本連載の第216回では「DXを成功させるために押さえておきたいポイント」という話をお伝えしました。今回は「コスパの高い働き方を実現するための考え方」についてお話します。
「おれ、ここ数日ろくに寝てないんだよね」と、睡眠を削って仕事をしていることを誇らしげにアピールしてマウントを取るのが当たり前だった時代はとうに過ぎ去り、短時間で成果を上げて定時で帰るワークスタイルの方がかっこいいと言われることが多くなってきました。
企業の側からしても、残業に対する規制が厳しくなったり、長時間労働をさせる企業は「ブラック企業」と揶揄されて社員の採用に支障が出たりするケースもあったりして、今では多くの企業で「残業はほどほどに」という方針になっているようです。
しかし、一人のビジネスパーソンとして「ただ労働時間を短くすればいいのか」というと、そうでもないと私は考えます。もし、これまで毎日2時間残業をしている人が、その2時間の残業をやめて定時で帰るようになったとしても、それで成果も2割減ってしまうのではあまりよろしくありません。
せっかくなら残業を減らしても、これまでと同等の成果を出せるようになって自分自身の市場価値が上げた方がよいのではないでしょうか。それはもちろん雇う側の企業にとってもプラスになるので、胸を張って昇給や昇格などを求めることができますね。
それでは、コスパの高い働き方をするにはどうしたらよいのでしょうか。以下、コスパを上げるための3つの考え方をお伝えします。
1. ゴールから考える
1つ目は「ゴールから考える」ことです。あなたは仕事を始める際、どのように作業計画を立てて考えているでしょうか。よくあるのは、「タスクAをやって、次にBをやって、Cをやって……最後にGをやって完了!」と作業手順を最初から順番に考えて計画に落とし込んでいくことです。
えっ! それのどこがいけないの?と思われたかもしれませんね。最初から順番に考えることがあまりにも一般的なので無理もありません。確かに作業のステップを一から順番に考えていっても最後にゴールにたどり着くことはできるかもしれません。しかし、それが果たして「最短ルート」なのでしょうか。ゴールを見据えないで一から考えてしまうと、途中で余分な作業が入ってしまうことがあります。それはたとえば、建物の完成形をイメージせずにレンガを積み始めるようなものです。ひょっとしたら最終的には目的を達成できるかもしれませんが、余分に時間がかかってしまうのではないでしょうか。
その一方、ゴールを見据えて「ゴールを達成するためには何が必要か」というのを徹底的に考え抜いて、それをタスクに落とし込むようにすると最短ルートでゴールを達成できる道筋を描くことができます。つまり、「ゴール→最後のタスク→その前のタスク→……→最初のタスク」という順番で描くのです。恐らく最初は慣れないかと思いますが、その効果は絶大なのでぜひやってみてください。
2. 全体から考える
2つ目は「全体から考える」ことです。タスクの対象範囲を考える際、つい自分がよく理解できている範囲や馴染みのある範囲から考えてしまうということはありませんか。そうすると、当該領域においては確かに成果を上げることができるかもしれませんが、それが全体最適と言えるかどうかは甚だ疑問ですね。
そのタスクの範囲は「なぜその範囲なのか?」「それが最適解なのか?」「漏れはないのか?」といった疑問に明確に回答するには、最初に「全体」から考えることが必要です。
それはたとえば会社全体、部署全体、或いは全エリア、全期間、全商品、全顧客など、一旦視野を拡げて「全体」が何かというのを描いてから、自分或いは自部門がどの範囲に対応するのがベストなのか、というのを考えるということです。
そうすれば、タスクにおいて致命的な漏れの発生を回避できますし、「なぜその範囲なのか?」という疑問に対しても自信を持って回答することができるはずです。
視野を拡げて「全体は何か?」というところから考える癖をつけて、効率化と全体最適を両方実現しましょう。
3. 抽象化して考える
そして3つ目は「抽象化して考える」ことです。これは上記2つと比べて難易度がぐっと上がりますが、その効果は抜群です。思考には2つの方法があり、「個別の事象を具体的に」考える方法と、「物事の背後にある論理や共通点、特徴などに目を向けて抽象的に」考える方法があります。
目の前の顧客や案件、或いはタスクのことに特化して考えるのは前者で、セグメントごとに顧客の特徴を捉えたり、複数の案件をパターンに分けて傾向と対策を練ったりするのは後者です。
そしてコスパが高いのは、個別具体的なものを1個1個別々に考えるより、ある程度の枠でグループ化して考える方です。たとえば1万人の顧客に対して別々に提案内容を考えるのは途方もないですが、顧客の特徴別に10通りにグルーピングして、それぞれごとに提案内容を考えるのであれば、1000倍も効率が良くなるわけです。これが抽象化して考えることの威力です。
もちろん、抽象化して考えるだけではなくて個別具体的に考えなければならないケースもありますが、それはどちらかだけが良いというのではなく、両方必要なのです。ただ、具体的に考えるのは割と大勢の方ができる一方、抽象化して考えるのは慣れていない方が多いので、そこができるようになれば組織の中でも重宝される存在になれるでしょう。
ここまで、コスパの高い働き方を実現する考え方として「ゴールから考える」「全体から考える」「抽象化して考える」という3つを紹介しました。これらを少しでも意識して仕事をすれば必ずコスパが上がるはずです。慣れるまでは時間がかかるかもしれませんが、ぜひトライしてみてください。