疾患が直接の原因となっている冷えは別として、一般的な冷えには症状を増悪させる因子がいくつかある。

具体的には「恒常的な冷房使用」「冷たい飲食物の摂取」「果物や生野菜の摂取」「露出(特に首、手首、足首)の多い服装」「過度のストレス」「昼夜逆転の生活習慣」「運動不足」などが冷えを助長する。これらの主要因への対策を大塚医師に解説してもらったので参考にしてほしい。

冷える環境への準備を万全にする

「オフィス自体が寒い」といった環境的因子への対策は「冷える環境を変える」。つまり、冷房を緩めたり切ったりすることが重要となる。冷房の調節ができない環境下では、可能な限り首や手首、足首を冷やさないよう、レッグウォーマーやカーディガンを羽織ったり、場合によってはカイロや足温器などを用いたりしよう。

食事や生活習慣を改善する

冷たい物ばかりを食べたり飲んだりしていると、自然と身体が冷えてしまう。冷え症の人はできるだけ常温以上の温かい物を食べ、冷たいものを食べるときには温かいものと一緒に摂取するようにしよう。

また、夏の暑さで冷たい物ばかり飲み食いしていると、胃腸が冷えて弱ってしまい、食欲不振や倦怠感、むくみ、気力低下などを招き、夏バテの原因になってしまう。夏バテは夏だけではなく、秋口にじわじわと体調を悪くさせるため、注意が必要となる。

「東洋医学には、『食べ物には身体を冷やす物と温める物が存在する』との考え方があります。身体を冷やす食べ物には南国の果物や生野菜などがあり、身体を温める食べ物には生姜や山椒、花椒、ニッキ(桂枝)、紫蘇葉、肉(特に羊の肉)などがあります」

これらの体を温める食材を意図的に料理に用いるのもいいだろう。さらに体を温めるという意味では、毎日お風呂に浸かるという習慣もよい。暑い夏はどうしてもシャワーになりがちだが、熱すぎない程度のお湯で体の芯からきちんと温まることは、副交感神経を刺激して心身のリラックスにもつながる。

運動をして熱産生を増やす

熱産生を増やすとはすなわち、代謝をよくすることだ。そのために意識したいのが定期的な運動。体を動かすことで熱を作り出し、筋肉の収縮によるポンピング作用で全身の血流がよくなる。また、継続的な運動によって熱を作り出す筋肉量が増えていけば、基礎代謝アップにもつながるため、太りにくい体にもなる。

「運動は冷え症だけではなく、便秘や肩こり、動脈硬化、生活習慣病の予防・改善にもつながります。米国の高校での取り組みでは、朝の授業前に運動をした生徒の方が読解力や成績がよくなったとの報告がありますし、体を動かせば気のめぐりもよくなり、ストレスも発散されます」

体と心を「ちょうどよい状態」にすることが重要

漢方薬を用いる東洋医学は、環境や心身の状態などを総合的にみたうえでバランスを整え、中庸(ちゅうよう)と呼ばれるちょうどよい状態にもっていくことを目標としている。診察をしたら、「身体を温めるもの」「胃腸をよくするもの」「気や血のめぐりをよくするもの」「むくみを改善するもの」など、一人ひとりに合わせた漢方薬を処方。そのうえで漢方治療と併せて生活指導も行う。

「冷えの原因がある場合は、原因を改善する根本治療が最も重要ですが、漢方治療は、改善のお手伝いをしたり、よくなるまでの期間を短くしたりします。また、重篤なようにみえる状態でも、漢方薬を飲むことで胃の調子や気や血の巡りがよくなり、劇的に改善するケースもあります。冷えの原因の改善とともに、東洋医学も生活に取り入れていくのもよいでしょう」

※写真と本文は関係ありません

取材協力: 大塚静英(オオツカ・シズエ)

大学病院で内科、糖尿病内科を経たのち、漢方を学び、現在は、総合病院 内科で診療にあたる傍ら、漢方治療も行っている。 En女医会所属。

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。