10月14日は「鉄道の日」。1872(明治5)年の鉄道開業の記念日だ。そこで10月の3連休を中心に、全国の鉄道事業者は車両基地などで施設公開イベントを実施している。たとえば小田急電鉄は海老名車両基地を公開し、歴代ロマンスカーを並べてくれる。写真を撮ったり、車内を見学したりできる。敷地内では保線車両などのデモ運転も行われる。おもに深夜に作業する車両だから、昼間に間近で見られるチャンスだ。

普段、関係者以外は立ち入れない車両基地。その公開には安全への配慮や展示物の用意などで準備も大変だ。しかし鉄道会社としては、鉄道ファンへのサービスというだけではなく、沿線の人々に鉄道事業を理解してもらう重要な機会と考えている。

福島県にある車両展示施設には、東北・上越新幹線で活躍した200系も展示されているという(写真はイメージ)

ところが、JR東日本が福島県で保有する車両展示施設は、イベントの有無にかかわらず一般公開されていない。貴重な資料をパネル化して展示するほか、2013年に現役を引退した200系新幹線車両をはじめ、貴重な車両たちが眠っているという。行ってみたい。見てみたい。でも、門は固く閉ざされているという。

JR東日本は東京総合車両センターの公開イベントを行い、仙台の新幹線総合車両センターはイベント以外の日も展示スペースを見せてくれる。それなのになぜ、福島県の展示施設は公開されないのだろうか? 車両基地ではなく、もともと展示施設なのに……。

新潟県中越地震で脱線した「とき325号」が展示されている

一般公開されない展示施設。その理由は施設名に現れている。施設名は「事故の歴史展示館」だ。国鉄時代からの鉄道の重大事故に関する資料を集めた施設となっている。

JR東日本総合研修センター(福島県白河市)の敷地内にあり、開館は2002年。研修センター全体で、1年間に約2万5,000名の社員がさまざまなプログラムを受講している。展示施設も研修項目のひとつだ。一般客を接待する施設もなく、おそらく事故の凄惨さを伝えるような表現もあるだろう。したがって、もとより一般向けの公開は想定されていないという。そこで、JR東日本が公式サイトで公開している情報をもとにまとめてみた。

展示内容は1962(昭和37)年の常磐線三河島事故をはじめ、桜木町事故、信楽高原鐵道列車衝突事故、余部鉄橋列車転落事故など約30件を中心に、年表形式でおもな鉄道事故を紹介。展示内容は随時追加されており、JR西日本の福知山線列車脱線事故のパネルも追加されている。再現映像や模型も用意されているとのこと。事故当時の新聞記事や被害者の声を紹介する「報道と被害者の証言」コーナーもあり、被害者や被害者に近しい人にとっては辛い内容かも知れない。

2014年には、事故発生時の状態のまま車両を保存する「車両保存館」が開設された。ここに200系新幹線車両が展示されている。ただし、鉄道博物館にあるような「磨かれた美しい姿」ではない。2004年10月23日の新潟県中越地震で脱線した「とき325号」の事故時の様子を再現している。「とき325号」は1.6kmも脱線したまま走行したけれど、転覆しなかったために乗客乗務員全員が生還した。転覆しなかった理由として、雪害対策で床下を覆った車両構造や、防音壁や側溝に車輪が押さえられたためであることなどが説明されている。200系新幹線車両のほか、東日本大震災で被災した車両も追加されている。

「事故の歴史展示館」は事故の紹介だけでは終わらず、ATSの開発の歴史など、事故の教訓から生まれた技術や装置なども見学できるという。その内容から、鉄道ファンが趣味の延長で訪問する施設ではないことはわかった。しかし運輸業界や研究者にとっては興味深い施設である。せめて1日限定、人数限定で高額でも良いから公開してほしい。

ちなみに、JR東日本のパックツアー「びゅう」は2016年3月31日まで、「JR東日本グループ会社・JES-Net加盟会社限定 事故の歴史館展示館訪問パック」というツアーを実施している。日帰りで東京駅発着の場合は9,000円。仙台駅発着の場合は8,300円。JES-Netは「JR東日本安全ネットワーク」の略で、2004年にJR東日本と列車運行に直接かかわるグループ会社・パートナー会社によって結成された。2014年4月現在、36社が参加しているとのことだ。観光ではなく、研修旅行商品といえそうだ。

※写真は本文とは関係ありません。