本連載の第106回)では「フレームワークを用いた問題解決の進め方とは」と題し、フレームワークを用いた問題の原因究明と打ち手の抽出についてお話しました。今回はフレームワークを議論のコントロールに使う方法についてお伝えします。

「会議がいつも長引いて、自分の作業が全然進まないんですよ」。

多くの組織で、こうした声を聞いてきました。そもそも会議の目的や会議で達成すべき目標が定まっていなかったり、議題が決まっていなかったりするという場合も多々あります。それに加えて、議論が滞ったり散らかって収集がつかなくなったりすることで長引いてしまうというケースも珍しくはないようです。そういう時に威力を発揮するのがフレームワークです。

フレームワークは問題解決や戦略立案、ロジカルシンキングなどを語る文脈で紹介されることが多いので、「なぜここでフレームワーク?」と疑問を持たれる方もいるでしょう。しかしフレームワークそのものの用途をそれらに限定しなければならないというルールはありません。それどころか複数人で議論するときにこそ、フレームワークを使うメリットを最大限に活かせるといっても過言ではないでしょう。

それでは議論をコントロールするのにフレームワークをどのように使えるのでしょうか。そのキーワードは「集中」「拡散」「整理」の3つです。

1. 議論を集中させる

会議を長引かせる要因の中でもよくあるのが、話があちこちに飛び過ぎて収集がつかなくなってしまうということです。話が拡がり過ぎることで討議すべき議題から逸れて、議論が前に進まなくなってしまうという状況です。

例として、とある企業の事業拡大をテーマにした経営会議の様子を見てみましょう。

Aさん「これからは新しい顧客を積極的に開拓していくべきだ」
Bさん「それよりも新商品の開発にリソースを割いた方がよいでしょう」
Cさん「リソースを割くと言っても、人手不足なのでそんな簡単にはいかないですよ」
Dさん「とすると喫緊の課題は商品開発で即戦力になる人材の採用に向けたプロセス構築ですね」

最初は事業拡大の方針について話し合っていたはずなのに、いつの間にか人材採用に話がすり替わってしまっています。そもそも事業拡大に向けて取るべき戦略を決めないといけないはずなのですが、そこを決める前に手段にまで議論が拡散してしまっているのが原因です。

こういうときはアンゾフのマトリクスというフレームワークが役に立ちます。これは企業の成長戦略を議論する際によく使われるもので、縦軸に「既存市場」「新規市場」、横軸に「既存商品」「新規商品」と置いて作るフレームワークです。それぞれの軸を掛け合わせて以下4つの戦略について考えます。

(1)市場浸透(既存市場×既存市場)「今の顧客に今ある製品をもっと売る」
(2)新製品開発(既存市場×新規製品)「今の顧客に新製品を売る」
(3)新市場開拓(新規市場×既存製品)「新しい顧客に今ある製品を売る」
(4)多角化(新規市場×新規製品)「新しい顧客に新製品を売る」

まずはこの4つの中のどこを目指すかについて徹底的に議論して決定することに集中して議論します。それが固まってから初めて、実現する方策について議論するというのが効率的な進め方と言えるでしょう。

2. 議論を拡散させる

こちらは参加者の意見があまりに偏ってしまっているという状況です。ファシリテーターとしては、もっと他に重要な観点があるような気がするものの、必要な観点を漏れなく提示するだけの自信もありません。「もっと別の見方もあるのではないか」と言うだけでは具体的に示せないので進展しないという状況です。

ケースとして、ある企業の新商品企画会議の場でのやり取りで考えてみましょう。なお前提として、上層部からは「他社との差別化ができる商品を企画するように」と言われています。

Aさん「差別化といえば、うちの商品は競合他社の製品より電池が1.5倍長持ちするというのはどうでしょう」
Bさん「それはいいですね、消費者の利便性が上がりますね。さらに、記憶容量を従来製品の20%増量させましょう」
Cさん「それに加えて処理速度を10%上げればもはや敵なしですね」

仮にこのようなやり取りを全て実現したとすると、当然ながらコストは上がりますし総花的な価値向上で競合他社に対する差別化が本当に実現できるかは疑問が残ります。

こういう時には競争に打ち勝つのではなく、競争を避ける「ブルーオーシャン戦略」で紹介されている「4つのアクション・フレームワーク」が使ってみるとよいでしょう。それは商品やサービスが提供する価値を「増やす」「減らす」「付け加える」「取り除く」という4つの観点で考えるというものです。

このフレームワークを使うことで、単に既存の付加価値を増やすのに加えて、これまで当たり前だと思って提供していた付加価値を減らす、或いはなくすことで差別化を実現し、顧客満足度とコスト低減を同時に実現させることができるかもしれません。

3. 議論を整理する

顧客からのクレーム対応を如何に減らすかという議論をしているときに、参加者から次のような意見が出たとします。

Aさん「納期が遅すぎるのが問題だ」
Bさん「いやいや、それ以上に最近問題になっているのは商品の欠陥の方じゃないですか」
Cさん「広告での高級感のあるイメージと実物に差があり過ぎるという声がSNSで話題になっていますよ」
Dさん「他社でもっと安い商品が出た影響もあるんじゃないですか」

様々な観点から意見が出るのは結構なことですが、このように参加者が好き勝手に意見を言って平行線をたどるのではいつまで経っても会議が終わりません。

こういうときは、マーケティングの4P【Product(商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販売促進)】というフレームワークが使えます。これら4つの枠をホワイトボードなどに書いて、Aさんは流通、Bさんは商品、Cさんは販売促進、Dさんは価格とそれぞれの意見を該当する枠に当てはめて整理します。

その上で、このフレームワークを使って4つの要素を1つずつ検討し、クレームの要因として対処すべき優先順位を決めるという進め方を提示します。それによって観点の重要な漏れを防ぎつつ、1つずつ丁寧に議論することができるでしょう。

本稿で挙げたケースはあくまでも例ですが、議論をコントロールするためにフレームワークを使う際のイメージを持っていただけていたら幸いです。議論がうまく進まないときに是非活用してみてください。