テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第137回は、8月30日に放送されたTBS系バラエティ特番『生放送で満点出せるか 100点カラオケ音楽祭』をピックアップする。

番組名の通り「生放送でカラオケ100点出したら賞金100万円」というシンプルかつライブ感たっぷりの企画で、今回が2度目の放送となる。しかも「出場者全員が100点経験者」だけに「何人達成するのか?」という期待感が大きい。

芸能界からは「美声ハリウッド女優」「紅白出場! 元国民的アイドル」「リベンジに燃える土屋アンナ」ら、一般からは「祖母に捧げる9歳少女」「カラオケ日本代表JD」「奇跡の歌声42歳のおじさん歌姫」などが出演するという。人選の多彩さから、制作サイドの熱気が伝わってくるようだ。

  • (左から)MCの設楽統、日村勇紀、指原莉乃

■100点経験者は国民の0.004%

番組は、MCを務めるバナナマンと指原莉乃のトークからスタート。MC自身も緊張していることを明かしたほか、日村勇紀の左手には100万円の札束が握られているなど、早くも生放送らしい臨場感が漂っている。

CMをはさんでVTRで番組内容を紹介。「あなたはカラオケで100点が出る瞬間を見たことがありますか? 一説によると100点経験者は2万6,000人に1人(番組調べ)。日本国民のたった0.004%。そんな奇跡の瞬間を目撃すべく、数千万人以上が登録する『DAM☆とも』をはじめ、あらゆる方法を使って全国から選ばれた10名がスタジオに集結。その実力は……全員がカラオケ100点経験者。極度の緊張感の中で満点を出すことができれば賞金100万円」。企画会議のプレゼンを思わせる分かりやすいナレーションで、番組への興味を高めていた。

スタジオには“見届け人”として、清塚信也、剛力彩芽、King & Prince・神宮寺勇太、ギャル曽根、日本一100点生徒を輩出するボイストレーナー・柳光絵が登場。両端が専門的な解説を求められ、真ん中の3人は“絶賛要員”であることは一目瞭然だ。

ふとMC席を見ると、100万円の札束が10個並べられている。つまり、「10人全員100点獲っても支払いますよ」という意志表示であり、「獲れるものなら獲ってみな」という挑発とも取れるなど、ガチンコムードを高めていた。

1人目の挑戦者は「100点獲得率9割超」という大阪のフリーター・橋本梨々果さん(20歳)。中学生のとき大手音楽事務所のオーディションに合格したが「シングルマザーの母を置いて上京できない」という理由から断念した実力派だ。

ステージに上がった橋本さんは、唇を震わせてほぐしたり、おもむろに水を飲んだり、明らかにタレントとは異なるマイペースな振る舞いを見せる。これは「ショー」ではなく「真剣勝負」ということなのだろう。一方、MCの設楽統は「スタンバイOKでしたらマイクを取ってください。それがスタートの合図となりますから。自分のタイミングでいいです」と優しくナビゲートした。

彼女が選んだのはLittle Glee Monsterの「ECHO」。歌唱がはじまると、音程、しゃくり、こぶし、フォール、ビブラートが表示されるカラオケ採点番組おなじみの画面が表示された。しかし、この番組はそれだけで終わらず、間奏のときに挑戦者の映像や写真を映して、視聴者の感動を誘っていく。

橋本さんのケースでは母娘の映像が流れ、「3歳の頃から女手1つで育ててくれたママ。私は一度も寂しい想いをしたことがない。ママがいつも明るくそばにいてくれたから。あんなに幼かった私も20歳の大人に…ママありがとう」のテロップが表示された。

■タレント挑戦者は脇役に過ぎない

歌い終わると、設楽は「めちゃくちゃうまい」と興奮しながら見届け人たちにコメントを振り、剛力彩芽は「普通に感動しちゃいました。感動する番組なんですね」と涙ぐんでいた。1人目から最高クラスの歌唱力とエピソードで勝負した制作サイドの気合が見る人に伝わったのだろうか。しかし、結果は惜しくも99.619点で100万円獲得ならず。

2人目は前回99.891点に終わったリベンジに挑む土屋アンナ。「あえて難しいLiSAの『紅蓮華』を選んで倍返しする」という強気の姿勢で盛り上げたのはさすがだが、99.622点で失敗に終わった。

ここで突然、都内某所のビッグエコーに中継をつなぎ、100点を目指して挑戦中の鬼越トマホーク・金ちゃん、はなしょー・杵渕はなの姿が映し出された。「どちらか先に100点を出したほうがスタジオで挑戦できる」という。申し訳ないが、知名度も歌唱力も、視聴者がスタジオ登場を待つほどの人材ではなく、「生放送ならではの時間調整要員」という感が漂っていた。

3人目は「おじさんなのに女性の歌が得意」という熊本の小崎友市さん(42歳)が挑戦。「父の会社が倒産し、母の体調が崩れてしまったので助けてあげたい」と話し、リモート画面から父親が応援する中、BoAの「メリクリ」を熱唱する。見事な高音と加点の連続でスタジオが沸く中、小崎さんは最初の100点獲得者となった。

4人目は「手足が悪くなったおばあちゃんのために手すりをつけてあげたい」という神奈川の小学3年生・岡藤瑠々ちゃん(9歳)。おばあちゃんにもらった一番の宝物であるクマのぬいぐるみを抱いて登場し、映画『アナと雪の女王2』主題歌の「イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに」を歌い、98.192点に終わった。

5人目は「カラオケ世界大会日本代表の女子大生」のチューバックアンジェラ(19歳)。中学生時代イジメに悩んでいたとき、「命がけで守るから」と励ましてくれていた母親に恩返しするために挑戦し、シェネルの「ビリーヴ」で100点を叩き出した。

6人目は歌手を目指してレッスンに通っていたときの仲間で、オーディションに落ち続け、ライブハウスでも聴いてもらえないなど挫折続きの2人組、さよこ(22歳)とみつこ(22歳)。「ハモリがある上にボーナス加点がない」という超難関のデュエットに花*花の「さよなら 大好きな人」で挑み、100点を叩き出した。

ここまで3組の100万円獲得者が誕生したが、彼らはお金以上に全国放送で大好きな歌を披露できたうれしさを実感しているように見えた。この番組はカラオケ採点や100万円を入り口にしているが、実際は「長い人生の中でこの一瞬に賭ける」「大切な人に歌で感謝を伝えたい」という思いを切り取ることを狙ったコンテンツなのだろう。

等身大の人生ドラマに楽曲の持つ力が加わり、見届け人たちが常に涙ぐんでいたのも納得できる。その一方で、歌唱力やカラオケ技術も含め、タレントの挑戦者はアクセントに過ぎず、完全に脇役と化していた。

■最後の挑戦者は時間調整要員か

7人目は女優のすみれが映画『グレイテスト・ショーマン』劇中歌の「Never Enough」を歌い99.565点。8人目はインディーズで活動している大阪のMasaya(27歳)があいみょんの「マリーゴールド」を歌い99.623点。9人目は元AKB48トップクラスの歌唱力を持つ野呂佳代がback numberの「瞬き」を歌い97.182点、10人目は前回放送で100点を獲ったモノマネ芸人・ほいけんたがシャ乱Qの「シングルベッド」を歌い99.361点に終わった。

最後に、はなしょー・はながスタジオに登場し、カラオケボックスで100点を取っていたことが明かされ、倖田來未の「愛のうた」を歌ったが、98.302点。「23回目でようやく100点を取れた」というレベルなのだから、視聴者の誰もが「そりゃ無理だろ」と思ったのではないか。やはり、「時間が押していたら100点を獲っても彼女の出番はなかったのでは?」という時間調整要員だった感は否めないし、もしそうなら正直に伝えたほうが現在の視聴者満足度は高い。

あらためて振り返ると、「もったいないな」と感じたのは、視聴者に100万円獲得後の余韻をほとんど与えなかったこと。生放送ならではの臨場感と人生ドラマの感動は十分あっただけに、感動の涙も祝福モードもぶった切るような進行には疑問が残った。「生放送で時間がない」と言うのなら、明らかにカラオケボックスの中継はいらなかったのではないか。

その他では、優しいフォローの言葉をかけ続ける設楽と、身を切る笑いで緊張をほぐそうとする日村のMC、「カラオケボックス風の個室から出場者が出てきて歌う」という演出、予算ギリギリであろう3組の100万円獲得者を出す大盤振る舞いなど、目を引くポイントは多く、第3弾の放送に期待が持てそうだ。

ただそれでも、ワンコンセプトのシンプルな構成で2時間30分は長すぎるかもしれない。もし編成上の都合ならば、日曜夜の放送にこだわる必要性はないだろう。

■次の“贔屓”は…松本自ら体を張って笑いを生み出す『審査員長・松本人志』

松本人志(左)と若林正恭 (C)TBS

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、5日に放送されるTBS系バラエティ特番『審査員長・松本人志』(14:00~14:54)。

同番組のコンセプトは、「松本人志を審査員長に据え、今まで開かれた事のなかった新しいコンテストを開催する」。しかも、「子どもが絶対に笑う絵本GP」では5歳児たちに読み聞かせし、「最新テクノロジーGP」では“遠隔ハグマシーン”“味エフェクター”“失禁体験装置”を体験するなど、松本自ら体を張るという。

審査員長でありながら、イジられるような立ち位置で、松本はどんな笑いを生み出すのか。MCの若林正恭が「松本さんの見たことない表情を見た」と驚いていただけに、期待値は高い。

同番組を放送する「土曜☆ブレイク」は単発特番枠でラボ的な役割があり、事実『ハイドアンドシーク~対戦型かくれんぼ~』『クイズ!オンリー1』などをゴールデンタイムに昇格させた実績がある。松本を起用する以上、先の展開も予想されるだけに、見ておいて損はないはずだ。