば構成的には美しいのだが、視聴率対策か、一部のファンサービスか。最後に「ボーナスステージ」として脱落者にも挑戦させるという。これは『逃走中』でも見られるこのスタッフたちの定番であり、「小の浮島に着地できたら“10万円を山分け”」という少額賞金も一致している。けっきょく松陰寺、石橋、川西の3人が挑んだが全員失敗し、感動の余韻が消えてしまったことがもったいない。

■「土砂降りの雨」が緊張感の後押しに

あらためて番組全体を振り返ると、『アッコにおまかせ!』(TBS系)やアニメ『ONE PIECE』(フジ系)らの声で知られる中井和哉のナレーションは重くS気たっぷりだった。ソルジャー目線の映像挿入も含めて、『逃走中』と同じように緊張感を醸し出そうとしていたが、さすがに1分程度のゲームでは難しかったかもしれない。

その意味では、途中から雨が降り、最後は土砂降りに近い過酷な状況になったことがいい演出として作用していた感がある。ただ、安全面を考えると、雨は何とか撮影できるギリギリのレベルだったのではないか。

ちなみに雨が降りはじめたのは1stステージの半分が過ぎたころだった。巨大な水上セットを組んでの撮影だけに、あらためてリスクのある企画だが、何とか切り抜けられたことをポジティブに受け止めて第2弾の放送につなげてほしい。

ほぼ若手で固めた出場者のラインナップ、「1stステージに比べて2ndとFinalが明らかに物足りなかった」という難易度。さらに、Finalステージのころに真っ暗な夜となり防寒具を来た出演者たちが見守る姿を見て「『SASUKE』か!」、相模湾を一望する大磯ロングビーチでのロケを見て『オールスター水泳大会』か!」などのツッコミどころが少なくなかった。

いずれも第1弾ゆえの楽しさと課題がハッキリ表れただけに、『逃走中』のように粘り強く放送を続けながらブラッシュアップしていきたいところだろう。テレビ番組に限らず、わかりやすいシンプルなコンテンツが好まれる風潮の中、翌日の学校や仕事が気になる日曜夜はこれくらい何も考えずに見られるものがあってもいい気がする。

『逃走中』『オチルナ!』に続くゲームバラエティのバリエーションを増やして、できればレギュラー放送化、少なくとも月1~2本のペースで日曜夜に放送するのも一興ではないか。

■次の“贔屓”は…早くもTBS日曜夜の救世主に『バナナマンのせっかくグルメ!!』

バナナマンの設楽統(左)と日村勇紀

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、29日に放送されるTBS系バラエティ番組『バナナマンのせっかくグルメ!!』(20:00~20:54)。

「バナナマン・日村勇紀が日本全国の名物料理を紹介」という単純明快なコンセプトとは裏腹に放送時間帯は波乱万丈。14年に単発特番放送としてスタートから、15年4月~7月まで月曜深夜でレギュラー放送、再び単発特番になったあと、16年10月~19年3月までは日曜18時台にレギュラー放送、またも単発特番になったあと、今年4月から日曜20時台にレギュラー化され現在に至っている。

裏番組に『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)、『ポツンと一軒家』(ABCテレビ・テレビ朝日系)、大河ドラマ(NHK)などの強敵がそろう中、ここまでの視聴率と評判は上々。ともにバナナマンが出演していた『珍種目No.1は誰だ!?ピラミッド・ダービー』と『消えた天才』がBPOから放送倫理違反と判断されるなど苦境に陥っていた同時間帯の救世主となっている。

この状況に業界内では、驚きと納得の対照的な声が飛び交っているだけに、コロナ禍におけるロケ番組の意義も含め考えていきたい。