「次は……です。お忘れ物ないようご注意ください」
列車の案内放送は車掌さんの大切な業務だ。しかし近年は車内放送の自動化が進み、プロのアナウンサーが担当している。あらためてじっくり聞いてみると、「どこかで聞いたような声だな」と思ったり、遠く離れた路線だと、「うちの近所の電車と同じかな」なんて思ったりする。最近では、黒部峡谷鉄道の車内放送に女優の室井滋さんが採用され、話題となった。その他の路線でも、タレントや声優、テレビアナウンサーなど、意外な有名人が関わっている。
たとえば、JR東日本の新幹線や特急列車の車内放送は明るいナイスミドルの男性。どこかで聞いたことがあるな……、と思ったら、テレビのニュースで活躍した人だった。この声の主はフジテレビの元アナウンサー、堺正幸氏(現在は同社のCSR推進室長)。堺さんは鉄道ファンとしても社内外で有名だ。かつて日曜日の朝に放送された番組『晴れたらイイねッ!』では、他局の番組名をもじった『堺の車窓から』というコーナーに出演し、ビール片手に、美人アナウンサーとともにローカル線を旅していた。羨ましい! と思った御仁も多いはず。
JR東日本の新幹線で英語音声を担当している女性はジーン・ウィルソンさん。彼女はボイスタレント事務所イストの所属だ。つくばエクスプレスや、JR西日本やJR北海道の空港連絡列車も担当している。また、歌舞伎座で貸し出される英語音声装置も担当。海外旅行客にはおなじみかもしれない。
東海道・山陽・九州新幹線の女性アナウンサーは女優の脇坂京子さん。新幹線に乗らなくても、脇坂さんの公式サイトのサンプル音声でいつでも聴ける。脇坂さんとペアを組む女性アナウンサーはシンガーソングライターのドナ・バークさん。日本のテレビドキュメンタリーのナレーション、アニメやゲームの声優としても活躍されている。参加作品は『魔法少女リリカルなのは』『サイレントヒル 2/3』『ファイナルファンタジークリスタルクロニクル』など。
身近なところで、東京メトロの車内放送は森谷真弓さん。彼女の声に癒されるビジネスマンも多いはず。筆者もあの声のファンで、電車の中で音楽を聞いていても、放送を聞きたくてイヤホンを外すほど。彼女は東京メトロが発足した2004年から現在も担当している。
以前、ラジオ番組に出演されたときに「当時はアナウンス学校の学生だった。最初に収録した路線から副都心線の収録までは4年も経っており、機材が良くなってきれいな声になった。そして少しオトナの声になっているかも」とエピソードを明かしていた。京成電鉄「スカイライナー」の声も森谷さんだ。
東京メトロの英語放送はタレントのクリステル・チアリさん。テレビの英語教育番組などで活躍されている。父はギタリストで、パソコン通信の黎明期を盛り上げたクロード・チアリさんだ。彼女はJR東日本の在来線や関東の大手私鉄のほとんどで英語放送を担当するほか、福岡市営地下鉄七隈線、名古屋を走るあおなみ線も担当している。
英語放送のシェアナンバーワンがクリステル・チアリさんとすれば、日本語放送のトップは西村文江さんと三浦七緒子さんが分け合っている。
JR東日本の通勤電車といえば声優の三浦七緒子さん。他にも新京成電鉄や仙台空港鉄道、横浜市営地下鉄グリーンライン、リニモなどを担当している。アニメ参加作品は『魔装機神サイバスター』『破邪巨星Gダンガイオー』など多数。
関東の大手私鉄は西村文江さん。FM放送「NACK5」のアナウンサーでもある。西村さんは都営地下鉄・東急電鉄・小田急電鉄・京王電鉄・江ノ島電鉄・箱根登山鉄道・千葉都市モノレール・JR西日本の一部、JR東海の在来線特急の一部など、広いエリアで採用されている。
このほか、期間限定の特別企画としてゆりかもめでフジテレビアナウンサーが期間限定で車内放送を担当したり、札幌市電の雪まつりに合わせた「雪ミク電車」で、初音ミクのボイスキャラクター、藤田咲さんが車内アナウンスに参加したり……、という企画もあった。
乗り慣れた路線だと聞き流してしまいがちだけど、車内放送も奥が深いぞ。