テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第105回は、17日に放送された日本テレビの単発バラエティ番組『ロバート秋山のウソ枠』をピックアップする。
同番組は17年10月、18年2月、19年1月に放送されたロバート・秋山竜次の冠バラエティ第4弾。「秋山が架空の人物に扮してウソだけで構成された番組を作る」というコンセプトで、これまで歴史ドキュメンタリー、音楽番組、アニメのパロディを手がけてきた。言わば、『ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル』のテレビ番組版であり、毎回コアなファンを喜ばせている。
今回のテーマはスポーツ番組で、秋山が都内に存在する「アスリートCMアカデミー」の校長になり切るという。山崎賢人もゲスト出演するなど力が入っているだけに、どこまで作り込んでくるのか?
■どのキャラでもブレないうさんくささ
オープニングは、ラテ欄をバックに上半身裸姿で奇妙な動きをする秋山のCGと、「ロバート秋山が日本テレビの30分枠をジャック」というナレーションだった。
直後、「スポーツ熱中人」なるウソ番組がスタート。上重聡アナウンサーが「この番組はスポーツに熱き情熱を注ぐ選手や関係者に密着し、競技に秘めた思いや日々努力する姿をお伝えします」と番組内容を語り、スペシャルゲストの山崎賢人をスタジオに招いた。
ほどなく「アスリートCMアカデミー」を紹介するVTRが流れ、「日本を代表するトップアスリートたちがトレーニングの時間を削ってまで訪れる場所」であることが明かされる。さらに、生徒たちの「こういうところに来るという想像はまったくしていませんでした。1秒でも1分でも長く練習はしたいので」「正直メダルをまだ獲っていないので、『獲ったたあとにやればいいんじゃないかな』という思いはありますね」というしらじらしいコメントに脱力感を誘われた。
一方、秋山が扮(ふん)する同校の藤子康男は、「不思議な学校だよね。まあとにかくアスリートに特化したスクールなんだけども、CMの向き合い方、CMの出方、CMに対する心構え。そういったものを全般的に教えています」と語る。どのキャラクターでもブレない、このうさんくささこそ秋山らしさだろう。
藤子はアスリートがCMを学ぶ理由について、「実際、現に2020今年、大きな大会が一発あるわけです。メダルを獲ったあとに必ず舞い込んでくるのがCM。これは絶対にくるんですよ。CMのことって何も考えずに現場に入るのよ。何の練習もしないんです。出方としては、ちょっと今までの先輩からのバトンを崩すような気がするんですよね。そうなってからじゃ俺、遅いと思うんだよね」と熱っぽくまくしたてた。
最後の“バトン”が何のことなのか分からなかったが、日本代表風のジャージ、真ん中分けの長髪、金の腕時計などのいでたちは、アスリートイジリ全開。藤子はおもむろに競技用のサングラスを外し、目が合った記者に気づいて、「あっ、こんにちは」と笑みを浮かべた。秋山がこんな小芝居を詰め込めるからこそ成立する企画なのだ。
藤子は生徒の演技に「今のは0点だよ!」とダメ出しし、「CMは唐突にオファーが来ます。すなわち練習ができません。そして分からないうちに本番がはじまってしまいます。結果、変に力を入れ過ぎてCM撮影に挑んでしまうのです。そこで一番大事なのが“抜き”!」と力説。続けざまに「声に抑揚をつけない」「表情を変えない」「変に演技をしにいかない」という“抜き”の三大要素を挙げた。つまり、「下手に演じろ」ということだろう。
■終盤にバカをたたみかける秋山
その後、スタジオに現れた藤子は、「アスリートは感情を出しちゃダメ。“抜き”は先輩たちがつないできたバトンなんですよ。まさに伝統芸。だって先輩がそうやってパスしてるんだから」とコメント。ここで“バトン”の意味が「アスリートたちの棒演技」ということがわかり、視聴者を時間差で笑わせた。
藤子は山崎への演技指導がはじまると、「我を出すな!」「もっと抜け!」とヒートアップ。さらに、「全部の4文字の中間の言葉を言う。『アザラシ』でも『ミニもね!』って言えるかもしれない。でも気持ちは『アザラシ』って言って見てごらん、でも『ミニもね!』。本当は『ミニもね!』って言いたいんだけど、気持ちは『アザラシ』に寄せてください。その中間のところで発してください。抜け抜け! ルールなんてねえ。行け!」と、壊れたように意味不明のフレーズを連発した。
当然、山崎が困惑したあげく、「……アザラシ」と絞り出したが、藤子は「(ミニもね!じゃなくて)アザラシが勝っちゃってるから」とシャットアウト。ゲスト絡みで大きな笑いどころを作る技は「さすが」と思ってしまう。
CMをはさんでスクールのVTRに戻り、スタジオ撮影の練習風景へ。「我を捨てろ。我はスポーツで出し切れよ!」「ストップ。だるいヤツに見えるんだよな。抜くとやる気がないでは全然違うんですよ!」と指導に熱がこもる一方、美人アスリートをなめまわすように見たり、二人で別室に消えたり、体にふれるなどのエロオヤジ臭をにおわせる。
スタッフから授業料を聞かれた藤子は、「5回の授業すべて含めて45万。それプラス、スタジオでCMの空気を吸えるオプションは25万で、マックス70万。めちゃくちゃ高いかどうかはそちら次第なんだけども」。「(金の時計を見せびらかしながら)凄い? そんなにそんなだと思うんだけどね。まあこの色のメダルが獲れる連中だと、俺は思って授業してるけども」と笑わせた。番組終盤に「あるある」と「ないない」のはざまでバカをたたみかけるのが、いかにも秋山らしい。
最後に山崎が映画の告知をしはじめると、藤子が「せっかくだから抜いたほうがいいんじゃないか?」と、まさかの中断。2人で棒読みの告知を行ったあと、秋山が「たぶんこれは怒られるのでちゃんと…」と素に戻ったところで番組は終了した。
秋山の番組だけあって、スタッフサイドのディテールも、クスっと笑わせるところが満載。
生徒たちの「1㎞」「団体60キロ級」「ハーネス複合」「11人硬式ロング」「混合フリー」という種目、「アスリートCMアカデミー」のポスター、藤子が現役時代に出演した92年のCM「energyクリア」、画面右下の「アスリートCMアカデミー 申し込み希望者は下記にアクセス Twitter @ntvusowaku まで」の表示…どれも、ふわっとしているがムチャクチャだった。
視聴者が「見て楽しい」、タレントが「出て楽しい」、スタッフが「作って楽しい」。この点ではバラエティのあり方を見せてくれた感がある。
■個性的キャラのコントはバラエティの王道
この番組を「ロバート秋山という最前線の芸人による最先端のお笑い」と感じた人がいるかもしれないが、「個性的なキャラクターを軸に作り込んだコントを見せる」という意味では、多くの先輩芸人たちが作り上げてきたバラエティの王道と言えるだろう。
たとえば、現在も不定期ではあるが『志村けんのバカ殿様』(フジテレビ系)が放送されているが、これは例外中の例外。コント番組は21世紀に入ってから、トークやゲーム中心のバラエティに取って代わられ、今ではほとんど見られなくなってしまった。「視聴率が獲れない割に、労力と制作費がかかる」のだから無理もない。
事実、秋山は当番組が放送される1時間30分前、『全力!脱力タイムズ』(フジ系)にゲスト出演し、個性的なキャラクターを続けてムチャぶりされ、「こんな高カロリーないよ」とこぼすシーンがあった。
そんな難しさがあるからこそ、ゴールデン・プライム帯に似たコンセプトのバラエティが並ぶ中、視聴者に「深夜の不定期放送でもいいからこんな番組が見たい」と思わせるには十分な内容と言える。難しさを承知で言えば、年1回ではなく季節に1回くらい見せてくれたら、『クリエイターズ・ファイル』に準ずるファン数を獲得できるのではないか。
制作費の問題があるのなら、やはりネットからの収入でカバーしたいところ。作り込んだコントはドラマと同様に動画配信サービスでの視聴にフィットしやすく、イッキ見やレコメンドにもつながりやすいからだ。もしかしたら今後、現在ドラマで行われている「コント番組のネット先行配信」などの可能性が探られていくのかもしれない。
ただし、これは裏を返せば、「会員収入で多額の制作費を確保できる動画配信サービスが、単独でコント番組を作りはじめたらテレビは厳しい」ということでもある。その意味で本当の問題は、「現場にも上層部にも『今こそテレビはコント番組を作るべき』と考えるテレビマンが少ないことでは?」と感じてしまった。
■次の“贔屓”は…明石家さんまが全国の異名さんをイジる! 『じもキャラGP』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、26日に放送されるABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ特番『じもキャラGP~お笑い怪獣と異名さん~』(18:30~20:56)。
「知られざる異名を名付けられ、地元で愛される名物キャラを日本全国で大捜索」というコンセプトの大型特番。事前情報では、「木更津のくっきーが本人と対面」「女子ソフトボール二刀流」「なにわのビリー・ジョエル&大阪の侍」「青森でルパン発見」など、強烈なキャラクターが次々に発掘されそうなムードが漂っている。
MCは素人イジリの最高峰・明石家さんま。日曜夜のさんま特番と言えば、『行列のできる法律相談所』や『誰も知らない明石家さんま』など日本テレビ系のイメージが強いだけに、テレ朝系でどんな姿を見せるのか興味深い。