本連載の第133回では「業務改善などの変化への抵抗を乗り越える方法とは」と題し、変化に対して抵抗を受けた際の対応の仕方をお伝えしました。今回も関連する内容として変化に否定的な意見が出た際に、むしろそれを成功に導く力に変えるための切り替えし方をお話します。

刻々と変わる新型コロナウイルスの感染状況、多様な働き方へのニーズの高まり、デジタル化の要請などに伴い、どの企業もこうした環境の変化に適応することが求められています。現状維持では生き残れないことを、情報感度の高い多くのビジネスパーソンは理解していると思います。そして、この時代の荒波を越えるための取り組みを推進しているというところが増えてきています。

しかし、こうした前例のないことをやろうとすると「そんなこと、やるだけ無駄ですよ」といった否定的な意見が出てくるのが世の常です。正直な話、かつて私はこういう人が苦手で、「自分たちが変わらなければ生き残れないのは分かっているはずなのに、なぜ真っ向から反対しようとするのか理解に苦しむ」という想いでした。そのため、こういう否定的な人はできるだけ取り組みの中心から遠ざけるようにしていました。

ところがその後の多くの取り組みを通じて、「実は否定的な意見を言う人は貴重な存在なのでは」と認識を改めました。そのような方と腹を割って話をよくよく聞いてみると多くの人が、「自分の会社をどうにかしないといけない」という強い想いを持っていることが分かったのです。ただ、やろうとしている取り組みが現場の環境にフィットしない要因が見えていたので指摘しただけということでした。

そういうことであれば、否定的な意見は「取り組みの阻害要因」ではなく「取り組みを成功に導く促進要因」として扱うべきではないか、と180度見方を変えなければなりません。

そこで、ここでは新しい取り組みに対して他者から否定的な意見を言われた際に、それを阻害要因から促進要因に変えるための切り替えし方の具体例をお伝えします。

ケース1.

否定的意見: 「そんなことをやろうとしても、どうせ〇〇のせいで上手くいきませんよ」
切り返し: 「それでは、その〇〇を解決すれば実現可能ということですね」

「どうせ上手くいかない」ということだけにフォーカスして感情的に反発してしまっては、せっかく「上手くいかない要因」という貴重な情報を提示してもらえているのに、その詳細を聞きそびれてしまいます。それなら「その阻害要因を取り除けば実現に一歩近づくということですね」と対応した方が建設的です。

ケース2.

否定的意見: 「そんな面倒くさいことはできないし、やりたくない」
切り返し: 「確かにそうですね。では面倒くさい原因を取り除けば可能になるし、やりたくなるということですね」

これも一つ目と似ています。面倒くさいことはやりたくないのが人の常です。新しい取り組みが面倒くさいのだとしたら、せっかく導入しても現場に定着しない可能性があります。それならば、その面倒くささを明らかにして、取り除く方向に持って行った方が定着の確立を上げることができるでしょう。

ケース3.

否定的意見: 「そんなことやってもどうせ無駄だよ」
切り返し: 「無駄になっては困りますね。なぜ無駄になってしまうのか、考えをお聞かせくださいますか」

これは冒頭に挙げたのと同じものです。本当に無駄だと思っているのなら、2つの理由で放置するのは得策ではありません。1つ目は「無駄になってしまう理由が妥当だった場合、そのままでは本当に無駄になってしまうから」で、2つ目は「仮に無駄になってしまう理由が妥当ではなかったとしても、本人から前向きな協力を得られずに失敗する確率が上がるから」です。

そのため、ここはとことん突っ込んで無駄になるという主張の根拠を聞くことが重要です。たとえその理由が妥当ではなかったとしても、他の何かしらの不満が明らかになることがよくあります。それはそれで対処が必要なので、やはりまずはしっかりと話を聞くことが肝要です。

ケース4.

否定的意見: 「そんなことより、もっと重要なことが他にあるでしょう」
切り返し: 「それは初耳でした。もっと重要なことについて具体的にお伺いできますか」

これは取り組みの優先順位について疑問を呈されたケースです。相手の意見が正しければ、進捗次第ではありますが、より重要なことを優先して対応しなければならないかもしれません。もちろん、今進めようとしている取り組みが既に後戻りできない状況であればどうしようもないかもしれませんが、もしそうであったとしても「他のもっと重要なこと」について掘り下げて聞いておくべきでしょう。

それが本当に重要なことであれば今の取り組みを中断してでも急いで対応すべきかもしれませんし、それほど重要ではないと判明した場合でも相手が「自分の話をしっかり聞いてくれた」という認識を持つことがその後の関係性にプラスになることが期待できます。もちろん、後者の場合でも聞いたことについてどう対応するか/或いはしないのか、その理由と併せて報告するという真摯な対応が求められます。

新しい取り組みや変化に対して否定的な人というのはどの組織にもいるものです。しかし、その人たちの多くは悪意を持っているのではなく、リスクに対して敏感であったり、マイナス面に注意が向きやすいタイプであったりするだけです。そうした意見は邪魔に感じて敬遠しがちではありますが、実は取り組みを成功させるのに重要な役割を担っていることがあります。そこを理解して、逆に取り組みを成功に導くために役立てるような対応をしましょう。ここで挙げた例がその一助となれば幸いです。