とにもかくにも『半沢直樹』なのである。視聴率は初回から20%を超え、歌舞伎俳優の顔芸を柱に(ですよね?)、まるで時代劇のような勧善懲悪のストーリー。半沢の劇的勝利に快感を覚えるのと同時に、視聴者は気づいていないかもしれないが、敗者のその表情、その動作にカタルシス=心の浄化作用もあるのが、人気の秘密なのではないかと筆者はみている。

「面白いですね」、「いいですね」というシアワセな会話で終わるのであればいいが、終わらないのがTBS以外の局、すなわち裏局。ビッグネーム『半沢直樹』の裏をどう戦うか。迎え撃つソフトをどうするのか。それは野球の試合でよく見る風景に似ている。強打者を前に敬遠策をとるのか、それとも真っ向勝負に出るのか――。

ロスジェネ世代の人だと記憶しているかもしれないが、2002年のサッカーW杯日韓大会。日本対ロシアという好カードの中継権を手にしたのはフジテレビだった。検索するとすぐにヒットするが、結果はサッカー中継視聴率歴代1位の66.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。当時からすでに4回W杯は行われているが、いまだに破られていないお化け数字だ。敬遠球ですら場外ホームランにしてしまうような超強打者相手に、裏局はどんなボールを投げたのか。この時、日本テレビが潔かった。"消える魔球"レベルのボールを投げたのだ。番組タイトルは記憶にないが(※)、衝撃映像をとにかくこれでもかと集めた特番で、しかも新聞の番組表では「8時半まで一瞬たりとも目が離せない」といったような文句を謳ったのだ(無論サッカーのキックオフが8時半だからである)。結果はフジに次ぐ同時間帯2位の視聴率を記録したと記憶している。さすがと思った。

※『特命! 世界超危険映像(秘)リサーチ!!放送ギリギリ禁断映像今夜限り特別解禁スペシャル!生死分けた3000カット』(『特命リサーチ200X-II』特別編として放送された)

さて、話は戻って、『半沢直樹』への裏局の一手は実際どうだったのだろうか。王者・日テレは元々日曜日夕方の『笑点』から『ザ! 鉄腕! DASH!!』、『世界の果てまでイッテQ!』と最強の布陣でもあるので、いつもと変わらず21時台に『行列ができる法律相談所』をレギュラー編成。ドラマ『M』主役で話題となった安斉かれんをゲストに迎えつつ、スペシャルMCにはお笑い第7世代の代表格・霜降り明星と、真っ向から勝負をしかけた感じだ。

堺雅人主演の『半沢直樹』。視聴率は毎回20%を超えるなど快進撃を続けている

日テレと世帯視聴率でデッドヒートを繰り広げているテレビ朝日は、21時台は特番を編成できる枠でソフト選択の自由度は高く、何とOAしたのは2時間ドラマ『おかしな刑事スペシャル』。半沢を観ない層を狙いにいった変化球か、それとも敬遠球だったのか。 そんな中、W杯時の日テレのような編成をとったのはフジテレビ。フジは20時台から特番枠だが、ここで『逮捕の瞬間! 警察24時』。警察密着ものは衝撃映像のオンパレードで、しかも1つのネタがそれほど長くない。ついつい観てしまう、超強力ソフトにとっての"カウンターコンテンツ"とも言えるだろう。

テレビ東京は『奇跡のひっそり観光地』と題し、今やテレ東の顔さまぁ~ずや、千鳥など、ほどよい具合の芸人が出演した番組だったが、内容はつちのこ探し…。NHKスペシャルは新型コロナウイルスを取り上げたものだった。

視聴率的には日テレだけ"半返し"できた形となったが、テレ朝やフジはこの結果をもとに、また新たな戦略を練ることだろう。衝撃映像がそこそこの視聴率を取れることは勿論だが、あえて違う層を狙いに行く。ただそれで"個人(視聴率)"が取れるのかというジレンマもある(個人視聴率についてはまた別途説明したい)。このコラムをご覧になっている方は「半沢初回の裏にそんな戦略があったんだ」と思われるかもしれないが、戦略はそこで終わりではない。何故ならば『半沢直樹』は連続ドラマ。TBS以外の局は、その最終回の日がいつになるか、そして何分拡大するのか、最終回を迎える日までのコンテンツをどう当てていくか…毎日の数字とにらめっこしながら、局員の奮闘は続くのである。