本連載の第60回では「これからの時代は個人にも差別化が求められる」と題し、リモートワークの浸透により社外との競争が激しくなる中で個人が生き残るために差別化が必要だというお話をしました。今回はそれを受けて、個人が差別化するための考え方をお伝えします。

これからの時代、社員が行っている仕事が業務委託やアウトソースされる可能性が益々高くなっていくと思われます。つまり、会社単位だけではなく個人単位でも社外との競争にさらされるようになるということです。

それは同時に、自分自身が競争環境で優位に立つことができれば社内での昇進・昇給が見込めるだけでなく労働市場で価値が上がって転職が容易になったり、独立してフリーランスとして活躍できるといったキャリアの可能性が拡がることを意味します。

「それでは皆様どうぞ頑張って差別化してください」

と言われたら何をしますか。そもそもどうやったら差別化できるのか分からないと戸惑う方もいるのではないでしょうか。

よくある回答は「自分が得意なことに注力する」です。得意なことにフォーカスするのは大事なことではありますが、それだけでは不十分です。自分が最も得意なことがあったとしても、必ずしもそこで差別化できるとは限りません。

同じ領域で周囲にもっと得意な人が大勢いたら埋もれてしまいますし、仮に自分がその領域では最も優れていたとしても、その価値を認めてくれる人がいなければ役に立たずに終わってしまいます。

このような残念な結果に終わらないために、以下に挙げる個人が差別化するための5つの問いを精査するとよいでしょう。

自分はどのような価値を提供できるか

これは入社試験の面接でもよくあるのですが、「私は〇〇が得意です!」と自信のスキルをアピールされても、元々そのスキルを欲している企業でなければあまり響かないのではないでしょうか。そうではなく、「私は〇〇のスキルがあるので、それを活用して御社の顧客のこのような課題を解決するのに役に立てます!」といってくれた方がよほど筋の良いアピールになります。

ここで大事なのは「私」ではなく「相手」から見た時にそれがどのような価値を持つのか、ということです。差別化を考える際には自分のスキルや知見、経験などが相手にとってどのような価値を生むのか、ということを自問自答することが大事です。

自分が提供する価値は誰を対象にしているか

価値が明確になったら、次に大事なのはそれを「誰に届けるのか」です。同じ価値でも対象とする人によって大きな価値に感じてもらえたり、全く価値を感じてもらえなかったりします。

例えばエクセルを使った基本的なデータ集計ができる人が「データを活用して売上やコストなどを素早く算出して経営の意思決定スピードを上げる」ことを自分が提供する価値として定義した場合、一般的な大企業にそれを売り込んでも「間に合ってます」と門前払いを受けるのではないでしょうか。

一方、エクセルを使える人がいなくて電卓に頼っている小規模な会社に行けば大いに価値を感じてくれる可能性があります。誰に対して価値を届けるのがよいのか、ということもしっかり考えましょう。

自分は価値をどのように訴求するのか

価値を認めてもらうには、それを相手にどのように伝えるかが鍵になります。

例えば先ほどのエクセルによるデータ集計にしても、例えば小規模な会社に行って突然「私のエクセルスキルを活用すれば御社の意思決定スピードを上げられます!」とアピールしても、それで価値を認めてもらえるかは怪しいでしょう。

それよりは、その場でデータを素早く集計して経営者が欲しい切り口で分析して見せるデモンストレーションをした方が遥かに効果的なのではないでしょうか。自分の価値と相手の関心に合わせた見せ方を心がけましょう。

その価値はどこでどれだけ求められているのか

少し視野を広げて、あなたが提供する価値をどれだけ多くの人たちが求めているのか、ということも考えてみてください。そもそもその価値を必要とする人がどこにも見当たらないのであれば、そこで差別化することは意味がありません。

例えば「パソコンのフォントを手書きで完璧に再現できるスキルを使って、プリンターが壊れた時にも手書きで印刷したのと同じ文書を再現する」という価値を訴求しようにも、恐らくどこにも需要がないので意味がないということになります。価値を考える際にはどこにどれだけの需要があるのか、について考えましょう。

その価値はどれだけ希少価値が高いか

その価値に対して多くの需要があったとしても、他にも同じ価値を自分と同等以上のレベルで提供している人が大勢いるような場合には熾烈な競争に巻き込まれることになるでしょう。言い換えると、それは「希少性が低い」状態です。需要に比べて供給が少ない方が希少性は増します。自分が提供しようとしている価値を提供している人たちはどれだけいるのかを調べて、希少性の高さも考慮することを忘れないようにしましょう。

個人として差別化して生き残るために、そもそも自分が提供することのできる価値について、これら5つの問いを自問自答して詰めることでご自身の差別化を成功させましょう。