秋改編の注目ドラマ冒頭を飾った5文字に、度肝を抜かれた視聴者も多いはずだ。その5文字とは"まねだ聖子"。名だたる役者陣の中に紛れ込んだ、明らかに趣を異にする存在。その他にも我修院達也や山本高広など、始まってすぐのクレジットに引き込まれてしまう。これもやはり演出の妙というものだろう。今回から始めたことではないのだが。

『ルパンの娘』(フジテレビ系 毎週木曜 22:00~)で三雲華役で主演する深田恭子

堅苦しい話が続いていたので、ちょっと小休止して秋のドラマについて語ってみたい。というわけで、触れずにはいられないのが『ルパンの娘』である。去年7月クールのOAからちょうど1年を経てのセカンドシーズン。ご存知ない方に説明すると、泥棒一族"Lの一族"の娘=深田恭子と、警察一家に生まれた青年=瀬戸康史との、いわゆるロミオとジュリエット的なストーリーで、そこに悪者からモノを盗んで懲らしめる鼠小僧のような味付けもされているドラマだ。

「ありがちでは?」と思うことなかれ。脇を固める役者がとにかくアクが強い。深キョン演じる主人公・三雲華の父親役に渡部篤郎、母親役は小沢真珠。瀬戸演じる青年の父親役に信太昌之(『半沢直樹』で人事部の横山を好演)、母親役はマルシアなのである。あとは麿赤児に栗原類、どんぐり、藤岡弘、もいれば、加藤諒まで個性派揃い。演技を観ずともお腹いっぱいになりそうな布陣だ。テレビ朝日のドラマ『M』での怪演が話題になる前に、田中みな実がゲスト出演していたことも特筆しておきたい。そして、各話で必ず挿入される名作への何らかのオマージュ。知っている人なら思わずニヤリ。知らない人でも、「あれ、コレ、既視感…パクリじゃね?」といった感じで、雰囲気として楽しめる演出になっている。

初回視聴率は振るわなかったが…

それほど面白いと太鼓判を押すのであれば、さぞや視聴率も高くなっていることに違いない…そう思われるかもしれないが、現実は否。毎週木曜日に更新されるビデオリサーチのホームページの視聴率一覧にランクインしてないことから分かる通り、世帯・個人全体ともに高いとは言えない。満を持してセカンドシーズンを始めたはずなのに、惨憺たる結果ではないか。一体何があったのか? 視聴率第一主義のテレビ業界において、やっちまったかフジテレビ…。

『ルパンの娘』で演出を担当する武内英樹氏

だが、この結果は大きな問題ではない。筆者は以前このコラムの中で、20~34歳の女性=F1、35~49歳の女性=F2は、CMを流すクライアントがターゲットとする、消費行動につながる、購買力のある層だと書いた。『ルパンの娘』は、〇軒中×軒で観られているかという世帯視聴率、合計何人が観ているのかという個人全体視聴率それぞれではふるわないものの、結果としてイメージした層の視聴者をほぼほぼ獲得できていると言える。クライアントとしてみれば、狙った層に効率的にCMを流せることにつながる。

今年の春から全国で始まった"個人視聴率"調査。その調査で明らかになったのは全国津々浦々で本当にテレビを観ているのは誰かということであり、その数字はテレビ局に対し、これまでのCMの売り方を大きく変えるよう迫るものであった。実際に売り上げにおいて、絶対的な視聴率を背景にした日本テレビ系列局一人勝ち状態が各地で続いてきたが、夏あたりからフジテレビ系が猛追しているともされている。

実は『ルパンの娘』がすごいのは、フジテレビのセールスの勢いに貢献していることだけではない。初回放送時にTwitterで「#ルパンの娘」がトレンド上位になったことからも想像がつくように、すでに大きな"ファンコミュニティ"のようなものが形成されているのだ。そうであればテレビマンとして次に考えるのは、このコンテンツをいかに活かすか。放送外収入を得るために、当然映画化を考えているはずだ。フジのお家芸であることはもちろん、ドラマの演出を担当しているのは『翔んで埼玉』で監督を務めた武内英樹氏である。映画化しないわけがない!

ただ秋クールで『ルパンの娘』がオススメということだけを書くつもりだったが、若干真面目になってしまって反省。筆者も『ルパンの娘』にとんでもない物を盗まれてしまったようだ…それは私の心です!(笑)