1997年公開の大ヒット作『タイタニック』から11年ぶりに実現したレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットの共演作『レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで』。レボリューショナリー・ロードと名づけられた住宅街に住み、誰もが羨む、若く美しく幸せそうな夫婦が、理想と現実の間で苦悩するヒューマンドラマです。

『タイタニック』では華奢で若く見えるディカプリオに比べ、どう見てもガッシリしたケイト・ウィンスレットに「いや、あなたが彼を守りなさいよ!」と突っ込みを入れたりもしたけれど、あれから歳月を重ねて34歳になったディカプリオは貫禄を増し、もう誰が見ても女を守れる大人の男へと成長。本作で第66回 ゴールデン・グローブ賞の最優秀主演女優賞にも輝いたケイト・ウィンスレットの繊細な演技力も必見!

予告編は、一組の男と女が出逢い、恋に落ちて、結婚をし、幸せな家庭を築いて、時として夫婦喧嘩をし――きわめて真っ当で、理想的な人生が描かれています……だが! だがしかし!! まずはご覧下さい。どうぞ。

一見、理想的な人生のひとコマひとコマに被せて挿入されるエイプリルの台詞は

「これが私たちが望んでいた生活?」

そう、これがこの作品の軸となる問題提起。

真面目に地味な仕事をこなすイケメンの夫と、家で子供たちの面倒を見る専業主婦の美しい妻。住む場所は郊外の新興住宅。少し盛り上がった芝生の上に立つ真っ白な可愛らしい一軒家。

何不自由ない暮らしの中で、育ってゆく不満と苛立ち。

「家族を持って子供が出来た瞬間、人生を諦めるというバカげた幻想……そんなの嘘よ」

そんな台詞を、幸せそうな情景に被せるからこそ、その美しいシーンがいかに虚構であるかが際立ちます。

この予告編はアメリカのオリジナル版に日本語字幕をつけたものではなく、オリジナル版を制作する際に作られた数パターンのうちのひとつ。映画予告編で使われる楽曲には

  1. 本編のテーマ曲を使用する場合
  2. 本編で使われていない楽曲を使う場合
  3. フィルムメーカーから予告編に使用できる楽曲を何曲か提供される場合

選んだ予告編映像に、今度はそれぞれ違う楽曲を合わせたものの中から、もっとも作品が持っているエモーショナルをうまく出せる楽曲のバージョンが選ばれたとのこと。

配給元であるパラマウント ピクチャーズでは、日本本社のクリエイティブの部署で作られた日本版予告編は必ず海外に送り、プロデューサーや監督、キャストなど、その時々で確認する人は違うもののフィルムメーカー側からOKが出たものが、やっと日本の皆さんの目に触れるというワケです。予告編とは、本来2~3時間の本編を観てもらうためのものなので、作品の一番良い部分や持ち味をいかに限られた時間に詰め込み、観客の方に理解してもらうかが鍵。本作の予告に関しては、

「この作品は特に内容も大変素晴らしいので過剰に演出するのではなく、作品自体の良さを明瞭に見せることが出来るものという点に注意を払いました。」

とのこと。最近の予告編に多く見られる過剰な演出に食傷気味の方も、納得の予告編、是非一度ご覧あれ。

本作の監督を務めたサム・メンデスは、ケイト・ウィンスレットの夫でもありますが、理想的な家族の崩壊を描き第72回アカデミー賞の主要5部門を総なめにした1999年公開の『アメリカン・ビューティ』の監督、その人。

予告編ではもの静かな音楽をバックに、主人公であるフランク(レオナルド・ディカプリオ)とエイプリル(ケイト・ウィンスレット)の諍いが展開しますが、途中で挿入される通勤ラッシュのシーン、灰色のスーツに身を包んだサラリーマンたちが駅を一堂に満たしている様は、窮屈な灰色の人生を暗示しているよう。日本のサラリーマンの通勤ラッシュに重なって見える人もいるのではないでしょうか?

この予告編の中、幸せそうな景色もそうじゃない景色も、全てが現実なのですが、どれも主人公たちだけを映していて、部外者は後姿や引いた姿ばかりなんです。ここで観客はフランクかエイプリルに自分を重ねてゆきます。

そこに「人生にチャンスは少ない。気がつけば平凡な人生を送っている」という言葉。 フランクが上司から言われる台詞ですが、この上司の言葉は観客にとっても第三者(部外者)の言葉であり、まるで自分がこの疑問を投げかけられているような気持ちになるわけです。この言葉に頷く人もきっと多いはず。

だって、多くの人が「本当はこうじゃない」とか「もっと違う自分になれたはず」という疑問を日常に抱えたことがあると思うから。自ら諦めたものを何かのせいにして暮らすことの、なんて平和な虚しさ。

「仕事と家庭、どっちが大事?!」なんて愚痴を言う妻に「お前たちのために毎日我慢して働いてるんだ」とか言い捨てちゃう夫婦喧嘩の王道があるけれど、実はそう思わないと自分の人生に窒息してしまうのかも。これから結婚する人は勿論、誰かのせいにして自分の平凡な人生に甘んじてる人には「あいたたた……」と、身につまされる映画です。まだ始まったばかりの2009年、人生を真剣に今一度見つめなおすきっかけに是非どうぞ。

かつらの予告編★ジャッジ

内容バレバレ度 ☆☆
本編との共鳴度 ☆☆☆☆
心にグサリ度 ☆☆☆

『レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで』は1月24日(土)丸の内ピカデリー1他全国ロードショー。

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春錵かつら(はるにえ・かつら)

映画予告編評論家 / ライター

CMのデータ会社にて年間15,000本を超える東京キー5局で放送される全てのCMの編集業務に3年ほど携わる傍ら、映画のTVCMについてのコラムを某有名メールマガジンにて連載。2004年よりフリーライターとして映画評論や取材記事を主とした様々なテーマを執筆しながらも大手コンピュータ会社の映画コンテンツのディレクターを務めたのち、ライター業に専念、現在に至る