元国税職員さんきゅう倉田です。無人島にひとつ持って行くとしたら「マイナンバーカード」です。

2017年に始まったこの連載は2024年の3月で終了となります。ずっと読んでくださった方や携わってくださった方に感謝しつつ、最後の筆を取りたいと思います。

法学を学ぶ意義

法は社会のあらゆる場所に関わっています。法と法学を知ることは、その社会を見る視点を手に入れることです。ある種のメガネであるといってもよいと思います。

反対に法と法学を知らなければ人や法人、国家で形成される社会を正しく捉えることができません。

法を知らなければ、社会との関わりの中で他者や自分の矛盾に気づかず、損失を被り、時間を浪費するかもしれません。己の愚かさを他者に示してしまうかもしれません。

いくつか例を挙げます。 政治家に対し以下のような苦言を呈する人がいます。

「与党は官僚の作成した法律案を通しているだけで、議員たちは特段何もしていない。野党は与党のやることを批判しているだけで生産性のない活動をしている。」

しかし、彼らには彼らの立場があります。議員たちは党議拘束があって政党の意向に逆らうことができません。

多数派である与党の通そうとする法案を野党が廃案にすることもできません。彼らは何をやっているのか。国会では審議時間獲得競争が行われています。

成立させたい法案は数多あるけれど国会の審議時間が決まっていて、優先順位がつけられています。

野党は時間を使うことで法案成立を妨げるという合理的な行動をしています。それは次の国政選挙で勝つための合理的な行動で、国会はそのためのアリーナだと考えられています。

法や法学を学ぶことで国会議員がなぜあのような行動をするのか理解でき、自らの考えを改善できます。

訴訟の金銭的側面のみが注目される

訴訟と聞くと、金銭が目的であるとみなす人は少なくありません。

日本人に根付いた法意識は訴訟を伝統的に"よくないこと"としています。訴訟の金銭的側面にだけ注目し、問題解決の機能や訴訟を起こして政策形成する機能が軽視されています。

何もお金を得るために行うのではなく、訴訟によって社会的な問題を浮き彫りにすることもできます。かつては「嫌煙権訴訟」によって、請求棄却となったものの国鉄車両内の分煙や禁煙が進みました。

日本人の伝統的な考えを形成した儒教では、法は良くないものとされ、法なしに問題が解決される方がより良いとされていました。つまり法は必要悪でした。

そのため、日本でも訴訟に至らずに問題を解決したり泣き寝入りすることが美徳とされることがあります。

実際に日常生活の中で起こったトラブルを訴訟で解決しようとすれば。白い目で見られることがあると思います。

日本人全体が法を学べば、このようなことも減るでしょう。

古くは「隣人訴訟」においても日本人の法意識の低さが見られたようです。

隣人訴訟からSNSでのふるまいを学ぶ

新聞等で大きく報道された隣人訴訟において、1審の判決後、原告と被告に対する中傷が行われたことで訴えを取り下げることとなり、当時の法務省は異例のコメントを公表しました(「隣人訴訟」については長くなるのでGoogleでお調べください)。

裁判を受ける権利というのは、発生した問題の事実関係に関わらず、基本的人権として認められています。

法を知らなければ、そのように理解することもできず、出来事の一部の側面からなされた報道を鵜呑みにし、自分が全て正しく理解したと誤信し、素直に率直に悪意なく他者を責めてしまう。

このような日本人の法意識の欠如は特定の個人ではなく日本人全体に見られ、現代社会におけるSNSでの誹謗中傷に通ずるところがあるように思います。

安くない訴訟費用やアクセスの困難さはあるものの、問題解決の手段として訴訟が広く受け入れられる社会であってほしいと思います。

法を学ぶことは損失を減らし、あなたの資産を守ることにつながります。「知らなくて損した」というのは、ほとんどが法や制度を知らなかったことで発生するからです。お金の学びだけでなく、法についても学ぶことを推奨します。

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