普段利用している人にとっては当たり前だけど、よそから訪ねると「なんだコレは!?」とびっくりすることがある。たとえば、東京メトロ東西線の電車のある部分は、他の路線の電車に比べるとものすごく大きい。大きいことはいいことだ。大は小を兼ねる。さて、東京メトロ東西線の「大きなもの」とは何だろうか?

東京メトロ東西線は、中野駅と西船橋駅を結ぶ約30kmの路線だ。皇居の北側を通り、大手町、日本橋、茅場町などのオフィス街を経由する。まさに東京の中心を東西に貫く路線である。中野駅でJR中央線、西船橋駅で東葉高速鉄道やJR総武線に乗り入れている。地下鉄ではあるが、東側の南砂町~西船橋間は地上の高架区間となっている。

最混雑区間の「切り札」

さて、この東西線の電車が持つ大きなもの、それは乗降扉だ。15000系は2010年から投入された最新型の車両。乗降扉の幅は1,800mmもあり、東西線の主力車両05系より500mmも広くなっている。

東西線の広い乗降扉はこの形式が最初ではない。05系にも5編成だけワイドドア車が存在する。これはいわば試作車のような存在で、その後に製造された05系は普通のサイズに戻されている。ちなみに小田急電鉄でも、実験的にワイドドアが導入されたことがある。こちらは幅2mで、東西線よりも大きかった。しかし後に改造され、同形式の他の車両と変わらない幅になっている。

ところが、東西線の15000系でワイドドアが復活することになった。その大きな理由は通勤時間帯の混雑の緩和だという。

国土交通省が発表した「主要区間の混雑率(平成22年度)」によると、東西線の木場~門前仲町間の混雑率は196%で、大手私鉄の中で最も高い数字となっている。JRを含めても、総武線緩行線の錦糸町~両国間(203%)、山手線外回り上野~御徒町間(201%)に次ぐ数字だ。筆者もときどき東西線を利用しており、この混雑を体験している。東陽町駅などでは乗客整理係員がズラリと並び、「人間ホームドア」を形成する。圧巻の眺めである。

東西線と同様に混雑区間に挙げられていた路線、たとえば地下鉄日比谷線や東急田園都市線では、車両の扉の数を増やして対応した。一方、東西線は扉を増やさなかった。JRや東葉高速鉄道との相互乗り入れが理由だという。

扉の数を増やすとなれば、相互乗り入れ先の駅の案内標識を変更する必要があるし、他社の車両も扉の数を増やしたほうがいい。到着する列車ごとに扉の数が異なれば、乗客が混乱してしまい、かえってホームが混雑するかもしれない。東京メトロだけでは扉を増やす意思決定ができないから、自社で解決できる最も簡単な方法として、ワイドドアの導入に至ったわけだ。

従来の扉とワイドドアは、外観上は差が小さいように見える。だが実際に乗ってみると、視野いっぱいにドアが開き、びっくりする。いつもドアのそばに立つ癖がある人は、どうも身の置きどころに困って落ち着かなくなり、車内中央に入っていく。そんな効果もワイドドアの特長かもしれない。