世界が注目するアメリカ大統領選。太平洋を隔てて遠い国ではあるものの、そのトップを決める選挙の行方が気になってしようがない。自分たちの生活に影響するかもしれないし、結果が判明するまでの間に何かハプニングが起きるかもしれない。テレビはただの現在にすぎないが、その現在は"歴史的瞬間"かもしれない。テレビの前では、歴史の目撃者になることができるのだ。

今回取り上げたいのは、現在進行形で続くアメリカ大統領選ではなくて、大阪都構想をめぐる住民投票だ。大阪以外でも興味を持って観ていた人が多いのではないだろうか。投票率は62.35%。前回より4ポイントほど下がったものの、高い投票率。地元の選挙の投票率と比べてみてほしい。その高さが分かるはずだ。(今回は住民投票なので、厳密に言えば選挙ではないが)

皆さんはこの住民投票の結果をどこで知ったのだろう。筆者はもちろん、テレビで知った。リアルタイムでいつ速報が出るかと待ち構えていたのだ。あわせたチャンネルはNHK。フジテレビも同じ時間に『Mr.サンデー』スペシャルを編成して対応していたが、NHKを選んだ理由は2つ。フジテレビだと、地元の関西テレビが取材したものをフジ側に伝えるというワンアクションがあり、もしかしたらそこに時差が生じるかなと思ったこと。そして、何と言ってもNHKの取材力、選挙報道に関してマンパワーの割き方が半端ないことを知っているからである。

NHKの特番をご覧になっていた方なら分かるが、NHKは大阪放送局のスタジオから展開。東京の政治部の記者を中継で使うレベルに抑えて、「主役は俺たち」と言わんばかりに大阪の記者が解説を繰り返す。他局であれば新聞社や通信社と共同で行うような出口調査も、NHKは自前で実施したのだろう。共同調査であればクレジットがあるが、それはない。また、区ごとの開票状況の速報に至っては、今振り返ってみると、まるでアメリカ大統領選の州ごとの速報のよう。懇切丁寧にもほどがあるといったくらいだ。

そんな報道をしているから、必然的に都構想賛成派=大阪維新の会、反対派=自民党大阪府連の各事務所に設置されたテレビモニタが映し出すのはNHK。筆者がチェックした限りではやはりNHKが"反対多数"を一番乗りで速報で出していて、こういった場合、テレビマンとしてはすぐに各事務所の様子を中継で見せたくなる。NHKでは実際中継を結ぶのだが、するとどうだろう、テレビモニタの前に群がっていたのは腕章をつけた各社・各局の、いわゆるマスコミの人たちだったのだ。独自に取材しているはずの側も、NHKの開票速報を頼りにしていたのである。

ABCテレビ・朝日新聞の連合軍の独自展開

しかし、筆者がここまでベタ褒めしているNHKですら、ある意味で及ばなかったメディアがある。それはABCテレビ・朝日新聞の連合軍だ。彼らは自社サイト、You Tubeで開票前から住民投票特番の生配信をスタート。自分のところのチャンネルで放送すればいいのにと思われるかもしれないが、地上波のこの時間は人気番組『ポツンと一軒家』を放送中。そこをこじあけてまで独自の編成をすることは、準キー局とは言え難しい(皮肉に聞こえるかもしれないが、『ポツンと一軒家』はABCテレビ制作の全国ネット番組である)。国政選挙ならまだしも、いわゆるローカルな話題である住民投票の特番をゴールデン帯でOAするのはハードルが高いのだ。

生配信された特番はアーカイブされているので、気になった方はご覧になっていただきたい……いや、これは観る価値のあるものだ。地上波でOAできなければ、ネットで流せばいいという気概も感じるし、一方で配信時間があらかじめ決まっているものではないから、テレビのようなタイムキープの必要もなく、報道フロアを見せたり、随所で配信の裏側を紹介したりと、余裕を感じさせるゆる~い展開が好印象! しっかりやっているのに、そう感じさせない作りとなっている。

そして、特筆すべきは、アーカイブの3時間32分52秒ごろ。NHKが速報を打ったためにどよめきが広がる事務所内を中継リポートしている最中に、20秒くらい遅れてABCテレビ・朝日新聞も速報を打つという展開。速報が出た瞬間の事務所を捉えていたというだけでも賞賛ものなのだが、他局が速報を打った時の描写の仕方が素晴らしい。当選確実を自分の社だけが報じられない時にリポーターがどう踏ん張って言葉を紡いでいるか、その裏側が如実に分かる! 皆さんにも是非この苦労を知ってほしいところだ(笑)。