本連載の第236回では「努力を最小限にしつつ成果を最大化する方法を考えよう」という話をお伝えしました。今回は計画にバッファーを持たせる意義についてお話します。
正月が終わり、二日間の平日を経て、ようやく連休明けから本格的に仕事復帰される方も多いかと思います。SNSでは「今年こそ痩せる!」とか「今年は副業を始めます」といった新年の抱負を目にする機会が増えました。おそらく読者の皆様の中にも、すでに新年の抱負を宣言して、その実現に向けた計画を立案中という方もいるでしょう。
それでは、これまでに新年に立てた計画が完全に計画どおりにいったことはありますでしょうか。おそらく一部の例外を除いて「志半ばでとん挫した」とか「どうにか達成はできたけれど、かなり無理をした」ということが多かったのではないでしょうか。
生きていれば、自分や会社を取り巻く環境は常に変化にさらされます。その中には全くの想定外のことも必ず含まれます。それは当然、年初に立てた計画の前提には入っていなかったはずです。
直近だけでも、新型コロナウイルスの大流行と緊急事態宣言の発出、ロシアによるウクライナ侵攻、半導体の供給不足、歴史的な円安と物価の高騰、生成系AIのブレイクなど、社会的にインパクトの大きい大規模な変化が起こっています。
また、それに加えて個人的にも自分や家族の怪我や病気、急な転勤や転職など、もともと予定していなかったことは日常的に発生するでしょう。
せっかく年初に抱負を実現するための計画を立てたとしても、そうした想定外の事態の発生によって年の途中で諦めてしまうのは残念なことです。
そこで、年初に立てた抱負を実現する計画を立てる際にはバッファーを持たせることをお勧めします。バッファーとは、ゆとりや余裕のことで、計画に含めることで抱負を実現する可能性を高めることにつながります。そこには2つの理由があります。
1. バッファーを持たせることでリソースのひっ迫を回避できる
計画に全くバッファーがないと、日常的に計画の遂行に全力で取り組んでいる状態になります。そのこと自体には問題はないのですが、そこに「こどもの急な発熱により家で看病しなくてはならなくなった」とか「職場の同僚がインフルエンザで数日間、仕事をカバーしなければならなくなった」といったイレギュラーが発生した途端に、計画の遂行を一時中断するか、全力を上回る負荷をかけるかという選択を迫られます。無論、前者を選んだ場合でも計画の遅れを取り戻すために、イレギュラー対応後に無理をすることになってしまいます。
そして、無理をすれば後で体調を崩してしまったり、精神的に疲れて「もう年初の計画なんてどうでもいい」とやめてしまったりすることになってしまいます。しかし、あらかじめ計画にバッファーを含めてさえいれば、イレギュラー対応時には計画の遂行を一時中断しても、バッファーを使って後から無理なく遅れを取り戻せます。
2. バッファーを持たせることで計画の柔軟性が増す
計画に修正はつきものです。そもそも最初に立てた計画が何の落ち度もなく完璧に仕上がることはめったにありません。特に一年もかけて完遂するような長期的な計画であれば、実行していく中で「もっとこうしたほうがいいな」と計画自体を見直して修正するのは自然なことです。
ところが年始に立てた計画にバッファーがないと、100%の力を常に計画の「実行」に費やしているために、計画の見直しにまで気を回す余裕がありません。また、仮に軌道修正の必要性に気が付いたとしても、バッファーを含めず緻密に立てた計画を修正するのには大きな負荷がかかります。しかしその負荷をカバーするだけのゆとりもない、という矛盾に陥ってしまいます。
しかし、当初立てた計画にバッファーがあれば、そのバッファーの間に「今後の計画はこのままでよいのか、それとも修正すべきか」とじっくり考える時間が生まれます。もちろん、修正が必要と判断した場合には、そのための時間も確保できます。
そして、修正の際に「これまでのタスクに加えて追加のタスクが必要になった」という場合でも、そのあとのバッファーで、ある程度は吸収できるはずです。無論、それによって残りのバッファーが全くなくなってしまうのであれば、それはそれで問題です。替わりに何か別のタスクを減らすなどして、バッファーは必ずゼロにならないようにしましょう。
年の初めに抱負を掲げ、それを実現するための計画を立てることはとても素晴らしいことです。しかし、計画は常に100%の力で最後まで遂行しなければならないような余裕のないものにするのはやめましょう。もしあなたが計画を立てるのであれば、その計画にはバッファーを盛り込んでください。それによって無理なく抱負の実現できる確率を上げられるはずです。本稿が、ご自身の計画を立てる際にご参考になれば幸いです。