本連載の第210回では「会議を効率化する4つの方法」という話をお伝えしました。今回は物事を抽象化して考える「抽象化思考」で業務効率を上げる方法についてお話します。

目まぐるしく環境が変わるビジネスの世界において、変化についていくには既存の業務を効率化して、空いた時間で新しい取り組みにチャレンジしたり、情報収集やリスキリングに充てることが必要です。そこで本稿では「抽象化思考」を使って業務効率を上げる方法をお伝えします。

抽象化思考とは、具体的な状況や状態から一歩引いて考え、それらを一般的な概念や原則に置き換える思考法のことを指します。例えば事務職の業務の中に「報告書作成」というタスクがあったとします。

この「報告書作成」という具体的な業務を抽象化すると「情報を収集し、整理し、分析し、それを他者に伝える」といった一連の作業を指すことになります。このように物事を抽象化することで、様々な業務に共通する本質的な部分を捉え、効率的な改善を図ることが可能になるのです。それでは、抽象化思考を使った業務効率化の進め方を見ていきましょう。

1. 業務プロセスの可視化

抽象化思考を用いた業務効率化の最初のステップは、現在の業務プロセスを可視化することです。これにはフローチャートやダイアグラムなどを使用して、業務がどのように進行し、どの部分で時間がかかっているのかを明らかにします。例えば、月次報告の作成フローを可視化すると、「データ収集」「データ分析」「レポート作成」「レビュー」「修正」「最終承認」などのステップが明確になります。この全体像を掴むことで、どの部分にどれだけ効率化の余地があるのかが見えてきます。なお、業務プロセスを可視化する際には業務手順を一挙手一投足まで細かく記述すると全体像が見えなくなってしまうので気を付けましょう。

2. パターンの抽出

次に、業務プロセスからパターンを抽出します。例えば、データ収集のステップでいつも同じようなエクセル操作が繰り返されているならば、それは自動化の可能性がある手順と言えます。また、レビューや修正が何度も繰り返されている場合は、最初のレポート作成のクオリティが問題かもしれません。このようにパターンを見つけることで、業務の改善ポイントが見えてきます。パターンを抽出する際には、そもそもどのようなパターンがありそうかというのを論理的に出した上で、現実の業務がどのパターンに該当しそうかというのを当てはめていくのがよいでしょう。

3. 不必要な手順の削減

不必要な手順や無駄を見つけ出し、削減することも効率化の鍵となります。例えば、レポートの承認プロセスが複雑で、多くの人が関与している場合、それは不必要な時間と労力を浪費している可能性があります。また、同じデータを何度も手入力しているならば、それは一度入力したデータを適切に管理し再利用することで解消できます。抽象化の視点を持つことで、このような不必要な手順を見つけ出し、業務効率を向上させることが可能になります。但し、一旦不必要と判断した手順についても、それが意外なところに影響をもたらすことがあります。そのため、その手順をなくした場合の影響の範囲や程度についても事前に確認しておくことをお勧めします。

4. 自動化の導入

特に反復的なタスクについては、自動化により大幅な時間の節約が可能です。例えば、定型的なレポート作成や定期的なデータ集計などは、エクセルの関数やマクロ、或いはRPA(Robotic Process Automation)などの技術を利用して自動化することが可能です。また、AIを活用してデータ分析を自動化することも可能です。これらの技術を利用することで、反復的な作業から解放され、より高度な業務に専念することができます。なお、自動化する際には、後から誤った手順や判断で自動処理をしていた、ということにならないように判断ロジックや処理方法などが誤っていないかを入念にチェックし、テスト運用で検証することを忘れないようにしましょう。

5. 定量的な評価

抽象化した業務プロセスから洞察を得た上で、その効果を定量的に評価します。例えば、自動化の導入によって何時間の作業時間が削減されたか、また、無駄な手順の削減によってどれだけ迅速に業務が完了するようになったかなどを具体的に評価します。この定量的な評価は、取り組みの成果を可視化するだけでなく、上司や他部署への報告にも役立ちます。なお、定量的な評価で不十分な点があれば、それを素直に認めた上で原因を追究することも必要です。

6. 継続的な改善

そして最後に、これらのフィードバックを用いて業務プロセスを継続的に改善します。抽象化思考により、何が問題で、何が改善の余地があるのかが見えやすくなります。そしてそれを基にした改善の積み重ねが日々の業務を劇的に変えていくでしょう。

「抽象化思考」は、単なる理論的な概念ではなく、具体的な業務改善のための強力なツールです。抽象化思考を活用すれば、一見単調に見える事務職の業務も劇的に効率化され、より価値ある作業に時間を費やすことが可能になります。抽象化思考を駆使し、自分の業務を次のレベルへと引き上げてみませんか。